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第106話 レイス子爵城の戦い(前編)

本エピソードは前編、後編の2つに分かれてます

 ローレシアがキュベリー公爵邸から救出されたその夜、薔薇騎士隊を先頭にアスター騎士団50騎が即座に城を出撃した。最低限の守備隊のみを城に残して、一路ブライト男爵領へ向けて進軍を開始したのだ。


 そして途中野営を挟んで、次の日の夜にはブライト領に到着。ローレシアはアスター騎士団全350騎の再編成にとりかかり、アンリエットをアスター騎士団の騎士団長に正式に任命してそのうちの200騎を、マーカスを副団長にして残り130騎を任せた。そして全軍の総指揮をローレシアがとる。


 同時に、アンリエット、ナツ、アルフレッド王子の3人でスタートしたアスター侯爵家の騎士団は、その名称を「ローレシア親衛隊」に変え、薔薇騎士隊20騎は、アスター騎士団から切り離されて、ローレシア親衛隊に編入された。


 ローレシアの母親・アナスタシアを含めた総勢20名の女騎士たちが、ジャンや伯爵たち護衛騎士5名とともに、戦場でローレシアを守り抜くのだ。


 アスター騎士団長兼ローレシア親衛隊長に就任したアンリエットがその25名を前に訓示をたれる。


「私がローレシア親衛隊隊長アンリエット・ブライトである。私がアスター騎士団の指揮に専念するため、貴様らが私の代わりにお嬢様の護衛を行うのだっ! 薔薇騎士隊っ! 護衛騎士どもっ! 総員、命がけでローレシアお嬢様をお守りしろっ!」


「「「承知いたしました、アンリエット様!」」」


 これにブライト騎士団150を加えた総勢約500騎が、翌朝レイス子爵領に向けて進軍を開始した。





 一方のアルフレッド王子は、ローレシア救出後すぐに王城に転移して国王にキュベリー公爵家の蛮行を報告した。その報告を聞いた国王は怒り狂い、すぐさま近衛兵に命じて王妃と第一王子夫妻、エリオットを拘束し地下牢に監禁すると、翌朝にはキュベリー公爵討伐の勅令を王国全土に公布した。


 ここにフィメール王国内戦が勃発したのである。


 アルフレッド王子は、アスター領の接収のために進軍中だった王国騎士団500騎の総大将に指名されると、軍用転移陣でその騎士団に合流。彼らを率いて今度はレイス子爵領へ向けて転進した。


 また、ランドルフ王子もローレシアからの救援要請を受けて即日騎士団が国境線を越え、フィメール王国内部へと軍を進めていた。






 レイス子爵領はキュベリー騎士団の前線基地としてブライト領の監視を常時行っていたため、国王の勅令が発せられるよりも前から臨戦態勢が整っていた。


 アスター騎士団の襲来を察知したときには既に籠城戦の準備はできており、城内にはレイス騎士団200騎にキュベリー騎士団400騎の合計600騎が待機していた。


 そしてレイス子爵の同僚で、アスター家からキュベリー家に主君を変えた貴族家からも、援軍400騎が救援に駆けつける手筈が整っていた。


 内と外合わせて1000騎もの大軍勢であり、アスター侯爵の後ろ楯となっているソーサルーラの戦力が未知数ではあったが、籠城戦では守る側が有利であることを考えれば、レイス子爵は負けることなど考えてはいなかった。


 そしてついにアスター騎士団、ブライト騎士団連合軍500騎がレイス城のある領都城門前に布陣した。





 レイス子爵は城内に作戦司令部を設けて、キュベリー騎士団の司令官とともに、共同作戦の指揮をとっていた。伝令が伝えてくる報告をもとに戦況を分析し、騎士団に指示を与えていくのだ。


「アスター騎士団の総司令官は長女のローレシアか。ソーサルーラの大聖女か何か知らんが、所詮は女だ。いくら強力な魔力を持っていようが、大軍同士の戦に女の出る幕などない。ここは実績のあるブライト男爵の動きを警戒すべきだな」


 そこへ伝令が慌てて報告に駆けつけた。


「レイス子爵大変です! 城門が破られて敵軍が領都内になだれ込んで来ました。市街地で彼らの進軍を止めなければ、この城への攻撃を許してしまうことになります!」


「なんだとそんなバカな! 今しがた布陣したばかりの敵軍に、なぜそんな簡単に城門が破られるのだ!」


「とても信じられないことですが、闇属性魔法ワームホールで城門が消し飛んだのです」


「ウソ・・・だろ? 闇属性魔法でそんなことができるものなのか」


「ローレシアです! ローレシア・アスターの魔法が強力過ぎます!」


「・・・マズイ! 籠城戦は中止して、全軍アスター騎士団連合軍を討伐するために市街戦に切り替えろ! 援軍到着まで何とか持たせるんだ」





 一方のローレシアも城内に騎士団を侵入させたのはいいが、敵の抵抗が激しく市街戦に苦戦していた。


(ナツ、領民がいる中での戦いはやはり難しいわね。強力な魔法で一気になぎ払うこともできないし、城下町の地理に詳しくないので、敵の待ち伏せ攻撃に会って全然前に進めない)


