EpiSodE097:イグゼキュタ
空中都市アルフヘイムではエルサリオンの家族のように家族を想い、大事にしなければならないという掟があった。
それを破った者はイグゼキュタによって死刑に科される。
イグゼキュタとは地球で言うところの警察みたいなもので、アルフヘイムの警備隊であった。
イグゼキュタはエルフでありながら日々体を鍛え上げていて、その存在は同族のエルフにも恐れられていた。
そしてイグゼキュタになるにはハイエルフの過半数の推薦と同意が必要な為、エルフの中でも厳選された最強の集団であり、みんなの憧れでもあった。
「エルサリオン様、エルノール様、おはようございます。朝でございます」
そう言って兄弟を起こしに来たのは家臣のイズレンディアだった。
「ん、、あ、イズレンディアさん、おはよう」
エルノールが寝ぼけながらイズレンディアに挨拶をする。
「エルノール様、おはようございます。エルサリオン様はもうおられないようですが、、」
エルノールが周りをキョロキョロと見回す。
そしてため息をついた。
「はぁ。また兄上は抜け駆けを、、」
「抜け駆け、、ですか?」
エルノールはエルサリオンが何処に行ったかわかったみたいであった。
「はい、、兄上はたまに朝に1人で何処かに出て行くんですよ!」
「朝に出て行かれてるのは知っていましたが、、こんな朝早くから何処に行ってらっしゃるんでしょうか、、」
「僕もあんまり知らないんですが、前に聞いた時は何かを鍛えてるって言ってたんですよ!」
「何かを鍛えている、、そういえば前に朝に出て行かれる時に闘技場に行くと一度だけ聞いたような気が、、」
「そうなんですか?イズレンディアさん!兄上は闘技場に行っているんですか?」
イズレンディアの言葉にエルノールは飛び起き、イズレンディアの両肩を掴んで聞く。
「わ、私も一度だけしか聞いた事がないのでわからないですが、可能性としてはそこが一番大きいかとは思います」
エルノールはそんな事を考えていると無性にエルサリオンが何しているのか気になってきた。
「あーもう!兄上が何をしているのか気になり過ぎます!イズレンディアさん!僕は今から闘技場に行って兄上が何をしているのか見に行きます!」
「今から行かれるのですか?朝食はどうされるのですか?もうララノア様もエドラヒル様も席に座られてますよ!」
「イズレンディアさん、ごめんなさい!何か都合の良い言い訳で誤魔化してて下さい!お願いします!」
「あ!エルノール様!」
そう捨て台詞のようにイズレンディアに伝えて、エルノールは部屋を飛び出していった。
そこに1人取り残されたイズレンディア。
「、、はぁ。慌ただしい兄弟だ。さて、なんと言い訳をしようか」
その後、イズレンディアはララノアとエドラヒルにエルノールが朝食に来ない言い訳をしたが、すぐに嘘がばれ、洗いざらい吐いたのであった。
その頃エルノールは全速力で闘技場に向かっていて、そのスピードは他のエルフでは全く追いつけないスピードだった。
「あ!エルノールちゃん!おはよう!こんな朝早くからそんなに急いでどうしたの?」
1人の女性のエルフがエルノールに話しかけてきた。
その女性は昔からエルサリオンやエルノールの事を見ていたハイエルフのメレスベスだった。
エルノールは急いでいたが、挨拶をする為に少しスピードを緩めた。
「お姉様!おはようございます!ちょっと兄上のところに!」
「あら、お姉様だなんて!エルノールちゃんも口が上手くなったわね!」
メレスベスは何故エルノールがそんなに急いでるのか聞いた事など忘れて、エルノールにお姉様と言われた事を喜んでいた。
「じゃあお姉様!僕急いでるので!」
「いってらっしゃ〜い!」
「いってきます!」
メレスベスは最後までニンマリした顔でエルノールを見送った。
そして、家を出てから10分後、闘技場に到着した。
「よし、着いたぞ!兄上は何をやってるの、、」
「お願いします!」
「!?」
いきなりエルサリオンではない叫び声が聞こえてきて、エルノールはびっくりしていた。
「び、びっくりした〜!今の声はなんだ?」
エルノールが隙間から闘技場の中を覗いてみると、そこにはエルサリオンと、数十人かのエルフがいた。
「これは、、兄上が誰かに稽古をつけているのか?」
そう。エルサリオンはその数十人のエルフに稽古をつけていたのだ。
それを見たエルノールは1人で少し拗ねていた。
(僕にはあれだけお願いしてやっと稽古をつけてくれるのに、こんなところにまできて誰に稽古をつけているんだ?)
闘技場に入ろうとしたが、その熱気と気迫にやられて入れなかった。
「この空気感はなんだ?稽古というより本気で戦っているような雰囲気だ、、それに兄上も何かいつもと違うような、、」
エルサリオンの顔や雰囲気も自分に稽古をつけている時とは全く違っていた。
そしてその理由はすぐにわかる事になる。
ドゴッ
「っ!」
エルサリオンが相手の腹を殴ると、相手のエルフは膝をついた。
「そんな事でアルフヘイムの秩序を保てると思っているのか!これくらいの攻撃、立ったままで耐えてみせろ!」
「は、はい!申し訳ございません!」
「次!」
(アルフヘイムの秩序を守る?どういう事だ?)
「あのエルフ達、体つきがすごいな。ハイエルフなのかな?でもあまり見た事ないし、、」
エルサリオン達ハイエルフはエルフの中でも5%しかいない為、ハイエルフはハイエルフ同士でほとんどが顔見知りになっていた。
「ハイエルフじゃなくて、アルフヘイムの秩序を守る、、もしかして!」
エルノールが何かに気付いた瞬間、またエルサリオンの檄が飛ぶ。
「お前達は俺が見込んだエルフだ!そんな事ではイグゼキュタの名折れだぞ!」
「もう一本お願いします!」
この闘技場でエルサリオンに稽古をつけられていたのはイグゼキュタだった。
「やっぱりそうだったんだ!だったらこの緊張感も納得できる、、」
イグゼキュタはアルフヘイムの秩序を守り、悪を罰するエルフの法の番人。
だからこそ、エルフの最上位であるハイエルフの過半数の同意と実力が必要だった。
もちろん、イグゼキュタはその強さを損なってしまっては意味がない。
なので、強さの維持と成長を目的に、エルサリオンに稽古をつけてもらっていたのだ。
そしてそこから更に1時間程稽古は続いて、やっと終わりを迎えていた。
「よし、今日はここまでだ。各々が今日言った事を忘れずに次までに自分の中に落とし込んでおくんだぞ」
「「はい!ありがとうございました!」」
そのタイミングを見計らって、エルノールは飛び出していった。
「兄上!僕にも稽古をつけて下さい!」
「エルノール?なんでお前がこんなところにいるんだ?」
「兄上が闘技場にいると聞いて、飛んできました!」
「俺が闘技場に行ってると聞いた?誰がそんな事を、、イズレンディアか」
エルノールは返事をしなかったが、その反応が明らかに答えになっていた。
「そんな事よりも僕にもイグゼキュタの皆様と同じような稽古をお願いします!」
「こいつらがイグゼキュタって事も知っていたのか。お前はいつからそこにいたんだよ」
「1時間半くらい前です!」
エルサリオンはその時間を聞いて唖然とした。
そんなやり取りを兄弟でしている内に、イグゼキュタもエルノールに気付き、エルノールを見て感激しているのであった。
どこまでも貪欲なエルノール。
エルノールは稽古はつけてもらえるのか。




