EpiSodE095:衝撃の事実
ザレオスの攻撃をくらって斬られたエルサリオンの左腕から血が吹き出した。
(さっきの攻撃はなんだ?全く見えなかった。瞬きをしたら目の前に黒振剣があった、、)
エルサリオンは数秒の間に脳をフル回転させて思考した。
「何固まっているんだ。早く楽しもうじゃないか」
ザレオスは完全に落ち着きを取り戻していた。
むしろ最初よりも気持ちに余裕があるのかわからないが、不気味な雰囲気を漂わせていた。
「ちょっと考え事だ。気にするな。続きをやろう」
「お前はもう左腕がないんだぞ?負けを認めたらどうだ?」
「左腕が無いからどうした?お前の相手なんて片腕で十分だ」
「いちいち癇に障る奴だな。だが、もうお前の挑発にはのらない。お前がそうさせたんだよ」
「、、そうかよ」
エルサリオンはそれを狙っていたが、もう通用しなかった。
「ああ。それにお前が片腕だからといって俺は手を抜かない。全力でお前を潰しに行く」
「俺も手を抜かれるのは嫌いなんだ。全力でこい」
そして、2人とも同時に動き出した。
するとザレオスがいきなり驚きの発言をする。
「そういえば少し前にお前に似た奴と遊んだな」
嫌な予感がエルサリオンの頭によぎる。
「俺に似た奴とは、金髪で髪が長い男のエルフか?」
「あー、そんな感じだったな。確か名前は、、エル、、エラノール?だったかな」
その名前を聞いた瞬間、エルサリオンが鬼の形相でザレオスに殴りかかった。
「おっと。なんだ、今更いきなり物理攻撃かよ」
それを難なく受け止めるザレオス。
「エルノール」
「あ?何か言ったか?」
「そいつの名はエルノール。俺の実の弟だ」
顔は怒っていたが、声は低く落ち着いていて、それがアラグディアとイズレンディアに恐怖を覚えさせた。
一方ザレオスはニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだったのか。それは悪い事をしたな。あまりにも弱かったからこの黒振剣を使うまでもなく、この拳の一撃で終わってしまったよ。すまなかった」
今度は攻守交代でザレオスがエルサリオンを挑発した。
「お前、、俺の弟を、、殺したのか、、」
「それ以外にあると思うか?」
「貴様ぁあ!」
エルサリオンがザレオスに突っ込んでいこうとしていた。
それを見たイズレンディアはエルサリオンを止めようとするが、、
「エルサリオン様!落ち着いて下さい!これはザレオスの罠です!」
「無駄だ。こいつの心は怒りで満ちている。もう止める事なんて出来ない」
ザレオスはエルサリオンの心を読んで、もうエルサリオンは完全に怒りに支配されて自分を見失っていると確信していた。
そしてそれはエルサリオンの顔を見れば一目瞭然だった。
「エルサリオンの奴、、これはダメだな。もう怒りで完全に我を忘れているぞ」
「あのエルサリオン様があんな姿に、、くそ!私がついていながら、、」
イズレンディアはものすごく悔しそうな顔をしていた。
「アラグディア、一生の頼みがある」
「外さねぇぞ」
アラグディアはすぐにイズレンディアが言おうとしている事がわかった。
「何故だ!お前もあの悪魔に復讐したいと思わないのか?」
「思わない、、と言ったら嘘になるかもしれないか。正しくは思えない、だな」
アラグディアはどうしてもザレオスに抗う事はできなかった。
それを少し不思議に思った。
「ザレオス様は俺の考えてる事が手に取るようにわかる。だから俺がそんな事を考えようものなら一瞬で殺される」
ザレオスは他人の心を読む事によって、身内の裏切りや敵の行動までも先読みする事ができるのだ。
「殺されそうでも、、絶対に勝てない相手だとしても、悪魔に従うなんて事俺は絶対にしない」
「それはお前達エルフとダークエルフとの考え方の違いだ。俺達は何よりも命を大切にする。だから悪魔に屈服してでも生きる事を選ぶ。生きていれば何かが起こるかもしれないからな」
「今回のエルサリオン様がその結果という事か?」
「そうなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。この戦いの結果次第だな」
「お前はさっき、ザレオスの攻撃からエルサリオン様に命を救われた。それについてはどう考えるんだ?」
「・・・・・」
イズレンディアの問い掛けにアラグディアは黙り込んだ。
それはエルサリオンの行動に対して、嘘をつけなかったからだ。
150年前までずっと決闘をしてきた相手。
もうそれはアラグディアにとっては敵ではなく、一緒に高め合える最高の戦友になっていたからだ。
そして、おもむろに口を開く。
「、、それについてはエルサリオンに感謝をしている。だが、それと生きるか死ぬかは別の話だ。さっきも言ったように俺達は生きる事を最優先に考える。これはこの先も絶対に変わらない」
「そうか。わかった。じゃあこの戦いを見ていろ」
イズレンディアの言葉をアラグディアは不思議に思った。
エルサリオンは片腕を失い、ザレオスはかすり傷程度のダメージ。
この状況、誰がどう見ても勝つのはザレオスだ。
なのにイズレンディアの言い方はまるでエルサリオンが勝つと言っているような言い方だった。
「この戦いを見届けたところで何が変わるというんだ?どう見てもザレオス様が勝つだろう」
「誰もがそう思うだろうな。だが、エルサリオン様はここからが異常に強いんだ」
「いくら強いって言っても流石にこの状況を返す事はできないだろう」
「この戦いを見た全員がエルサリオン様の勝利を全否定する程の力の差とダメージの差だから間違いなくザレオスが勝つと思うだろう。あの時のエルサリオン様を見ていないのであれば」
「あの時の、、エルサリオン?」
「あぁそうだ。あの悪魔にアルフヘイムを奪われた時のエルサリオン様を見ていないならそう考えるもの無理はない」
「何の事だ?」
アラグディアが更に不思議そうにイズレンディアに問い掛けた。
「悪魔にアルフヘイムを奪われる時、エルサリオン様は仲間や故郷を守る為にいつもの何倍も強くなった、、」
時は150年前にまで遡るーーーーーー
場所は悪魔に侵略される数日前の空中都市アルフヘイム。
そこはエルフの聖地とも呼ばれる場所で、多くのエルフとハイエルフが暮らしていた。
「もう少しで年に一回の武闘会だな」
そう独り言を呟いていたのはエルサリオンだった。
容姿は今とほとんど変わっておらず、少し今よりも髪が長いくらいだった。
そこに1人のエルフが話しかけてきた。
「兄上、組手の稽古に付き合って下さい!」
目を輝かせ、エルサリオンの事をお兄様と呼び、慕っているそのエルフは、弟のエルノールだった。
これは他種族を寄せ付けなくなった鎖国種族のエルフ族の物語でもあり、ハイエルフの兄弟の物語なのであった。
エルフ族の他種族嫌悪になった過去が明かされる。




