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第107話 レイス子爵城の戦い(後編)

 レイス子爵は完全に怯えきった伝令を、まずは落ち着かせることにした。


「ローレシアが化け物とは穏やかじゃないな。武器庫でいったい何があったのか、少し落ち着いて話せ」


 伝令はその言葉に頷くと、呼吸を整えて少し落ち着きを取り戻したところで、改めて報告を始めた。




「我々を攻めあぐねていたアスター騎士団が、まさかその援軍として主君であるアスター侯爵を前線に連れてきたのには正直驚きましたが、そのローレシア直属部隊は全員が魔導騎士だったのです」


「アスター家は古くからの魔導の名門。優秀な魔導騎士を護衛に置いておくこと自体、何もおかしくない」


「はい。ですので20名程いた彼ら一人一人が強力な魔法をバンバン撃ってきたのはまだ理解ができます。でも、ローレシアだけはその中でも別格で、彼女から強烈な光線が発射されると、一度に数十人が蒸発して消えてしまったのです」


「それは、ブライト領の戦いでローレシアらしき人物がキュベリー騎士団に放ったと噂されている大魔法のことだな。だがあれはキュベリー騎士団が負けた言い訳のために敵を強く見せかけたデマだと言う話も」


 その時、レイス子爵の隣で一緒に伝令からの報告を聞いていたキュベリー騎士団の司令官が、立ち上がって激怒した。


「レイス子爵、貴君は我が騎士団を侮辱されるのか! そもそも我が騎士団が撤退したのは、その大魔法で多大な損害を被ったからであり、ただの奇襲ごときで敗走するわけがないであろう!」


「その通りです子爵! あれは誇張でもデマでもありません。噂どおりいやそれ以上の大魔法でした!」




「すまない、私が少し言いすぎた。だがそんな大魔法がこの世にあるとは私には到底思えんのだ。これでも長くアスター家に仕えて来て、魔法の知識もそれなりに持っている。だから周りからローレシアの話を聞く度に、どうにも魔法の理屈に合わないと思っていた。そもそもあの堅牢な要塞に隠れていれば、魔法の光線など簡単に防げるはずだ」


「子爵のおっしゃる通りで、最初は我々もそのように考えておりました。しかしローレシアはその光線を撃つよりも先に、ワームホールで壁に風穴を開けると、そこに別の大魔法トルネード・クラッシュを撃ち込んできたのです」


「またワームホールか・・・あれは騎士を転移させる魔法なのに、ローレシアは騎士の代わりに壁を転移させたのだな。魔法の使い方がメチャクチャだ」


「ええ。そしてそのポッカリ空いた壁穴から風属性の大魔法トルネード・クラッシュが撃ち込まれ、武器庫の中に突風が吹き荒れたのです。そこで要塞のような強固さが逆に災いし、建物の中は息もできないほどの暴風が荒れ狂い、物は空中を高速で飛び交って騎士たちを襲うため、騎士たちは外に逃げる以外に方法がなかったのです」


「魔法の使い方がおかしい上に、なんて情け容赦のないえげつない戦い方を・・・」


「その後もトルネード・クラッシュが要塞内に間断なく撃ち込まれ、騎士たちは要塞に逃げ込むこともできず、かといって外に出たら出たで、ローレシア部隊の魔法攻撃が容赦なく降り注いだのです。そして極めつけがローレシア本人の大魔法でした」


「それでは本当に騎士たちが瞬時に蒸発したのか」


「はい、それはもう恐ろしい光景でした。同じ魔法を隣にいたアスター伯爵も使っていて数名程度は蒸発させていたので、おそらくアスター家に伝わる秘法だと思うのですが、ローレシアの魔法の威力は伯爵のものと比べても破壊力が一桁違うんです」


「アスター家の秘法ならカタストロフィー・フォトンという大魔法があると伯爵から聞いたことはあるが、伯爵とは桁違いというのがおかしい。落ちぶれたとは言えアスター家は今でも十分に魔導の名門。その当主をやれるぐらい、伯爵の魔力は相当に強いはず。あのローレシアがいくらアスター家の直系の血筋だとしても伯爵と桁違いというのはありえん。お前の話の通りなら、ローレシアは人間の限界をとっくに越えていることになる」


「だから人間じゃないんです! 化け物なんですよ、あのローレシア・アスター侯爵は!」


「化け物か。・・・たしかにたった一人で戦局が動かせるほどの魔力があれば、それはもはや人間とは言えないな。魔法の使い方も常識から外れているし、魔法を主体にしたこの戦い方はアスター家、ソーサルーラの貴族のどちらにもふさわしいと言える。だがなんだろう、ローレシアに感じるこの違和感は・・・」





 レイス子爵がぶつぶつと独り言を呟いていると、別の伝令が慌てて作戦司令部に飛び込んできた。


「子爵、また新たな敵です! お、王国騎士団が現れました!」


「なんだと! 勅令が出てまだそんなに経ってないのに、もう王国騎士団が! ・・・騎士団の投入が早すぎる。それよりも我々の援軍はまだ来ないのか!」


「そ、それが・・・奴ら王国騎士団と並んで進軍してきました。おそらく国王の側に寝返ったかと・・・」


「・・・裏切られたのか、我々は」


 レイス子爵が想定外の戦況の悪化に呆然としていると、



 ドガーーンッ グワシャーーッ トゴゴゴゴーン


 うわああっ!


