第109話 キュベリー城の制圧
ローレシアは早速、俺の考えた作戦を説明し始めたものの、アスター伯爵を始めフィメール王国の人達にはあまりピンと来ないらしく、薄い反応しか返ってこなかった。
だがソーサルーラ側の人達は反応が違い、ランドルフ王子を始め「あれか」と思い当たる人が何人かいたり、ジャンなどは力強く賛成していた。
「お嬢! ナイスアイディアだよ! あの遠足の時のお嬢の足の速さは衝撃的だったからな。またあの時の走りを見せてくれるのか」
「今回はわたくしではなく馬が走ります。でも問題があって、500頭もの馬を回復し続けるほどの魔力がわたくしにはないことです」
「お嬢、どれぐらいの魔力が必要なんだ」
「エール病の治療の経験から言うと、平均的な光魔導師が馬のキュア&ヒールをかける場合、一人4頭が限界でしょう。もちろんマジックポーションを飲みながらが前提です。ですのでざっと125人の光魔導士が必要になります」
「125人も! そんなのどこにいるんだよ! そもそも光魔導師なんて闇魔導師ぐらいに貴重なんだぞ」
「ジャン、ところがそうでもないのです。アスター家はもともと光属性が得意な家門で、騎士団にはアスター家の血筋を多少なりとも引いた騎士がいるのです。こんなことならマーカスを連れてくれば良かったですが、アカデミーの生徒と同じレベルの魔力保有者なら割と普通にいます。お父様、何人ぐらいいますか?」
「そうだな・・・精鋭ばかり連れてきたから50人、いや平均に換算すれば70人分ってところか」
「70人分だって! ・・・まじかよ」
「ブライト男爵の騎士団には何人ぐらいいますか?」
「うちは200人で10人分しか無理ですね」
「ランドルフ王子、そちらは?」
「こちらは100人でちょうど20人分だな」
「であれば、足りないのは大体25人分ほどですね。お母様から2人分、お父様から4人分を搾り取れれば残りは19人分」
「お嬢・・・親から魔力を搾り取るのかよ」
「・・・あ、そうだ。ジャンとアンリエット、金剛石の指輪をこの二人に貸してあげてください。そうすればこの二人からはそれぞれ3人分と6人分までは絞りとれるはず。残り16人分ならこのわたくしがなんとかいたしましょう」
「・・・お嬢一人で16人分、親子3人で光魔導師の25人分かよ。とんでもねえなアスター家」
「それでは、補給部隊から各自持てるだけのマジックポーションを受け取ってください。そして500騎はなるべく密集隊形をとって範囲魔法ヒール&キュアの魔法陣の中に納まって走ってください。光魔導師は、わたくしのやるとおりに魔法をかけてください。二つ魔法の配分とタイミングが重要ですので、わたくしのことをしっかり見ておくように。それではキュベリー公爵領まで一気に走り抜けます。全騎出撃!」
だだっ広い平原の中を王都を中心に整備された街道に沿って、500騎の騎馬兵が疾走していく。
騎士団全体が白いオーラに包まれながら、通常の馬の速度よりもはるかに速いスピードで、弾丸のように街道を南へとばく進する。
頭上には100もの魔法陣が所せましと重なり合って出現し、騎士団の移動とともに空中を滑って行く。そんな集団の先頭でローレシアが事細かく指示を出していく。
「前方に隊商の馬車の列がございます。縦長フォーメーションに変形、街道右側を通り過ぎましょう」
「「「了解」」」
ローレシアたちの騎士団が隊商の横を通過すると、その衝撃波で隊商の馬車が横倒しになったり、街道の外まで吹き飛ばされていく。
「・・・申し訳ないことをしましたね」
「ローレシアお嬢様、王国の一大事ですので、人さえ死んでいなければ気にせず先に進みましょう」
「承知しましたアンリエット。それよりもこの先にも障害物がございます。あれはどういたしますか?」
「・・・・盗賊団ですね。あいつらはどうせ捕まれば全員縛り首ですし、平和の邪魔なのでこの際消してしまいましょう。ランドルフ王子、ソーサルーラ騎士団も一緒にフレアーを撃ってくれないか」
「・・・かなり先に見えるあの集団のことか? 俺には盗賊団かどうかわからないが了解だ。合図をくれ」
「300メートル手前で私が魔法を放つので、全員の火力を集中させて骨も残さず消滅させよう」
「「「了解」」」
そんな風にローレシアたちは南へ爆走を続け、当初の予定よりもはるかに早く、その日の昼過ぎには公爵領へと到達した。
領都近郊で馬を休めると、ローレシアは光魔導師を一人ずつねぎらい、これからの戦闘の前に十分休息をとって魔力を回復するよう、マジックポーションを手渡していった。
「さあ、これを飲んで魔力を回復させましょうね」
「・・・ありがとうござます、アスター侯爵閣下」
もうこれ以上ポーションは飲みたくないと思いながらも、騎士たちは顔を引きつらせて必死に愛想笑いをするのだった。
そんなローレシアを横目で見ながら、アンリエットはアスター伯爵に話しかけた。
