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第103話 逆転、脱出、そして

 アンリエットの急襲になんとか反応できた公爵は、その一太刀を辛うじて避け、ベッドに隠しておいた剣を抜いてアンリエットに対峙した。


「貴様ローレシアの護衛騎士か。どこから侵入した」


「貴様の娘がアスター家に仕掛けた転移陣からに決まってるだろうが、バカめっ」


「マーガレットのやつ転移陣を処分し損なったのか。くそっ!」


「そんなことどうでもいい! よくも私のナツにひどいことを・・・。今日が貴様の命日だ、死ね!」


 そういうとアンリエットは猛然と公爵に斬りかかっていった。


 速いっ!


 アンリエットの剣は、公爵の反応速度をはるかに越えて公爵の胴体を一撃で捉えた。公爵は魔法防御シールドで痛撃は避けたが、アンリエットのあまりのスピードに剣の動きを全く捉えられなかったのだ。


 一方のアンリエットは、渾身の一撃がバリアーで防がれたことに悔しそうな顔をしたが、それでも攻撃の手を緩めることなく、公爵に撃ち込んでいく。


 強いっ!


 防戦一方の公爵は、その頼みの綱であるバリアーがアンリエットの攻撃を受ける度に徐々に防御力が削がれていき、焦りの色が隠せなかった。


「なんなんだこの女騎士は! なんて強さだ」


「私のナツに手を出してしまったことを、地獄で後悔するんだな」


「ナツ? 誰のことだ。ローレシアではないのか」


「ちっ、お前がそんなことを知る必要はない!」


 さらにスピードが上がるアンリエットにもはや公爵は剣で防ぐことを諦めバリアーに全魔力を投入した。だがそこへ他の騎士たちも部屋へとなだれ込む。


 アルフレッド王子とジャンたち護衛騎士だ。


「大丈夫か、ローレシア! ・・・なんだその姿は、キュベリー公爵、貴様よくもローレシアをっ!」


「お嬢、無事か! ・・・な、なんてあられもないお姿に。よくも公爵・・・覚悟しろ」


「キュベリー公爵め! 俺達のローレシア様をよくも傷物にしてくれたな。その命を持って贖うがいい!」


「ロイ! わたくしはまだ傷物になどなってはおりませんっ!」


「おお、いとしのローレシア様。もしかして僕たちは間に合ったのですか?」


「ケン、バン、ちゃんと間に合っております。早くわたくしを助けなさい」


「「御意!」」


 そして一気にローレシアの護衛騎士たちに包囲された公爵は、そのバリアーを破壊されて首筋に全員の剣を突きつけられ、あえなく降伏した。





 公爵を締め上げて奪われた魔術具を全て取り返した俺は、今度は公爵自身を人質にとって公爵邸の転移室へと向かう。公爵の部屋を出ると廊下には公爵の護衛騎士が全員倒されていた。


「この騎士たちはロイたちが倒したのですか?」


「いいえ、アンリエットとアルフレッド王子の二人で半分以上を倒してしまいました。俺たちのでる幕はなかったですよ」


「本当ですか!?」


「ええ、アンリエットなんてこいつらを突破したら、そのまま一人で公爵の部屋に突っ込んで行ったので、俺たちが残り全員を片付けただけですよ」


「アンリエット、かっこいい!」


「また主君を守りきれなかったらと焦って、必死だっただけだ」




 そして家族が住まうエリアまで行くと、そこでは現在進行形でアスター騎士団とキュベリー騎士団が交戦中だった。


 騎士団のみんなも助けに来てくれたんだ。


 俺は感動を覚えつつキュベリー騎士団に通告する。


「キュベリー騎士団に告ぐ。ただちに武器を捨てなさい。さもなければここにいる公爵の首が飛びます」


 アンリエットが公爵の首筋に剣を当てる。


「お、お前たち、早く剣を捨てるんだ!」


「公爵! ・・・わかった降伏する」


 騎士たちが捨てた剣を拾い集めながら、転移室へと撤退する。途中マーガレットと公爵夫人がキュベリー騎士団に守られながら、俺の姿を見てギョッとする。


「お父様! ローレシアに一体何をしたのですか!」


「あなた! まさかローレシアを手籠めに・・・」


「違う! ワシはまだ何もしていない!」


「黙れ! この少女趣味の変態公爵がっ!」


 アンリエットがキュベリー公爵の頭を思い切りひっぱたくと、家族の軽蔑の眼差しを一身に受ける公爵をそのまま転移室まで引きずって行った。




 なんとか転移室までたどり着くと、アンリエットが手早く転移陣を作動させる。


「ローレシアお嬢様、早く城へ戻りましょう」


「ええ、頼みますアンリエット」


「そのおいたわしいお姿を、早くお隠しいたしませんとね」


 改めて見ると、ローレシアお気に入りの純白のドレスは完全にボロボロで、スカートは剣で切り刻まれてミニスカートみたいになり、上も公爵に肌着ごと引き裂かれ中の下着が完全に見えてしまっている。


