EpiSodE084:デックアールヴとアールヴ
「このアルブフにはエルフが住んでいたんだよね?」
捜索を始めたのはいいものの、ただ歩いているだけで何も手掛かりが出てこなない為、暇つぶし程度に姫那がエルサリオンにアルブフについて聞いてみた。
「あぁ、そうだ」
「どんなエルフが住んでたの?アルフヘイムに住んでたエリー達とは何か違うの?」
エルサリオンは姫那の質問攻めに遭っていた。
「ここ、アルブフに住んでいたのはデックアールヴなのだ」
「デックアールヴ?何それ?」
「わかりやすく言うとダークエルフだ。私達もエルフというのは他種族からの呼ばれ方で厳密にはアールヴという種族なのだ」
「そうだったんだ!じゃあこれからはアーヴルって覚えたい方がいいかな!」
「違う。アールヴだ」
「アルーヴ?」
「違う!アールヴだ!」
「なんかもうわからない!エルフでいいや!」
「こいつ、、」
何回言っても覚えない姫那にイズレンディアはイラッとした。
「イズレンディア、姫那はこういう奴なんだ。諦めろ」
「なんかあの女とは仲良くなれそうにないです」
「お前、さっき言ってた事と全く逆の事言ってるじゃないか」
エルサリオンの話をしている時は意気投合していたが、話が通じないとなると合わないと言う。
イズレンディアも姫那と似たようなものだとエルサリオンは思ったのだった。
「呼び方なんてなんでもいいだろ。それよりもそのダークエルフってのはどんな奴らなんだ?」
夏生が話を戻す。
「ダークエルフは俺達エルフと種族は一緒だが、枝分かれしたエルフだ。敵ではない。ライバル関係にあると言ったらわかりやすいか」
「ライバル関係という事は何かを争っているのか?」
「毎年エルフとダークエルフでどっちが強いか武闘会が開かれていたんだ」
「そうなんだ!それでエリーが優勝したって事?」
「そうだ。毎年エルサリオン様の圧勝だった」
エルサリオンはエルフの中でもハイエルフで普通のエルフよりも強く、そのハイエルフは全てのエルフ族の5%ほどで、エルフの武力のほとんどを担っていた。
「イズレンディアはハイエルフじゃないの?」
「私は違う。普通のエルフだ。ハイエルフはみんな領土を与えられていて、普通のエルフのほとんどはそこに仕えている」
普通のエルフが領土を持つ事はなく、強者であるハイエルフが領土を持ち、統治していた。
エルフ族は完全実力主義の種族なのだ。
実力主義と言ってもエルフやダークエルフがハイエルフに勝つ事は絶対に出来ない。それほどの力の差があるのだ。
「そして、ダークエルフはハイエルフに仕えようとはしない。勝てないとわかっていながら毎年挑んでいたんだ」
「なんで勝てないってわかってるのにずっと戦ってたの?」
「それは私達にもわからない。ただ、ダークエルフの中には危ない思想を持った者もいたらしい」
「危ない思想?」
イズレンディアがずっと喋っていたが、そこからエルサリオンが変わった。
「反乱だ。ハイエルフはエルフ族の中でも5%だけだが、それに比べてダークエルフは30%の割合を占める。そしてダークエルフは普通のエルフより強く、ハイエルフは弱い。つまりダークエルフが全員敵になったらエルフとハイエルフ側は負ける可能性がなくもないんだ」
「なるほど。だが、そのダークエルフは今何処いるんだ?ここにいる気配はないが、、2階層にいるのか?」
「夏生、お前アルブフ全体の気配を探れるのか?」
「俺も今気付いたんだが、そうみたいだ」
夏生は気配を感じ取る事が元々得意なのだが、その広さは良くて数キロだった。
それが今は数百キロに広がっていた。
「夏にぃすごいじゃん!なんでそんなに広い範囲でわかるの?」
「俺にもわからないが、たぶん俺自身が成長したからじゃないか?」
「そうだろうな。今までの姫那や夏生を見てると異世界人は成長するスピードが尋常じゃないからな」
夏生自身、知らない間に成長していた。
「ここにはいないか、、それと、2階層にもダークエルフはいなかった」
「だったら何処にいるんだ、、」
「イズレンディアは知らないの?ダークエルフが何処に行ったか!」
「私もわからない。私がここに来た時にはもう誰もいなかったからな」
「イズレンディアがアルブフに来たのは悪魔にアルフヘイムを奪われてすぐだったな?」
「はい。情けない事にすぐにこのアルブフに逃げてきました」
「という事はその時にはもうアルブフにダークエルフはいなかったという事だな。そうなると、、」
エルサリオンは一つの仮説を立てた。
「もしかすると最悪の事態になってる可能性もあるな、、」
「最悪の事態、、ですか?」
「あぁ」
そしてそれは夏生も同じ予想をしていた。
「ダークエルフが悪魔側についた、、か?」
エルサリオンは無言で頷いた。
「そんな事ってありえるの?だって同じ同胞なんだよね?」
「そうだが、さっきも言ったように反乱因子がある。その懸念がある以上それを疑わないわけにはいかない」
アルブフにもいない、2階層にもいない、そうなると1番考えられるのは何処かに消えたアルフヘイムにいるという事だ。
「だが、悪魔に加担している可能性と4階層の時と同じように悪魔に捕まっているという可能性、二つの可能性がある。同族としてはどちらも考えたくないが、前者だと同族を殺めなければならない。後者だと助ける事ができれば全て終わる」
同族が悪魔に使われる状態であって欲しいはずがない。
それはみんな言わずもがな、わかっていたが、それよりも同族で本気で殺し合う事の方が嫌だった。
「判断が難しいな。たとえ見つけたとしても目で見たものが真実なのかそれとも偽りなのか、、」
夏生が言いたかった事はもし仮にダークエルフが悪魔側についていたとして、それを隠して捕まっているように見せかける事も可能だという事だ。
それをされてしまってはこちらの動きが鈍ってしまう。
そこがはっきりしない事には、アルフヘイムを見つけたとしても不用意に攻め込めないと思っていた。
「にしても何もないね、、もう結構歩いたと思うんだけど、、」
あからさまに疲れたという表情をしている姫那。
「お前はわかりやすいな。とりあえず一度ここで休憩するか」
何もない場所だったが、姫那が休みたいオーラ満載だったのでその場で休む事にした。
「ふぅ。もうどれくらい歩いたかな?」
「どれくらいだろ?30分くらい歩いたから、、わからない!」
姫那とあかりの不毛な会話を聞いていたイズレンディアが割って入った。
「まだ数キロしか歩いてない。少し休憩したら行くぞ」
「えー、まだそれだけしか歩いてないの?なんかすっごい疲れるんだけど、、」
「たぶんそれは酸素濃度が薄いからだ」
「どういう事?」
姫那にはエルサリオンの言っている事がよくわからなかった。
そこに夏生が言葉を付け加える。
「山とかに登ったら息がしづらくなるだろ?それと一緒だよ」
「なるほど!だから疲れが早く溜まるんだ!なんか理由がわかったら納得して元気になってきた気がする!」
夏生とエルサリオンはこれも姫那のギフトの恩恵なのかと勘ぐっていた。
「まぁとりあえずそろそろ行くぞ」
「はーい!」
アルブフ散策はまだ続いていくのだった。
謎だらけの5階層。
攻略の糸口を見つける事はできるのか?