 メキッ! グシャーーッ


 ズズズズズ、ゴゴゴゴ・・・







 いつの間にか気を失っていたレイス子爵は、瓦礫の下でその意識を取り戻すと、自分を覆い尽くしていた瓦礫を自力でどけて、なんとか立ち上がった。


 そして周りを見ると、先ほどまで伝令から報告を受けていた作戦司令部は粉々に吹き飛ばされおり、今は城壁も完全に失われて、外にむき出しの状態になっていた。


 そして自分の側近たちや伝令、キュベリー騎士団の司令官たちは、全員が瓦礫の下敷きになって辺りは血の海と化し、どうやら幸運にも生き延びたのはレイス子爵ただ一人だったのだ。


「何が起きたと言うのだ・・・」


 だが先程から間断なく続く轟音の原因にすぐに気がついた子爵は、そこで見た光景に戦慄が走った。


 空からは多数の岩石が城に降り注ぎ、自分の居城に無慈悲な破壊をもたらしていたのだ。多数の魔法陣が城の上空に次々と浮かび上がると、巨大な岩が次々に空中に召喚されては城に落ちていった。


「土属性魔法メテオか・・・それも多数同時に」


 そして魔方陣の先を見ると、先ほど伝令より報告のあった武器庫の屋上に、多数の魔導師が並んで魔法を詠唱しているのが見えた。


「あの魔導師たちの制服、おそらくはソーサルーラの魔導師部隊。もうローレシアたちと合流していたか。そしてあの魔導師部隊の中心に立っているのは・・・ローレシア・アスター侯爵」


 レイス子爵は、遠くに見えるローレシアと一瞬目があったような気がした。そのローレシアもどうやらこちらを見ていて、彼女がすっと右手を上げるとメテオ攻撃が突然止まった。


 ローレシアは、まだこちらをじっと見つめている。


「降伏せよということか。・・・ここまでだな」






 ローレシアは、レイス城の上空に降伏を示すのろしが上がるのを確認すると、隣にいるランドルフ王子に作戦終了を伝えた。すると、王子の指示でソーサルーラ騎士団全員がメテオの魔法陣を一斉に消し去った。


「ありがとうございました、ランドルフ王子。お陰で随分と早く決着がつきました」


「いや礼には及ばない。この要塞があったから真正面から堂々と魔法攻撃ができたにすぎん。しかしよくこんな堅牢な要塞を短時間で陥落させたな。さっき中の様子を見たけど、どうやらローレシアは破壊の限りを尽くしたようだな」


「そんな魔王みたいな言い方はやめてくださいませ。それに中をグチャグチャにしたのはわたくしではなくお母様です!」


「ハッハッハ。さすがはローレシアの母親だ」


「それよりも領都の占領を急ぎましょう。レイス子爵は降伏しましたがキュベリー騎士団は残っています」


 そういうとローレシアはマーカスを呼んで、レイス城の占領とレイス騎士団の武装解除を命じた。





 マーカスが城の占領を進める傍らで、キュベリー騎士団はなおも抵抗を続けた。レイス城から脱出した彼らは市街地に潜伏した後ゲリラ戦を戦いつつ、領都からの脱出を狙っていた。


 だが、地理に不案内なレイス城下町での市街戦に、もはや組織力も活かせなくなった公爵軍が活路を見いだせるはずもなく、アンリエットと父親のブライト男爵による共同作戦により翌日の午前中にはキュベリー騎士団も完全に制圧された。


 占領が完了した領都と、その中心にそびえ立つレイス城。ローレシアは親衛隊を引き連れて入城すると、レイス城の謁見の間の当主の椅子に堂々と腰をかけ、拘束されて床に放り出されたレイス子爵と対面した。


「お久しぶりですね、レイス子爵」


「ローレシア・アスター侯爵閣下・・・」


「さてあなたは国王の勅令に反してキュベリー公爵に与して王国騎士団と戦った。これは国家反逆罪に当たります。死罪は免れないと思いますが、何か申し開きがあれば、わたくしローレシア・アスターがお聞きいたします」


「死罪だと? なぜ私が死罪なんだ! 元はそこにいるアスター伯爵が我々を公爵に売ったから、結果的にキュベリー公爵側についているだけじゃないか。それに私が戦っていたのはブライト騎士団とその連合軍であるアスター騎士団であって、王国騎士団とは戦ってなどいない!」


「そんなこと関係ございません。勅令が出たのなら、公爵側から直ちに抜けて戦闘を中断し、我々に和解を申し入れれば済むだけのこと。他の家門の皆様はすぐ王国騎士団に下り、今は馬を並べて公爵軍を撃つべく既に王都に向かいました。勅令公布後にも、わたくしたちに剣を向け続けたのはレイス子爵、あなただけなのですよ?」


「そんな・・・・あいつらみたいな裏切り者ばかりが助かって私だけが死罪だと。そんなの理不尽だっ! そうだローレシア閣下、何とぞお慈悲を! 国王陛下にお取りなしを!」


「・・・わたくし自身はあなたに何の恨みもございませんし、お父様に責任があることも存じております。ただ国王がどうお考えになるかは別なのです。子爵は見せしめとして他の貴族たちの綱紀粛正の犠牲となっていただくことになると思いますし、仮に命が助かったとしても、レイス家の家門の断絶は確定的。今後この居城と領地はアスター家が支配いたします」


「そんな・・・あんまりだ」


「あなたにもブライト男爵のような忠誠心があればこんなことにならなかったのですが、本当に残念です」

次回、戦場は王都フィメールへ


お楽しみに

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