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第110話 皇女リアーネ

 武装解除した守備隊を引き連れてキュベリー城の中に入ったアスター騎士団連合軍は、城へのメテオ攻撃から脱出して庭に避難していた人達を全員拘束した。


 改めて城を見ると、上部1/3は岩石でぐちゃぐちゃに破壊されているが、その下の部分は健在である。


「守備隊長、まだ城の中にいる人達を救出して、謁見の間に集めなさい」


「はっ! かしこまりましたアスター侯爵閣下」


 そして騎士団の一部を城に残して城の制圧を進めると、残りを領都の制圧に向かわせ、ローレシアはアンリエットや親衛隊、それにランドルフ王子を連れて城の謁見の間に入っていった。


 城の中にはやはり騎士は一人もおらず、領政を司る文官以外は執事やメイドだけで、守備隊が彼らを謁見の間に次々に集めていった。


 その様子を見ながら謁見の間の最奥にある当主の椅子に腰をおろしたローレシアは、この部屋の豪華さを見てため息をついた。



(この部屋、まるでフィメール城の王家の謁見の間にそっくりね。キュベリー公爵はこの椅子に座りながら王様にでもなったつもりでいたのかしら)


(たしかにすごく立派だよな。少なくともソーサルーラの王宮の謁見の間よりも広いし。アスター城に比べたら一回りも二回りも広いな)


(そうね。こんなところに座っていると、わたくしもなんだか女王様になった気分になるわね)


(ああ、ローレシアにピッタリだよ)


(なによ。またわたくしをバカにするつもりね)



 そんな話をしている間にも、守備隊が続々と城内の人達を謁見の間に連れて来る。それを薔薇騎士隊が順番に持ち物をチェックし、武器を没収した後、簡単な拘束具を付けて行く。


 拘束された彼らは、玉座のように豪華な椅子に深く腰を下ろして自分達を見下ろすローレシアに、屈辱を感じつつも大人しく指示にしたがっていたが、たまに暴れたり怒鳴り散らす者が現れると、ローレシアは容赦なく地下牢へぶち込むよう守備隊に命じた。




 そして守備隊長が公爵家の人間の一人を連れて謁見の間に現れた。長男フィリップの妻でブロマイン帝国皇帝の腹違いの姉、リアーネだ。


 両手を後ろ手に縄で縛られたリアーネが、守備隊長からアンリエットへ身柄を引き渡されると、アンリエットはリアーネの身体の隅々まで調べ、武器を所持していないことを確認した。その後、背中を思いっきり蹴とばしてローレシアの足元に転がした。


「きゃあっ! ・・・あなた、このわたくしを誰だと思っているの。無礼な仕打ちはおやめなさいっ!」


 リアーネはそう言ってアンリエットを怒鳴りつけるが、アンリエットは無表情にリアーネを見下すだけで何も答えない。


 リアーネは憎しみのこもった目で今度はローレシアを睨み付けると、ローレシアはそれを軽く受け流してリアーネにこう告げた。


「キュベリー公爵領はアスター家が占領いたしました。たった今からこの城も、この領都もすべてこのわたくしローレシア・アスターの所有物です。そしてあなたリアーネ・キュベリーはわたくしの城にとっては招かれざる客。国王の勅令により公爵家の人間は戦いの中で処刑してもよいことになっておりますが、あなたについてはどういたしましょう」


 ギリッ


 リアーネは奥歯で怒りを嚙みしめたが、すぐに表情を消すと見下すような口調でローレシアに返答した。


「キュベリー騎士団が不在の隙に領地をかすめ取ったコソ泥のくせに、ホントいい気なものですね。たった500騎の騎士団など、キュベリー騎士団が戻ればたちどころに制圧されてあなたなんか縛り首よ。いいえもっとひどい辱めを受けることになるわね。フフフ」


「あら? わたくしの身を案じていただいているようですね。リアーネ様は随分とお優しい方のようですがご心配は不要です。なぜならそのキュベリー騎士団をここにおびき寄せるために、こんな品のないキュベリー城を手に入れたのですから。あら、口が滑ってしまいました。この素敵なお城は、あなたのような素敵な皇女様にお似合いでしたね。ウフフフ」


「品のないですって! もう一度言ってみなさいよ! この女・・・」


「そんなに怒らないでくださいませ。わたくし、あなたには利用価値があると思ってますので、すぐに処刑はいたしません。実はあなたにお願いしたいお仕事がございますの。人質という簡単なお仕事です」


「人質・・・」


「あなたはキュベリー家の人間である前にブロマイン帝国の皇女。ですので今王都に展開中の帝国軍を撤退させるための交渉のカードに使わせていただきます」


「ウフフフ」


「何がおかしいのでしょうか」


「あなたは何もわかっておられないのですね。わたくしが交渉カードですって? あなたは帝国を甘く見過ぎです。そのあたりは見た目通りのお子様なのね」


「見た目通りのお子様ですって! これでも今年成人するし、わたくしはもう立派な大人です。・・・確かにあなたとは身体のスタイルがちょっぴり異なりますが、こんな時に胸の話なんか関係ないでしょ!」


「・・・あなたこそ何をおっしゃってるの? わたくし胸の話なんて一言も申し上げていないのですが」


「くっ!」


 ローレシアが自爆してしまった。



(・・・・これは俺のせいだな。すまんローレシア、胸の大きさなんか気にするな)


(・・・本当に恥ずかしい)


(でも俺は、胸の小さなローレシアが大好きなんだ。だからそんなことは気にせず、堂々としていてくれ)


