EpiSodE096:家族
そこには2人のエルフがいた。
1人はエルサリオン、もう1人は弟のエルノール。
2人は瓜二つの顔だった。
髪型も今のエルサリオンは肩にかかるくらいだが、この頃のエルサリオンは腰くらいまで髪の毛があり、エルノールも一緒くらいの長さだった。
「稽古か。お前に稽古が必要か?エルノール。お前は十分強いじゃないか」
「僕なんて兄上に比べればまだまだ足元にも及びません!早く兄上に追いつかないと、兄上の弟として面目が立ちません!」
「お前は弟なんだから兄の俺に追いつかなくていいんだよ。むしろ、追いつかないでくれ」
エルサリオンは苦笑いを浮かべていたが、自分の弟の成長を嬉しく思っていた。
「何を言っているのですか!僕が強くならないといつまで経っても兄上がゆっくり出来ないではありませんか!だから僕はもっともっと強くならないといけないのです!」
エルノールは目から炎が出てるかと思うくらいにやる気に満ち溢れていて、その目でエルサリオンを凝視していた。
「だからお前はもう十分強いんだよ。このエルフ族の中でもNo.2なんだ。弱いわけがないだろう」
このエルサリオンの言葉がエルノールを更に燃え上がらせる。
「No.2、、そうなんです!僕はNo.2なんです!だからこそもっと強くなってNo.1の兄上と共にNo.1と呼ばれるくらいにならないといけないんです!」
エルサリオンは完全に自分の失言だと思った。
エルノールの性格ならNo.2なんて言われたら、そりゃNo.1になりたいと言うに決まっている。
弟の事なのに何もわかっていないと少し反省した。
「わかった。わかったよ。お前の稽古に付き合ってやるよ」
エルサリオンのその言葉を聞くと燃え上がっていた目は一転、星空のように輝く目になり喜んでいた。
「ありがとうございます兄上!では、早速庭に行きましょう!」
この向上心だけでも自慢の弟だと思っているのに、更にはエルフ族の中でエルサリオンに次いで強いときている。
こんな完璧な弟を持てて、エルサリオンは本当に幸せだと感じていた。
「エルノール、俺は稽古となると手加減はしないぞ。覚悟するんだ」
完璧な弟だからこそ自分もそれに応えたいとエルサリオンはいつも思っていた。
「は、はい!よろしくお願いします!」
エルノールはエルサリオンが放つオーラに不意を突かれ、少し気圧されていた。
そして庭に出て稽古が始まると、それまで気合いの気の字も入ってなかったエルサリオンだったが、別人のようになった。
「違う!そこはガードじゃない!攻撃を避けるんだ!ガードだと次の攻撃に対応する速度が遅れるだろう!」
「はい!わかりました!」
こんな調子で稽古は朝から夕方まで続いたのであった。
「もうこんな時間か。よし、今日はここまでだ」
「ハァハァ、、は、はい!ありがとうございました!」
「この程度で疲れているようじゃやっぱりまだまだだな」
「はい!精進します!」
これがエルノールがいつまでも向上心を持ち続けてしまう理由であり、エルサリオンの良いのか悪いのかわからない癖でもあった。
稽古中は本気で向き合うのでアドレナリンが出て、どうしても厳しいアドバイスをしてしまうのだ。
そして、稽古が終わって少ししてからいつも後悔する。
何故あんな事を言ってしまったのだと。だからいつも稽古をせがまれるのだと。
「はぁ。またやってしまった。その内本当に俺よりも強くなってしまうかもな」
それ程エルノールは圧倒的成長速度だった。
自分の方が強い今だけは偉そうにしておこうと思うエルサリオンであった。
そんな事を考えていると、1人のエルフが話しかけてきた。
「またエルノールの稽古に付き合わされていたのか?エルサリオン」
「父上」
エルサリオンの父親のエドラヒルだった。
「そうなんです。もう十分強いのに、毎日のように稽古に付き合わされてます」
「はは、向上心がある事はいい事じゃないか。お前も昔は俺にそうだっただろう?」
エルサリオンは今ほど強くない時は今のエルノールと一緒で、父親のエドラヒルに毎日のように稽古を願い出ていたのだ。
「それはそうですけど、、あの時の俺はまだまだ弱く、父上に追いつくために必死だったので」
「エルノールも同じ事を言ってなかったか?」
「あ、、」
エルノールが言っていた事を思い返すと、確かに全く同じ事を言っていたような気がした。
そしてエルサリオンに心当たりがある事をエドラヒルもわかった。
「やっぱりお前達は兄弟だな」
「やれやれ、父上にはまだまだ敵いませんね」
「何を言ってる。お前はもう俺よりも強いじゃないか」
「それは全て父上のご指導ご鞭撻のおかげです。父上がエルフ最強の戦士だったから俺もそれを受け継ぐ事が出来たのです」
そう。今のエルフ族最強の戦士はエルサリオンだが、その前は父親であるエドラヒルが最強の戦士だったのだ。
だからこそエルサリオンも最強になれた。
そしてエルフ族の中では次の最強戦士はエルノールだともっぱらの噂になっていた。
「お前の才能と努力の賜物だよ。それをお前もエルノールに感じているだろう?」
「、、はい」
(むしろ俺よりも才能があるんだよな)
エルサリオンはそう思っていた。
「だったら次はお前が俺の役目を担ってやればいいんじゃないか」
エルサリオンは少し考え込む。
自分に偉大な父親の役目なんて担えるだろうか。
父であるエドラヒルが自分をエルフ最強にしてくれた。
自分は自分を超えるようなエルフを育てる事が出来るだろうか。
その不安や重圧があったのだ。
「大丈夫だ。エルサリオン、お前ならやれるよ。お前は俺よりも戦いの才能も教える才能もあるかや心配するな」
エドラヒルはエルサリオンが不安になっている事を察知し、フォローを入れた。
「父上には何も隠し事が出来ませんね。わかりました。俺が出来る限りの事はします」
「よろしく頼むよ。それはそうと夕飯が出来たと母さんが言ってるぞ」
「父上、それを早く言って下さい」
「すまんすまん」
エルサリオンは母親の手料理が大好きで、いつも出来立てを食べていた。
エドラヒルが夕食ができた事を伝える為に自分の元に来たのだとわかって、目の色を変えて何故早くそれを言わなかったのかとエドラヒルに言い放った。
そしてエルサリオンとエドラヒルは食卓に向かった。
「あ、兄上!遅いですよ!冷めてしまいます!」
「すまん、色々あったんだ」
エドラヒルが聞こえてないフリをする。
「あなた達遅かったわね。早く食べましょう」
そう言ってきたのはエルサリオンの母、ララノアだった。
ララノアはエルフ族一番の絶世の美女で、その笑顔は太陽のようだった。
「はい、母上。遅くなってすみません」
「すまんかった。エルサリオンと少し話し込んでしまってな。じゃあ頂こう」
その光景はどこにでもある家族の光景で、食卓ではみんな笑顔で食事をし、誰が見ても幸せな家族であった。
そして、この数日後に悲劇が訪れる事をまだ誰も知らなかった。
エルサリオンの過去篇。
家族はエリート揃いだった。




