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この迷宮を攻略するには何が必要ですか?  作者: シュトローム
第一章 迷宮攻略・故郷奪還編
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EpiSodE079:同胞

 4階層では攻略に奴隷解放に大宴会に、すごく内容の濃い日々だった。

 全員が精神的、能力的に成長できた階層だった。

 そして転移中の姫那達はというと。


 「楽しみだね、5階層!」


 新たな旅に心躍らせるルーナが姫那に興奮気味に言う。


 「、、うん!そうだね!」


 姫那を見る夏生。


 「楽しく行こう。未知の場所に行く時の俺達はいつもそうだったろ?姫那」


 夏生に言われて自分が今どういう状態だったのかわかった気がした。


 「うん!そうだった!早く着かないかなー!」


 夏生の一言でいつもの姫那に戻った。


 「それでこそ姫那さんです!次の5階層も楽しみましょう!そしてエリーさんの故郷を取り戻しましょう!」

 「そうだね!」


 そして当初の目的の5階層に到着した。


 「5階層とうちゃーく、、あれ?」


 全員がその違和感に気付いた。

 エルサリオンが言っていた話とまるで違う風景が目の前に広がっていたからだ。

 5階層はエルサリオン曰く自然が溢れている場所と言っていたが、自然なんて程遠い枯れ果てた地であった。

 奪われた150年という月日はあまりにも長く、環境が変わるには十分な時間だったのだ。


 「そん、、な、、なんでこんな事に、、」


 それを目の当たりにしたエルサリオンは本当にここが自分がいた場所なのかと疑いたくなるくらい面影すらない場所であった。

 そして膝から崩れ落ちた。


 「エリー!大丈夫、、じゃないよね、、」


 姫那がエルサリオンを励まそうとしたが、エルサリオンの絶望に満ちた顔を見ると気軽に励ますなんて事は出来なかった。


 「おい、エリー。大丈夫か?気持ちはわかるが、まずはお前の故郷のアルフヘイムを探さないといけないんじゃないか?」


 エルサリオンが何かを思い出したように空を見上げる。


 「ない、、」

 「ない?」

 「俺たちの故郷のアルフヘイムがない、、いつもは上空にあって、下界からも見えていたんだ。そのアルフヘイムそのものがない」

 「ないって、なんでないんだよ?」

 「150年前なんだ、俺がわかるわけないだろ。むしろ知りたいくらいだ」


 エルサリオンの故郷アルフヘイムがあるはずの場所になかった。


 「悪魔が何かしたのは間違いなさそうだな」

 「、、マモン」


 エルサリオンが悪魔の名を口にする。


 「お前と長老が言っていた悪魔だな。七大悪魔の一柱の強欲を司る悪魔マモン」

 「そうだ。こんな事できるのはあいつ以外にいない」

 「そんなに強いのか?マモンって悪魔は」

 「前にも言ったが、以前の俺は姿すらほとんど見えなかった」


 あの強いエルサリオンが姿も見えない程という事に全員驚きを隠せなかった。


 「エリーでも見えないなんて、、」

 「以前の俺ならな。今の俺はその頃より格段に強くなっている。少なくとも姿くらいは見えるだろうし、戦う事もできると思っている。だから大丈夫だ」

 「大丈夫ってどういう事だ?」

 「、、いやなんでもない。それより一度ここを探索してみよう。看板もどこかにあるはずだ」


 他は何も気に留めなかったが、夏生だけは違った。

 エルサリオンの大丈夫という言葉。それは4階層の時の姫那と同じような雰囲気だったからだ。

 だが今はその肝心のアルフヘイムすら消えてしまっているから、あまり深く聞かない事にした。


 「そうだな。まずはここの内情を知らない事には何も始まらないからな」

 「どこに行くの?エリーはここがどこの辺りかわかるの?」

 「なんとなくだがな。俺は基本アルフヘイムにいたからそこまでここに詳しくないんだ」


 生活のほとんどをアルフヘイムで過ごしたエルサリオンは下の事をあまり知っていなかった。

 すると、背後から見知らぬ声が聞こえてきた。


 「エルサリオン様ですか?」


 その声に全員が反応した。


 「誰だ!」


 いち早く夏生が臨戦態勢に入った。


 「おっと。そんなに敵意を剥き出されると私もやるしかないな」


 目の前の得体の知れない者も臨戦態勢になった。