(ナツは胸の小さなわたくしが好きなんだ・・・よかった。わたくし、もう少し頑張ってみますね)



「こほん・・・一応おたずねします。あなたは自分に人質の価値がないとおっしゃいましたが、どうしてでしょうか?」


「あなたに答える必要はございません。わたくしなど交渉カードになりませんので、気に入らなければ今すぐわたくしを殺しなさい」


 リアーネは覚悟を決めた真っ直ぐな目でローレシアを見つめていた。その目に思うところがあったのか、ローレシアは、


「あなたのおっしゃりたいことは承知いたしましたがカードとして使うのはあくまでもこのわたくしです。あなたにはこのままアスター騎士団に帯同いただき、なんらかの形でわたくしの役にたっていただくことにいたします。アンリエット、リアーネを拘束して薔薇騎士隊に帯同させなさい」


「はっ!」






 それから城内に残っていた文官たち全員を城の大広間に軟禁し、領都をアスター家が占領した事実を映像宝珠に記録した。


「・・・わたくしは、ローレシア・アスター侯爵です。キュベリー城とその領都はすでにアスター家が占領いたしました。ここはもうわたくしの所有物となりましたので、キュベリー公爵のようなエッチな殿方は出入り禁止でございます。もちろんマーガレット様のような暗殺者もお断りです。それからブロマイン帝国皇女でキュベリー家長男フィリップ様の正妻リアーネ様はわたくしが丁重に保護しております。ブロマイン帝国の司令官はこの事実をよく吟味いただきたく存じます。それではご健闘お祈り申し上げます・・・」


 ローレシアが王都に向けて配信した映像宝珠には、ローレシアの警告のメッセージとともに、破壊されたキュベリー城の前で縄に拘束されたリアーネと、その隣に立つローレシアの姿が克明に映し出されていた。


 ローレシアはこれを王家やキュベリー公爵、王都の主要貴族家だけでなく、ブロマイン帝国の司令官にも送りつけたのだ。




 フィメール国王はその映像宝珠を見て大笑いした。


「これは傑作だ! エッチなキュベリー公爵は出入り禁止なんて、とんだ恥さらしだな! しかし、よくぞキュベリー領の占領に成功したな、ローレシア」


 国王がローレシアに拍手喝さいを送っていた同じ頃、キュベリー公爵は怒りに震えていた。


「まさか・・・わが居城が落とされただと! 今朝の時点ではアスター騎士団はまだ王都東方2日の距離にいたはず。それがどうして我が居城を落とせる!」


「全くわかりません・・・。ひょっとしてあの映像宝珠が偽物なのでは」


「そんなわけがあるか! あの映像宝珠に映っていたキュベリー城とリアーネは本物だった。ローレシアは間違いなく公爵領にいるが、転移陣で騎士団を丸ごと飛ばせる訳がないし、一体どんな魔法を使って瞬時に騎士団を移動させた!」


「申し訳ございません。わたくしどもには分かりかねます」


「・・・ちっ! 帝国がこの内戦に介入した時点で、我々の負けはなくなりこの国はブロマイン帝国の属国になることが決まっている。ならば戦後のことを考えて、我々は自分の居城を奪われっぱなしにしておくわけにはいかん」


「そうよお父様! 映像宝珠でわたくしを暗殺者呼ばわりしたローレシアを生かしておくわけには参りません。この手できっちり殺して差し上げます」


「・・・お前は間違いなく、ローレシアにとっては暗殺者だと思うが」


「あの映像宝珠は主要な貴族家全てに送り付けられているのですよ。お父様がエッチな殿方だという事実も王国社交界に知れ渡ってしまったのですが、それでもよろしいのですか」


「そうだった。・・・くそっローレシアめ、ちょっともったいないがお前を血祭にあげてくれる。もう王国騎士団などどうでもいい。全軍キュベリー公爵領へ向けて進撃開始。狙うはローレシアのクビだ!」






 王都フィメールに展開している帝国軍。その司令部にもローレシアの映像宝珠が送りつけられている。


 帝国軍司令官は仮設司令部に設けられた自室に鍵を閉めると、既に部屋で待っていたもう一人の男と二人でその映像宝珠の内容を確認した。


「ほう・・・これは」


 司令官の隣に座り、映像宝珠に映るローレシアとリアーネを見て興味深そうにほくそ笑む一人の男。


「美しい・・・。ローレシア・アスター、なんて美しいんだ」


「もしかして彼女をお気に召したのですか皇帝陛下」


「ああ気に入った! キュベリー公爵が必死に隠そうとしていたのでどんな女なのか興味を持っていたが、まさか想像以上だったよ。姿形も美しいのだが、我が姉リアーネを含め帝国にまるで萎縮せず堂々としているところが実に素晴らしいよ。姉上などまるで犬扱いじゃないか、フハハハハ!」


「犬扱い・・・確かにリアーネ様を縄で縛った上に、腰に縄をつないでローレシアめがそれを引っ張り回しておりましたからね。おいたわしやリアーネ様」


「何を言っているのだ、実に愉快ではないか。フフ、フハハハハ!」


「・・・皇帝陛下」


「余はローレシアの実物を見たくなった。この映像宝珠はキュベリー公爵をわざと怒らせるように作られているが、キュベリー公爵もおそらく全軍を持って公爵領に引き返すはずだ。こうしてはおれん。余も公爵領に移動するぞ。早く準備をいたせ」


「承知いたしました、皇帝陛下」

次回、キュベリー公爵との決戦


お楽しみに

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