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この迷宮を攻略するには何が必要ですか?  作者: シュトローム
第一章 迷宮攻略・故郷奪還編
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EpiSodE086:手掛かり

 姫那達が初めて見るエルサリオンの血の繋がった兄弟はもう生きていなかった。

 それを受けて、エルサリオンよりもショックを隠せない者がいた。


 「なんて事だ、、エルノール様が、、何故こんな事に、、」


 イズレンディアは放心状態だった。

 エルサリオンと同じく、弟のエルノールも尊敬していて、その方が目の前で息をしていない。

 イズレンディアにとってはあり得ない状況だった。


 「エ、エルサリオン様、エルノール様が敵わない相手となると、、」

 「あぁ、相当な相手だな」

 「エリーの弟さん、強かったの?」

 「強かった。俺と同じハイエルフで才能は俺よりもあった。生きていれば俺もそのうち抜かれていたよ」

 「エリーが?ほんとに?」

 「本当だ。それくらいエルノールは才能に満ち溢れていた」


 エルサリオンの弟、エルノールはエルサリオンの強さを兼ね備えていて、努力家で伸び代もすごかった。

 ハイエルフの中でも頭一つ抜けていてエルサリオンに一番近い存在で、一番成長スピードも早かった。


 「あの時からもう150年もの月日が流れている。エルノールが俺より強くなっていてもおかしくはない。そのエルノールでも敵わない可能性があるとしたら悪魔だ。ダークエルフでは絶対にエルノールには勝てない」


 全員が固唾を飲んだ。

 5階層にいる悪魔はどれほど強いのか。

 強欲の悪魔、マモンはその中でも更に圧倒的強さを誇っている。

 今までのエルサリオンならこの状況にすぐに悲観的になっていた。

 だが、今は違った。


 「そんな悪魔にも対抗できるほどの家族が今はここにいる。だから絶対にアルフヘイムは取り戻せる。何の心配もしていないよ」


 エルサリオンはいつもの落ち着くような低い声に戻っており、その言葉を聞いた姫那達は、、


 「任せてよ!何が何でも絶対に私達が取り戻すから!エルノールの思いを無駄にはさせないから!」


 会った事もないエルノールの思いが姫那にわかるわけがなかったが、それでも姫那の叫びには何故か心動かされるものがあり、一緒に戦ってくれるなら負ける気がしないと思える程の信念のようなものが感じれた。


 「俺達全員が揃って倒せないやつなんてほとんどいねぇよ。だから安心しろ」

 「そうだよ!なんか私も最近お姉ちゃんや夏にぃに負けないくらい強くなってる気がするし、大丈夫だよ!」

 「僕に何ができるかわからないですが、皆さんの為ならなんだってします!」

 「みんながどんな傷を負ったとしても私が癒す!絶対に私が全回復させるから!」

 「エルサリオン様、微力ながら私も全力で戦います」


 みんなが強く、熱い視線をエルサリオンに送っていた。


 「みんな、、ありがとう」


 血の繋がりがなくても家族のような固い絆で結ばれていた。

 それが姫那達の強みであり、弱みにもなる可能性もあるのだった。


 「よし、じゃあ行くか」


 こういう時はいつも姫那が先陣を切っていたのだが、今回はエルサリオンが先に口を開いた。


 「手掛かりがここまで何もないとなると何処をどう攻めたらいいのか全くわからないが、、」

 「そうでもないぞ」


 夏生の悲観的な意見をエルサリオンが否定する。


 「どういう事だ?」

 「これだ」


 エルサリオンは握っていた右手を広げて夏生に見せる。


 「これは、、なんだ?」

 「砂だ」


 エルサリオンが右手に持っていた物は湿った砂だった。


 「砂?なんで砂なんか持ってるんだよ?」

 「この砂はエルノールが握っていた砂だ。アルフヘイムの土だ」

 「益々わからない、本当にどういう事だ?」


 エルサリオン曰く、アルブフとアルフヘイムの砂は全く違うらしく、見ただけでわかるみたいだった。


 「何がどう違うんだ?」

 「まずは色だ。アルブフの砂は見ての通り何処にでもあるような黄土色の砂だが、アルフヘイムの砂は真っ白な砂なんだ、、エルノールが握っていたのは真っ白な砂だった。アルフヘイムにいたという事だ」

 「なるほど。でもエルノールがいつアルブフに来たのかわからない以上、あまり意味がないんじゃないか?150年前とかだったらなんの手掛かりにもならないだろ」


 夏生が言っている事はすごく理に適っていた。

 エルサリオン達、エルフがアルフヘイムを奪われたのが150年前。

 もしエルノールが150年前にここに来ていたなら、エルノールが持っていた砂は手掛かりにはなり得ないのだ。


 「いや、それはない。アルフヘイムの砂はアルフヘイムの気候でしか純白を保つ事ができず、アルフヘイム以外の土地に砂を持ち出すと、黒く濁るんだ」


 アルフヘイムはやはり特別な場所で、アルフヘイム独特の気候が砂の白さを維持させていた。


 「そういう事か。だったらいつ頃かわかるのか?」

 「1週間だ」


 砂の違いまでは理解できた。

 だが、それ以降の話は全然理解できていない者がいた。


 「ちょっと待てーぃ!私にもわかるように説明してよ!」


 それはいつも通り姫那だった。


 「わかったわかった。ちゃんと話すから落ち着けって。まず、砂がアルフヘイムとアルブフで色の違いがあるのはわかるな?」

 「うん!わかる!」

 「そのアルフヘイムの砂をエルノールは持っていて、アルフヘイムの砂はアルフヘイムじゃない場所だと砂の色が変わるんだ」

 「ふむふむ」


 姫那はわかってるのかわかってないのかわからない表情だったが、夏生は気にせず話を続けた。


 「白かった砂が黒く濁る。その期間が1週間って事だ。そしてエルノールの握っていた砂はまだ真っ白なままだった。ここまで言った事はわかるか?」

 「んー、わからない!」


 自信満々にわからないという姫那に夏生はガクリと肩を落とした。


 「エルノールがアルブフに来てからまだ1週間も経ってないって事だ」

 「あ、そういう事か!、、どういう事?」


 夏生にはわかったような顔をしたが、エルサリオンにはよくわからないという顔をしていた。


 「つまりは消えたアルフヘイムはまだ存在するという事だ」


 そう。5階層に来て一度もアルフヘイムを見ていなかった。それに加えてイズレンディアから100年前に消えたと聞いて、今もあるのかどうか夏生やエルサリオン、イズレンディアですら疑っていた。


 「え?そんなの当たり前じゃん!」


 姫那はエルサリオンの言葉に不思議そうに返答した。


 「当たり前ってどういう事だ?」

 「だってエリーとイズレンディアはそこにいたんでしょ?なんでそのアルフヘイムの存在を疑う必要があるの?」


 姫那は全くアルフヘイムの存在を疑っていなかった。

 それどころか何故みんながそうなっているのか、意味がわからなかった。

 そんな姫那を見て、夏生とエルサリオンは顔を見合わせた。


 「確かにそうだな。お前の言う通りだ。有力な手掛かりを掴んだ事だしな」

 「そうだよ!」


 ゴールが見えない時ほど精神的にダメージが蓄積される事はない。

 それを緩和させるのが精神的支柱の役割を担う姫那であった。

 本人はそれが自分だとは全く気付いてなかったのだが。

やっと手掛かりを見つけた。

ここからが巻き返し!

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