(それに、騎士同士の戦いになると、全員が領都内に入りきれていない俺たちは、数の上での劣勢を強いられている。このままでは味方の損害もバカにならないし、何とかして橋頭堡を築きたいところだな)


 そこへ前線からアンリエットが急ぎ戻ってきた。


「ローレシアお嬢様! ジャンのゴーレム兵をもっと前面に出して下さい。騎士団の防御力が足りません」


「わかっていますが、ゴーレム兵は足が遅くてのろまなので、狭い市街戦での目まぐるしい展開にはついていけないのです」


「・・・そうですね。ただ、敵の攻撃も苛烈を極めているので、少しでもこちらへ回していただけると助かります」


「わかりました。ジャン、ゴーレム兵の増産をお願いします」


「わかったよ、お嬢」





 その後両軍は互いに一歩も引かず、一進一退の攻防を繰り広げていた。そこへマーカスが慌ててローレシアの所に報告に戻ってきた。


「アスター侯爵閣下! 敵の武器庫を発見しました。現在我が隊で攻撃をしておりますが、あそこを奪えば中の武器や食糧等の備蓄が手に入るかもしれません。援軍を要請いたします」


「そうね・・・でも、敵もそこを奪われないために、必死で防戦してくるのでは。犠牲を払ってまでそこを奪う価値はあるのかしら」


「確かに敵の守備が固く、現状我が部隊では突破できていませんが、その武器庫には中の物資以外にも重要な価値がございます」


「・・・お話を伺いましょう」


「武器庫の場所が重要なのです。アスター侯爵がいらっしゃるこの城門付近とレイス子爵の居城のちょうど中間点に位置しており、アスター侯爵閣下なら魔法が居城までギリギリ届く距離だと思われるのです。そこを橋頭堡にすれば戦局も大きく変わってくるはず」


「・・・・居城への魔法攻撃。マーカスのその進言、少し試してみても良さそうね。ではわたくしが直接、そちらに参戦いたします。ジャンはゴーレム魔法で、アンリエットの部隊のサポートを引き続きお願いね。それ以外の親衛隊は、全員わたくしについてきて」


「「「はっ! ローレシア様!」」」






「マーカス、ここね」


「はい、アスター侯爵閣下」


「見たところ武器庫というよりはちょっとした要塞。建物が頑丈そうで防衛拠点に向いていそうですね」


「そのお陰で何度突撃しても、敵の防御に跳ね返されてしまいます」


「でもここを陥落させれば、確かにレイス子爵の居城が視界に届く。ここは絶対に奪いたいわね」


「だからこそ敵も必死に守っているのだと思います」


「では、ここはローレシア親衛隊が突破口を開きますので、マーカスの隊はその後の突撃準備を」


「はっ!」


「ローレシア親衛隊の皆様、そうね、まずはお父様。あなたはわたくしと一緒に、カタストロフィー・フォトンを使用して敵騎士を徹底的に焼き払いなさい」


「ローレシア、わかった」


「それから親衛隊の他の皆様も、自分の持っている最大火力の魔法を敵に集中させなさい。ここにいる全員が魔法を使えるので、そのメリットを存分に活かすのです。特にお母様は汚名を晴らすチャンスですよ」


「・・・それではわたくしは、風属性の大魔法であるトルネード・クラッシュを使用させていただきます」


「風魔法・・・この厚い壁で囲まれた防衛拠点では、風魔法は最も効果の薄い魔法なのですが、今のでいい作戦を思いつきました。それでは皆様、ここは領民がいない軍事施設で遠慮は無用です。ここが勝負所と心得て、各自の最強魔法をもって総員自由射撃開始!」


「「「はっ!」」」





 刻一刻と目まぐるしく変わる戦況に、レイス子爵の作戦司令部には、各地の戦況を伝える伝令が入れ替わり立ち代わり出入りしていた。


 そんな中、息を切らせて飛び込んでくる一人の伝令の姿があった。


「レイス子爵、大変です! 武器庫が敵の手に落ちました!」


「なんだと・・・、さっきの報告では、あそこは完全に防御しきれており、すべての戦場の中でもっとも優勢だったはず。なぜそこが突然陥落したのだ!」


「兵たちが全員逃走してしまったのです。あんなものを見せられたら誰だって・・・」


「あんなもの?」


「ローレシアですっ! あの女は正真正銘の化け物。あんなやつに勝てるわけがない・・・」

次回、後編です


お楽しみに

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