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この迷宮を攻略するには何が必要ですか?  作者: シュトローム
第一章 迷宮攻略・故郷奪還編
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EpiSodE080:過去に取り憑かれたエルフ

 エルサリオン曰く、エルフは多少食べなくても死にはしないらしい。

 だが、10年何も食べていないのだ。お腹が減っていないわけがなかった。


 「腹一杯食ったか?」

 「はい。ありがとうございました」

 「礼は俺じゃなくこいつ達に言ってくれ」

 「、、美味い飯をありがとう。感謝する」

 「ううん、全然大丈夫だよ!またお腹減ったらいつでも食べて!」


 姫那の自分を見つめるまっすぐな瞳にイズレンディアはすごく違和感を覚えた。


 「お前は少し前の俺と同じだ」

 「少し前のエルサリオン様と、ですか?」

 「あぁ。俺もこいつらに会う前までは他種族を毛嫌いしていた。もはや目を合わせるだけで殺意が芽生えた。実際殺そうともした」


 すごく心当たりがある夏生はなんとも言えない顔をしていた。


 「それは悪魔に故郷を奪われたから、お前もそうだろう?イズレンディア」

 「全く仰る通りです。私はエルフ以外の種族が憎い。憎くて仕方ありません。ですから、何故エルサリオン様がこのような者どもと一緒におられるのか理解できません」

 「そうだな。俺も最初はそう思っていた」

 「でしたら何故です!何故エルフ以外の種族と行動を共にしているのですか!」

 「そこにいる人間が()()になりたいと、そう言ってきたんだ」

 「友達、、ですか?ちょっと意味がわからないのですが、、」


 イズレンディアはエルサリオンが言っている意味がわからなかった。

 人間がエルフと友達?そんな事今まであり得なかった事だからだ。


 「俺も最初はそう思ったよ。だが、今では俺の大切な仲間であり友達だ。もはや家族と言ってもいい」


 エルサリオンの言葉にイズレンディアは何も言い出せないかった。


 「確かに悪魔は最悪な種族だ。ここに来るまでにもそうだった。だがな、イズレンディア。エルフ以外全てが悪い種族という事でもないんだ。今のお前は過去に取り憑かれている状態なんだよ。俺のそれを消し去ってくれたのはここにいるみんなだ」

 「そう、、なのですか、、」


 流石にイズレンディアもはいそうですかとすぐに受け入れられるものではなかった。


 「お前の気持ちもすごくわかる。だからすぐにとは言わない。少しずつでもいいからエルフ以外の仲間の存在を感じて欲しい。その手始めがこの飯だ。腹一杯食ったなら一度ゆっくりしてしっかり体力を戻せ」


 体の傷を癒やすのにはあまり時間はかからないが、心の傷はなかなか癒えない。

 それがわかっているからこそエルサリオンは少しずつでいいから心を開いて欲しいと思った。


 「エルサリオン様がそう仰るなら、、わかりました。出来る限りの努力はします」


 エルサリオンの言葉には逆らえないので、イズレンディアは渋々了承した。


 「こんな奴だがみんな仲良くしてやってくれないか?」

 「もちろんだよ!エリーの知り合いなら尚更!むしろ私達に会う前のエリーの話とか聞きたいし、こちらこそ是非仲良くして欲しいよ!」

 「それは聞かなくていいよ」


 姫那の言葉にイズレンディアの尖った耳がピクッと動く。


 「エリーとはエルサリオン様の事か?」

 「え?そうだけど?」

 「なんと無礼な呼び方、、エルサリオン様に失礼だぞ!」


 ゴンッ


 「ッ!」


 エルサリオンがイズレンディアの頭に軽くゲンコツを食らわす。


 「俺達は仲間だって言っただろ?いいんだよ呼び方なんてなんでも」

 「そ、そうなんですか?」

 「そうだ」


 イズレンディアは混乱していた。


 「あなたは本当にエルサリオン様ですか?エルサリオン様に似た同胞ではないですか?」


 イズレンディアの言葉に全員の目が点になった。


 「俺は正真正銘、エルサリオンだ」

 「、、そうですか。昔のエルサリオン様ならそのような事は絶対言わなかったので、少し疑ってしまいました。申し訳ございません」


 昔のエルサリオン。どんなエルサリオンだったのか全員がすごく気になっていた。


 「ねぇ、昔のエリーってどんな感じだったの?」


 そして我慢出来ず姫那が目を輝かせ、イズレンディアとエルサリオンに問いかける。


 「昔のエルサリオン様は本当に気高いお方で、同胞のエルフ全員に尊敬されていて、すごくお強い方だった」

 「そうなんだー!他には他には?」


 テンションが上がって前のめりに聞いてくる姫那に、自分が最も尊敬している主人の話をするイズレンディアも気分が乗ってきて、饒舌になる。


 「そんなに聞きたいなら聞かせてやろう。エルサリオン様の武勇伝を!」

 「うんうん!」


 そこから少しの間、姫那はエルサリオンの武勇伝をイズレンディアから聞いていた。


 「すごーい!エリーほんとにすごいね!私達と会った時からずっとすごかったけど!」

 「そうだろう?お前、少しは話がわかる奴だな」


 イズレンディアはもうエルサリオンが離れた事など気付かないくらいに姫那と2人で盛り上がっていた。


 「なんかもう打ち解けてない?」

 「エリーの話をする時のイズレンディアはすごい楽しそうだからな。それを姫那が目を輝かせて聞いてくれるから嬉しいんじゃないか」


 全く夏生の言う通りであった。


 「あいつはいつも俺の話をする時はあんな感じになるんだ。許してやってくれ」

 「許すも何もあんなにも楽しそうに聞いてる奴がいるんだからいい事なんじゃないか」

 「でもやっぱりエリーってエルフのみんなに尊敬されるくらいすごいエルフなんだね!なんかお姉ちゃんみたい!」


 ルーナは4階層での誰にでも尊敬されていた姫那をエルサリオンと照らし合わせていた。


 「一応エルフ族の中では最上位の戦士だったからな。でも姫那やお前達に出会って自分の弱さを知ったよ」


 エルサリオンはエルフ族では最強の戦士だった。

 最強であるが故にそれより上を目指そうとしない自分がいた。

 それが悪魔に故郷を奪われた要因にもなっていたとエルサリオンは思っていた。

 その後2階層に逃げて、故郷奪還の為にずっと鍛錬をしていた。

 そしてまた自分は強くなった気でいた。

 だが姫那達の異常な強さを目の当たりにして、井の中の蛙だったと思い知らされたのだ。


 「それはもうお姉ちゃんが強過ぎるから仕方ないよ!」


 ルーナが何の悪気もなく遠回しにエルサリオンでは姫那には勝てないと言った。


 「はは、そうだな。姫那は別格だからな」

 「そうだよ!」


 何故かルーナが自慢げに答える。

 エルサリオンはルーナの事を、自分の事を話す時のイズレンディアと一緒だなと思ったのだった。

 そして話が終わったのか、イズレンディアがエルサリオンの元に寄ってきた。


 「エルサリオン様、あの姫那とかいう人間結構話せますね。エルサリオン様の言う通り、少し見方を改めます」

 「お前、俺以外の話はしたか?」

 「?いえ、してませんが」


 やっぱりなという顔をしたエルサリオンだが、最初はそれでもいいからイズレンディアと姫那達の距離が近くなって欲しいと思うエルサリオンであった。

似たもの同士のイズレンディアとルーナ。

5階層攻略はどうなっていくのか。

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