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第102話 キュベリー公爵の寝室の攻防戦

 俺が閉じ込められた地下牢は、鉄格子のついた薄汚い牢屋ではなく地下の個室で、外から扉の鍵がかかる独房って感じの部屋だった。


 さてここからどうやって脱出するかだ。


 魔術具は全て没収されてしまい魔法が使えない上、両腕を縄で固く縛られている状態で、独房のベッドの上に転がされている。


 まずこの縄をほどくのが先か。




 ローレシアは今、ひどく憔悴している。


 それはそうだろう。修道院の食事に毒を盛らせて、ローレシアを殺した実行犯が妹のフィリアで、それを指示したのが公爵令嬢のマーガレット。つまりこの二人が暗殺者だったことが分かったからだ。


 ローレシアの家族は問題のある人間ばかりだったが今度ばかりは極めつけだ。


 俺は深く傷つき泣いているローレシアを慰めつつ、地下牢の様子を冷静に観察していた。ここを脱出する方法を、どうにかして見つけ出すのだ。


 だが何も手がかりが見つからないまま時間だけが経過し、外にいた護衛騎士が地下牢の扉を開けた。


「外へ出ろ」


 騎士は俺の腕を拘束している縄を引っ張って、屋敷の上階へと連行していく。窓から外を見ると、いつの間にか夜になっていた。


 俺は屋敷を上へ上へと連れて行かれ、公爵家の家族が住まうエリアをさらに奥へ進み、とうとう屋敷の一番奥の扉の前に立たされた。


「この部屋ってまさか・・・」


「そうだ。キュベリー公爵家当主の間、つまり公爵の寝室だ。早く中に入れ」


「わ、わたくしをどうするつもりなの!」


「今から何をされるのか、言わなくてもわかるだろ」


 護衛騎士がニヤリと笑うと、扉を開けて俺を部屋の中に蹴り入れた。





 後ろの扉がパタンと閉められ、外から鍵をかける音が聞こえた。


 俺は床から立ち上がって部屋の中を見渡す。


 広い部屋には豪華な調度品が並び、部屋の一番奥には天蓋付きの大きなベッドが見える。


 ベッドの前には4人の侍女が並んでおり、その後ろにキュベリー公爵が立っていた。



「ようこそローレシア。まさかこんな形でキミを我が屋敷に迎え入れることになるとはな」


「キュベリー公爵・・・」


「まあ、そんなところに突っ立ってないで、椅子にでも座って落ち着いたらどうだ」


「・・・お断りいたします」


「すげないな」


「・・・わたくしをこんなところに連れてきて、一体何をするおつもりですか」


「ローレシア・・・キミももう子供じゃないんだから言わなくても分かるだろ」


 公爵のその言葉で、俺の全身に悪寒が走った。ローレシアは自分の娘と同じぐらいの年齢なんだぞ!


 とにかく公爵を罵倒してでも、その変態行為をやめさせなければ。


「やめてください! お願いですから、ひどいことはしないでくださいっ!」


「・・・実にいい、キミのその清純な反応は男を魅了してやまないようだ。なるほど、エリオットがキミに狂っていた理由が、今ならよくわかる」


 ・・・全然罵倒になってない。ローレシアの口調では、こういう場面で逆に男を興奮させてしまう。


 くそっ、だったら!


「・・・そ、それ以上近付くと、舌を嚙み切って自害いたします」


「ほう、果たしてそんなことがキミにできるかな」


「わたくしにそんな勇気がないとでも?」


「そうではない。ワシの女になれば、アスター家の領地や領民には一切手出しをしないことを約束しよう。だが自害すればその時はどうなるか分かるな」


「領民を人質に取るつもりね・・・なんて卑怯な」


「卑怯か。キミに言われるとどんな言葉でも誉め言葉に聞こえてくるから不思議だよ」


 ダメだ。お嬢様言葉ではこういうシーンでの駆け引きが全くできない。もう喋るのをやめて威圧感を与えるしかない。


「そう睨むなよ。夜はまだ長いんだ。まずは風呂にでも入ってその身体を清めたまえ。お前たち、姫をバスルームへご案内しろ」


「「「承知いたしました、公爵閣下」」」




 4人の侍女が俺を取り囲んで、拘束していた縄を解き、バスルームに連れて行こうと腕をひっぱる。


 チャンスだ!


 俺はその手を振り払おうと力を込める。だが、侍女の手を振りほどくことができず、手首を巧みに掴み返されると、そのまま背中の方へひねり上げられた。


「くっ・・・」


「彼女たちは全員手練れの騎士だ。無駄な抵抗はやめるんだ、ローレシア」


 だが俺は侍女のあごに後頭部で頭突きを入れると、掴まれていた腕を強引に振りほどいて、彼女の腹部に回し蹴りを入れた。


 ズドッ!


