EpiSodE092:最悪のシナリオ
姫那達がアルフヘイムに突入する少し前、、
「アルフヘイムだ。何も変わっていない。いや、むしろ自然が増えているか」
「それにやはり大きさが縮小されていただけだったのですね。中に入ったら150年前と変わらない大きさだ」
「あぁ。そうだな、、」
エルサリオンは涙を我慢していた。
それもそのはず。150年ぶりの故郷に帰ってきたのだ。
「エルサリオン様、、」
そんなエルサリオンの姿を見てイズレンディアももらい泣きしそうになっていた。
「まだ涙はしまっておこう。アルフヘイムを奪還するまではな」
「そう、、ですね」
それでもイズレンディアは涙が溢れて止まらなかった。
「ほら、行くぞ。もう泣くな」
「はい、、」
「ここからは出来るだけ喋らず隠密行動で行くぞ」
「わかりました」
「まずは俺達の家を見に行こうか」
何処に行ったとしても、万の悪魔の軍勢がいるのは変わらない。
だからエルサリオンは一度自分の家が今どういう状態になっているのか確認したかったのだ。
「行きましょう。私も気になっていました」
そして周りに気を付けながら自分達の家に向かう事にした。
この時、エルサリオン達はアルフヘイムに入った事をまだ悪魔側に気付かれていないと思っていた。
だが、、
(何かおかしい。何故こんなにも静かなんだ、、)
「エルサリオン様、ちょっとこれは静か過ぎませんか?」
「俺もちょうど今そう思ってたところだ。まだ気付かれてないのか、、」
家に向かってる途中にあまりにも誰もいないので不自然に感じていた。
「どうなんでしょうか、、」
「、、もう少し進んでみようか」
「わかりました」
この判断は普段のエルサリオンならあり得ない判断だった。
150年ぶりの故郷。150年ぶりの自分の家。
それがエルサリオンの判断を鈍らせていたのだ。
そして、この判断が後に2人の命運を分ける事になる。
「結局ここまで誰とも遭遇しなかったですね」
「あぁ、そうだな。やはりまだ悪魔側が気付いてないという事か、、それに、家も何も変わってないな」
エルサリオン達は家に到着していた。
その家は大豪邸という言葉がぴったりな家だった。
「入ってみますか?」
そのイズレンディアの問いにエルサリオンは無言で頷く。
そして扉を開く。
「誰も、、いないですね、、」
「・・・・・」
エルサリオンはここでやっと今の状況を客観的に見れるくらいに正気に戻った。
「イズレンディア、これは罠だ。今すぐここを出るぞ」
「罠ですか?でも誰もいないですよ?」
「それが罠なんだ!流石にこれはおかしすぎる、、早く、、」
ガンッ
「っ!」
「エルサリオン様!」
何者かが背後からエルサリオンを殴った。
「気付くのが遅過ぎたな。もうお前らは逃げられないぞ」
「お前、、は、、!」
エルサリオンの背後から話しかけてきたのはエルサリオンもイズレンディアも知る顔だった。
「お前はアラグディア!お前のような者がエルサリオン様に何してる!」
そこにいたのはダークエルフのアラグディアだった。
「こんなところまでノコノコと来て、馬鹿かお前達は。そんな馬鹿に今までの腹いせが出来て嬉しいよ」
「貴様!」
ガンッ
イズレンディアも別のダークエルフに後ろから殴られた。
「く、、そ、、」
バタンッ
エルサリオンとイズレンディアは気を失って倒れてしまった。
そこにまた別の者が歩いてくる。
「お前ら捕らえたか?」
「はっ!ザレオス様。誘導も問題なくでき、滞りなく捕らえれました」
「よし、よくやった。じゃあ縛っておけ」
「かしこまりました」
歩いてきたのは悪魔だった。
エルサリオンと夏生の予想通り、ダークエルフは悪魔側についていた。
「お前ら、、やはり悪魔側についていたのか、、」
「こいつまだ意識があるのか。さっさと寝てろ」
ガンッ
アラグディアがもう一度殴った。
そして完全に気を失った。
ザレオスがエルサリオンをじっと見る。
「こいつが例の言っていた奴か」
「はい、ザレオス様。エルフの中でも最上位種のハイエルフ。その中でも最強の戦士、エルサリオンです」
「そうか。こんな事でやられるようじゃ大した事ないな」
「、、そうですね」
アラグディアは少し複雑だった。
何故なら150年前の武闘会の決勝戦でエルサリオンに一度も勝った事がなかったからだ。
そんな宿敵の相手をこのような卑怯な手を使って倒した事、その一度も敵わなかった相手を大した事ない奴だと悪魔に対してもなんとも言えない気持ちを抱いた。
「なんだ?何か気になる事でもあったか?」
「あ、いえ。申し訳ございません。何もありません」
「、、そうか。ならいい」
ザレオスは心を読む。
その為、ダークエルフが少しでも裏切ろうと思ったのなら、それはすぐに気付かれてしまうのだ。
なので今のアラグディアが抱いた気持ちもザレオスにはすぐにわかった。
だが、裏切りの意思ではなかった為、何も咎めなかったという事だ。
アラグディアももちろんザレオスの力を知っていたので、今の自分が思った事によって殺されるのではないかと冷や汗をかいていた。
「では、こいつらは一度部屋に閉じ込めておきます」
「わかった」
そしてある場所の牢屋に手足を縛られたまま閉じ込められた。
そこから少しするとエルサリオンが目を覚ました。
「っ。ここは、、」
倒れる前の事を思い出す。
「くそ、アラグディアの奴。なんで悪魔側に、、」
「早いお目覚めだな。相方はまだ寝てるぞ」
エルサリオンが声のする方に振り返ると、そこにはアラグディアがいた。
「アラグディア。お前が何故そっちにいるんだ。お前は誰よりも悪魔を毛嫌いしていたはずだろう」
アラグディアはダークエルフで一番の戦闘力を誇るエルフだった。
そして純粋に戦闘を好み、全エルフの中でも一番悪魔を嫌っていた。
そんなアラグディアが今は悪魔の仲間になっている。
それがエルサリオンには信じられない光景だった。
「うるさい。お前には関係のない事だ」
「何故なんだ!お前の強さをあれば悪魔に従う必要なんか、、」
「お前に何がわかるんだよ!」
エルサリオンの言葉を遮ってアラグディアが叫んだ。
「勝てない事がわかるとすぐに逃げたお前達に俺達の何が、、くそ!」
エルサリオン達ハイエルフと普通のエルフはここアルフヘイムに住んでいて、ダークエルフは下界と呼ばれるアルブフで暮らしていた。
アルフヘイムにいたエルサリオン達は悪魔の力に屈し、犠牲を最小限にして2階層に逃げた。
だがアルブフで暮らしていたアラグディア達ダークエルフは逃げる事すら出来ず、悪魔に捕まってしまったのだ。
そこで悪魔から二つの選択肢を与えられた。
それは、悪魔に従うか、今すぐ死ぬか。
こんな二択を強制されては従うしか道はなかったという事だ。
「それでも、、それでも俺には納得出来ない」
「もうお前と話す事はない。お前が目を覚ましたと同時に報告をしたから、そろそろザレオス様が来る頃だ。エルサリオン、お前の命もそこで終わりだ」
そしてザレオスが来た。
ここからはエルサリオンとイズレンディアにとって地獄の始まりであった。
エルサリオンが描く最悪の展開になってしまった。
捕まった2人はこらからどうなるのか。