 「夏生、待ってくれ。こいつは悪魔じゃない。耳をよく見ろ」


 エルサリオンにそう言われて見てみるとエルサリオンと同じように耳が尖っていた。


 「エルフ、、なのか?」

 「あぁそうだ。と言っても俺も見た事ない同族だが、、」


 エルサリオンも初めてみる顔の同族のエルフだった。


 「お前はどこのエルフだ?」


 エルフ族は家系等で分かれていて、エルサリオンはその中でも貴族の部類に入るハイエルフであった。

 その家系をエルサリオンが問いただす。


 「エルサリオン様が覚えてらっしゃらないのも無理はないです。あの時と比べて私もだいぶ痩せましたから、、」


 その言葉にエルサリオンは疑問を覚え、自分の前に立つエルフをもう一度よく見る。


 「お前は、、イズレンディア、、か?」

 「左様でございます。こんなお見苦しい姿で申し訳ございません」


 そこにいたエルフはエルサリオンの顔馴染みのエルフだった。

 そうわかった瞬間、エルサリオンはイズレンディアを抱きしめた。

 それを見ていつものエルサリオンではあり得ない行動だったので全員驚きを隠せなかった。


 「お、おい。そいつは知り合いなのか?」


 夏生がエルサリオンに問う。


 「あぁ、悪魔に奪われる前にいた俺の家の家臣だ。でも、まさか生きていたなんて、、よかった、、」


 涙を流して喜ぶエルサリオン。


 「もったいなきお言葉です。あの時私は悪魔の手に掛かり瀕死の状態になりましたが、なんとかこの下界に逃げ果せました」

 「そうだったのか、、それでずっと今まで下界にいたのか」

 「はい。150年の間ずっと同胞が来るのを待っていました」

 「150年、ずっと1人だったのか?」

 「はい。もちろん同胞を探しました。だが誰一人として見つからず、100年過ぎた辺りで諦めました」

 「、、そうか」


 考えただけでも恐ろしかった。

 150年間ずっと1人。周りに頼れる存在もおらず、敵ばかり。

 自分なら150年もの孤独に耐えられただろうか。

 それぞれが考えた。

 更にイズレンディアは姫那達を驚かせる発言をする。


 「エルサリオン様、今アルフヘイムは完全に悪魔に占拠されております。如何にして取り戻しましょうか?」

 「え?」


 全員が耳を疑った。

 イズレンディアは同胞を探す事は諦めていても、故郷を取り戻す事は諦めていなかった。

 150年もの間ずっとその火だけは絶やさずに灯し続けていたのだ。


 「まずはアルフヘイムを見つけないといけないな。何故消えているか突き止めないと何も進まない」


 エルサリオンはわかっていたようだった。

 エルフ族の気高さを改めて知らされた瞬間だった。


 「ただその前にイズレンディア、いつから食べてない?」

 「この程度大した事ありません。それよりも、、」

 「いいから答えろ!いつからだ?」

 「、、10年程です」

 「じゅ、10年!?10年間も何も食べてなかったの?」


 思わず姫那が反応してしまう。


 「誰だお前は」

 「今の俺の仲間だ。そんな事よりお前、まず何か食べろ」

 「そんな悠長な事は言ってられません。早く行かないと、、」

 「いいから食べろ!これは命令だ!」

 「、、ですが、食料なんてここには、、」

 「夏生、こいつに何か食べさせてやってくれ」


 姫那達はクルアラントから転移する前、タルブに大量に食料をもらっていた。


 「あぁ、いいぞ」


 夏生がイズレンディアにパンを渡した。


 「そんな施しなど、、」

 「いいから食えって言ってるだろ!」


 エルサリオンが夏生からパンをもらい、イズレンディアの口に突っ込んだ。


 「故郷は必ず取り戻す。だが、今のお前はなんの力にもならない程に衰弱しきっている。まずは体力を戻せ。話はそれからだ」

 「エルサリオン様がそういうなら、、」


 イズレンディアは与えられたパンを食べていた。

 最初は少しずつ、そしてだんだん食べるスピードが早くなり、他の食べ物にも手が伸びる。


 「美味い。美味いぞ」


 10年分の食事とはいかないが、10年ぶりの食事に食欲を止める事など出来るわけもなく、涙を流しながらがむしゃらに食べていた。

 そんなイズレンディアをエルサリオンも無言で見守っていた。

波瀾万丈の5階層の幕が開けた。

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