「うぐっ!」


 そしてうずくまる侍女の背中を踏み台にすると、もう一人の侍女の顔面めがけて回し蹴りを決めた。


 バキッ!


「これで2人!」


 床に倒れ込む2人の侍女の様子をチラリと確認し、残りの侍女2人を相手に構える。


「ばっバカな・・・この侍女たちは我が騎士団の中でも精鋭なんだぞ。それをいとも簡単に。お前は魔法だけでなく騎士としても精鋭なのか、ローレシア!」


 公爵が驚愕の目で俺を見ているが、構わず侍女の一人に正面から向かっていく。ここからは不意打ちが効かない1対2の格闘戦。だが今回もアンリエットとの修行の成果が存分に表れた。


 騎士の動きのパターンをアンリエットに叩き込まれていたお陰で、二人の侍女の動きに身体が勝手に反応する。数の劣勢もひたすら粘りに粘って跳ね返し、形勢を五分からやや優勢にまで持っていく。


 勝負はここからだ。だが、


「ええい、お前たちでは埒が明かん。直接このワシがローレシアを黙らせる。代われ!」


「申し訳ございません閣下・・・でもこの子は本当に強いです」


「わかっている。お前達が4人がかりで歯が立たないのだからな。だが、本当にローレシアは最高の女だ。こいつはもう誰にも渡さん。絶対にワシの女にする」


 そう言うとキュベリー公爵が瞬時に俺に詰め寄り、右手を伸ばして掴みかかった。俺はその手を振り払うが、今度は左手で俺を掴もうとする。


 こいつ、速い!


 キュベリー公爵はその辺の騎士など比べ物にならないほど動きが速く、また腕力も強い。侍女二人を相手にしていた時よりも、むしろ状況は厳しくなった。


「ほれほれ、どうしたローレシア。お前の抵抗はそこまでなのか」


「お黙りなさい公爵! あなたなんかには、この身体に指一本触れさせません」


「いいねえローレシア。キミが抵抗すればするほど、ワシの気持ちは高ぶって行くよ」


「だからわたくしのことをそんな風に言うのはやめてください! もうその汚らわしい口を開くのをやめてくださいませっ!」


「ローレシアは罵倒のセリフも可愛らしいな」


「くっ!」


 俺は必死に応戦するが、公爵の速度はさらに上がっていく。こいつまさか手加減をしていたのか。


「さあて、そろそろ本気を出させてもらおうか」


 そう言うと、俺は両手を同時につかまれ、そのままベッドへと押し倒された。


「さあ、ローレシア。これでお前はワシのものだ」


 そう言うと、ドレスを手で引き裂いた。


 ビリビリッ!


「いやあああっ!」


 ドレスが胸の部分から下に大きく引き裂かれ、中の下着が見えてしまった。


(・・・すまんローレシア、俺が必ず助けるからもう少しだけ我慢をしててくれ)


(・・・ナツっ! ・・・ナツっ!)


 ローレシアが泣いている。


 俺はもう絶対にこのキュベリー公爵家だけは許さない。ここを必ず脱出して、公爵にも娘のマーガレットにも絶対に罪を償わせてやる。それに公爵となんて、俺は絶対に嫌だ。


 俺が力一杯の抵抗を続けていると、ふと俺の脳裏にアルフレッド王子の笑顔が浮かんだ。・・・この状況でなぜ王子の顔を思い出す。せめて王子とならなんて俺は絶対に思っていない!


 俺は王子のさわやかな笑顔を、その脳裏から無理やり消し去った。


 だがキュベリー公爵は、俺の気の迷いの間も容赦なく襲いかかる。


 俺はまだ全く諦めていないのだが、この身体は恐怖で萎縮し始めている。こういう時にはどうしたらいいんだ。教えてくれ、アンリエット先生。





 その時、公爵の部屋の扉を叩き破る音がした。


 バキッ! ドカーーーッ!


「ローレシアお嬢様ーーッ! ナツーーッ!」


 扉の破片の真ん中にアンリエットが鬼の形相で立っていた。そして俺の姿を見つけると、


「ナツっ! ・・・なんてひどい姿に・・・」


「誰だ貴様はっ!」


 アンリエットは、俺の上に覆い被さる公爵に向けて剣を振りかぶった。


「貴様、キュベリー公爵っ! ナツから離れろっ!」


「アンリエット!!」


 言うが早いか、アンリエットが公爵との間合いを一瞬で縮めた。

次回、形勢逆転。もう遠慮はいらない。


お楽しみに

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