「・・・伯爵、先ほどの強行軍でのローレシアお嬢様の魔力をどのように感じられましたか?」
「アンリエットか。い、今は騎士団長だったな。それでローレシアの魔力についてだが・・・あれはちょっと尋常じゃなかったな」
「やはり伯爵もそう思われますか・・・」
「ローレシアは16人分なら何とかすると言ったが、実はそれだけでも既にあり得ない話なのだ。しかし、さっきの道中で使っていた魔力は優に30人分を越えていた。ローレシアは一体どうしてしまったのだ。アンリエットは何か知っているのか。やはり死者召喚魔法の影響なのか」
「・・・いえ、それはないと思います。魔力増加には他に原因があると思いますが、私からはお答えすることができません」
「・・・そうか。だがアンリエット・・・騎士団長、お前も自分がおかしいことに気づいているのか?」
「え、私がおかしい?」
「やはり気づいてなかったのか。ローレシアほどではないが、お前の魔力も以前と比べるとはるかに上昇しているのだ」
「私の魔力も上昇している?・・・」
十分に休養を取ったローレシアたちは、キュベリー公爵家の居城のある領都キュベリーの城門に向かって再び馬を走らせた。
ローレシアが捕らわれていた王都の公爵邸はキュベリー公爵が住んでいるが、この公爵領にある居城には次期公爵家当主である長男夫妻が住んでいる。
「皆様、このまま止まらずに城門を突破いたしますので、騎士団全体を魔法防御シールドのバリアーで包み込んでください」
ローレシアはそう指示をすると、自らは騎士団の先頭に馬を進めて、アスター騎士団の来襲に慌てふためく城門の衛兵を無視して、城門に魔法を放った。
【闇属性魔法・ワームホール】
ローレシアのワームホールで、騎士団が余裕で通過できるほどの大穴が城門に開けられた。城壁からは衛兵が矢を射かけてきたが、数が圧倒的に足りない上、バリアーでことごとくはじかれた。
そしてローレシアたちはそのまま城門を抜けると、城へと続くプロムナードを真っ直ぐ疾走して行った。
ローレシアの行く手を阻める者など、ここには誰もいなかった。
キュベリー公爵家の居城、キュベリー城をローレシアたちが包囲すると、当然ながら守備隊が前に立ちはだかった。その数およそ100。
アスター騎士団連合軍500に対して、キュベリー守備隊100。ローレシアたちが圧倒的に優勢だが、キュベリー守備隊は気丈にも警告を発する。
「貴様たちは何者だ! それにここをどこだと思っている! 直ちに立ち去らないと攻撃を開始するぞ!」
隊長が真っ青に震えながらそう言うと、ローレシアがそれに答えた。
「我々はアスター騎士団、ブライト騎士団及びソーサルーラ騎士団連合軍。国王の勅令に従い、逆賊キュベリー公爵を討伐するためこちらに参上いたしました。ただちに城を明け渡し、全員降伏なさい」
「あ、アスター騎士団だと?! ・・・・そ、そんなバカげた要求には応じられん!」
「そうですか。それでは皆様は我々と戦うのですね。誠に申し訳ございませんが、わたくしキュベリー家の関係者には今後一切容赦しないことにしております。わたくしの要求に従わない方々は・・・その命はないものとご承知おきください!」
「ひっ!」
ローレシアが睨み付けると、隊長は顔を真っ青にしながらも未だにローレシアの前から動こうとしない。そんな隊長の健気な忠誠心を完全に無視するように、ローレシアはランドルフ王子にお願いする。
「王子、メテオの発射をお願いします」
「承知した」
ソーサルーラ騎士団にジャンを加えた総勢25名がメテオの詠唱を始めた。キュベリー公爵城の上空に、25個の魔法陣が出現するとそれが徐々に大きくなり、巨大な岩石が25個召喚された。そして、
【土属性魔法・メテオ】
25個の巨大な岩石がキュベリー城めがけて落下していく。岩石は容赦なく城を破壊していき、見事な彫刻が施された尖塔も、最上階に設けられた豪華絢爛な当主の間も、家族や貴賓のみが使用する特上のラウンジも、何もかも全てが巨大な岩石に押しつぶされ破壊されていった。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、・・・」
守備隊たちはなすすべなく、キュベリー城が破壊されていく様子を見守るしかなかった。隊員はみんな腰が抜け、ある者は恐怖し、ある者は悔しさで涙を流し、そして絶望していた。
「さあ隊長、今すぐ降伏なさい!」
「・・・・・」
「そう。ではランドルフ王子、メテオをもう一度このお城にお見舞いして頂戴」
「承知した」
「ま、待ってくれ! 降伏する!」
「そう。では守備隊は全員武器を捨て、装備も全て外しなさい。そしてわたくしたちと同行し、この城の制圧にご協力いただきます。お返事は」
「・・・承知いたしました、アスター侯爵閣下」
次回、キュベリー城を制圧したローレシアが、
キュベリー公爵を誘き寄せようとするが・・・
お楽しみに