 アルフレッド王子や騎士たちが、目のやり場に困っている。


「これではもう嫁のもらい手がございませんね」


「ローレシア! だったら僕の所へっ!」


 アルフレッド王子が立候補すると、護衛騎士たちもぜひ自分が嫁に欲しいと言い争いを始めた。


 その時、一瞬のスキをついて公爵がアンリエットの腕を振りほどくと、護衛騎士たちを押しのけて転移室から逃げ去った。


「くそっ、公爵に逃げられたか!」


「アンリエット、公爵など放っておきましょう。それよりもここから早く撤退を!」


「はっ! アスター騎士団、総員撤退っ!」


 そして俺たち騎士団全員が転移陣で城に戻ったことを確認すると、公爵家の転移陣を即座に破壊した。





 なんとか無事にアスター城に帰還した俺は、執務室に向かいながらアンリエットに状況を確認した。


「アンリエットは、どうやってわたくしを助けに来てくれたのですか」


「王城に飛んだ時に転移室にお嬢様だけいないことに気づき、すぐにアスター城に戻ったんだ。すると転移室で、何やらコソコソと動き回っていたフィリア様を見つけたのですぐに拘束。転移陣に何か工作をされた可能性に気がついたのだ」


「・・・フィリアはマーガレットの指示で、キュベリー公爵家の特殊な転移陣を設置していたようです」


「そのようだな。ただその時はフィリア様が黙秘を続けていたためすぐにはお嬢様の転移先が分からず、かといってフィリア様はアスター侯爵家の養子になる話も出ていたため騎士団が直接尋問するわけにもいかず、父親である伯爵から聞き出すことになったのだ」


「・・・それで伯爵は?」


「それが、伯爵夫人が横から口を挟んでフィリア様の尋問を断固拒否したため、伯爵もどうしようもなくなり仕方なく騎士団が直接フィリア様を尋問することになった。でも夫人がヒステリーを起こして尋問の邪魔をしたため、お嬢様の居場所と転移陣の使い方を聞き出すのにかなり時間がかかってしまった。助けに行くのが遅くなり怖い思いをさせて本当にすまなかった」


「いいえ、アンリエットのおかげで本当に助かりました。もう少し助けに来てくれるのが遅かったら、わたくしはどうなっていたことか」


「本当に無事でよかった・・・ナツ・・・」


「・・・アンリエット」



(ローレシアも、怖い思いをさせてすまなかったな。結局アンリエットに助けてもらって、俺は何の役に立たなかったよ)


(いいえそんなことありません。ナツが最後まで諦めずに抵抗してくれたから無事に帰ってこれたのです。わたくし一人だったらとっくに心が折れてしまって、きっと公爵の・・・)


(や、やめよう。そんなローレシアの姿は想像もしたくない。俺はもっと強くなって、今度こそローレシアのことを守ってやる!)


(わ、わたくしも強くなって、わたくしとナツ、二人の大切なこの身体を絶対に守り抜きます!)





 執務室に入ると中には憔悴しきった伯爵と、イライラを募らせた伯爵夫人が椅子に座っていた。そして夫人は俺の姿を見るなり、


「ローレシア! その姿はまさか誰かに・・・」


「わたくしは大丈夫です。お母様がご心配されているようなことは何もございませんでした」


「そ、そう・・・それはよかったわ」


「それよりお二人に聞きたいことがございます。わたくしが着替えてくる間この部屋で待っていて下さい」





 俺は執務室の奥の部屋にアンリエットと二人で入り、王都から持参した着替えを取り出した。


「ナツ、着替えをいくつか持ってきたが、どれに着替えるんだ」


 アンリエットは俺の目をジッと見つめて問いかける。俺はそれが意味するところを理解しこう答えた。


「アンリエットとお揃いで買った冒険者の衣装です。これが今わたくしが持っている最強の装備ですので」


「わかった。では私もそれに着替える。・・・今から出撃するんだな」


「ええ。キュベリー公爵を討ちます。ただその前に、もう一仕事残ってますが」


「・・・そうだな。フィリアを執務室に連れてくるよう衛兵に伝えてこよう」





 冒険者衣装に身を包んで執務室に戻る。


 俺は執務机の前に立ち、左右にはアルフレッド王子とアンリエットが、後ろには護衛騎士4人が並んだ。


 俺たち7人の向かいには、伯爵と伯爵夫人の二人が並んで立っている。


 キュベリー公爵との決戦を前に、後顧の憂いを絶つため、今からローレシアの家族3人に対ししかるべき処分を下さなければならない。


 これはそのための儀式なのだ。



(舞台は一応整えたので後はお前に身体の操作を代わろう。家族に言いたいことが山ほどあるんだろう)


(・・・いいえ、わたくしはもうこの人たちとは何も話したくありません)


(ローレシア・・・そうだな。じゃあ俺が代わりに、この人達と話をするよ。それでどうしたい?)


(厳しく処罰して下さい。わたくしの家族だと言うことは忘れてナツが適切だと思う罰を与えてください。遠慮はいりません)


(・・・わかった、全部おれに任せておけ)

次回、妹フィリアの処分


お楽しみに

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