EpiSodE072:命懸けの情報
人間の族長、タルブから思わぬ言葉が飛び出した。
それを聞いていた夏生とエルサリオンが目を見開き、目を合わせる。
そして姫那とタルブの方に走っていく。
「おい!その話詳しく聞かせてくれ!」
「ど、どうしたの夏生とエリー!そんなに慌てて!」
姫那はすごくびっくりしていたが、タルブはあまり驚いてなかったようだ。
実はタルブは夏生とエルサリオンの朝の会話を聞いていて、それを手土産にしようと決めていたのだ。
だから敢えて夏生とエルサリオンに聴こえるくらいの声で言ったのだ。
「あぁ、いいだろう。君たちにも恩がある。それくらいはわしらに任せてくれ」
「でもどうやってその転移陣を入手したんだ?」
「転移陣を入手したというよりは悪魔達から半年かけて転移陣がある場所を突き止めたと言った方が正しいな」
「やはり入ってきたところからじゃバルナス島?には行けないんだな」
夏生とエルサリオンはバルナス島にいた際に水面下にある転移陣から入ってここにきたが、戻る際には転移された場所からバルナス島には戻れないと予想していて、やはりそれは正しかった。
「そうだ。わしらの仲間がそこに行ったがバルナス島に上がる為の転移陣はなく、更にはそこに追い込むのが悪魔の罠で何人も犠牲になった。なんとか1人だけ傷だらけで帰ってきて、その戦士がその場所からはバルナス島には行けないという事を伝えてくれた。その後すぐに死んだがな」
半年かけて知り得たバルナス島へ戻る為の転移陣。
それを知る為にどれだけ集落の全員が危ない橋を渡り、どれだけ犠牲になったのか、想像しただけで寒気がした。
「、、じゃあここにいるみんなもバルナス島に行くのか?」
夏生がタルブに聞くと、タルブは一度下を見て、そして上を見上げて答えた。
「いや、わし達はここに留まるよ。故郷に戻りたい気持ちもあるが、バルナス島には君達も知る通り木と砂くらいしかないからな」
確かにバルナス島はここのような建物や整備された道なんて全くない無人島だった。
そしてタルブはこう続けた。
「悪魔がいなくなった今、ここ海底都市クルアラントはわし達の街になったんだ。今まで奴隷として働かされていた分、働き方には困らないだろう。後は全員で協力して街の更なる発展を目指すよ」
タルブは奴隷として捕らえられていた時の死んでいた目とは全く違って、子供が新しいおもちゃ与えられた時のような輝きを放った目で海底都市クルアラントの先を見据えていた。
「そうか。この街の未来が楽しみだな」
夏生は普段あまり見えない笑顔で笑っていた。
そして姫那も。
「私もすごい楽しみだよ!ここのみんななら絶対すごい街が作れる!」
「姫那様までそう言ってくれるとは、、ありがとうございます。その期待に応えれるよう我等一同精進してまいります」
姫那に話す時だけは絶対に敬語だが、もう姫那も夏生達も慣れてしまっていた。
「と言いましても、たまに島に上がって必要な物資の調達等はしたいので全く戻らないというわけではないですが」
バルナス島にはそこにしかない特殊な薬草や作物がある。
それはここにある物より効果があり、生活には欠かせない代物であった。
「そうなんだ!あの島にはなんにもないと思ってたんだけど、そんなにすごい物があったんだね!」
「俺達もバルナス島に行ったら採っておくか」
夏生も今後の事を考えて薬草を採っておく必要があると考えた。
「あ!それなんだけど、薬草とかそういうのは採らなくていいと思う!」
「なんだ?どういう事だ?」
「これからはあかりも一緒に行く事になったの!ね、あかり!」
「うん!私も姫那達と一緒にこの世界を攻略して元の世界に戻る!夏生さん、、私もついて行っていいですか?」
「あぁ、もちろんだ。あかりがいてくれたら俺達も本当に助かる」
「本当ですね!僕達に足りなかった部分をあかりさんは補ってくれる存在ですもんね!」
その言葉に不安そうな顔だったあかりは最高の笑顔に変わった。
「ありがとうございます!これから私も全力で頑張ります!」
「一緒に頑張ろうね!あかり!」
「うん!」
そして、転移陣に向かう準備が整った。
「よし、やっとだな。エリー」
「あぁ。そうだな」
何か鬼気迫るような雰囲気のエルサリオン。
「まぁ今からそんなに張り切らなくてもいいんじゃないか。お前の気持ちを理解するには俺達は生きた年月が全く足りないと思うがな」
「いや、お前の言う通りだ。今から気を張り詰めていても持たないな。エルフ全員の150年の思いとなると少し気が急いてな」
姫那や夏生はまだ数ヶ月の事だが、エルサリオンからしたらこの時を150年待っていたのだ。
だからこそ今から気合いが入ってしまっていた。
「夏生ー、エリー!行くよー!」
「今行く」
そしてタルブの案内の下、転移陣がある場所を訪れる。
「ここにあるの?」
「はい、そうです。ここの何処かにあるはずです」
タルブに連れられてきた場所は悪魔の街だった。
「ここに入った事あるの?」
「ないです。でもこの中にあるはずです。私ども元奴隷だからこそわかった事です」
「どういう事?」
「悪魔に酒を飲ませていい気分にさせて話させたんです。危ない橋でしたが、それを聞き出す為なら命を懸ける価値はありました」
全ての行動が命懸け。
その行動があったからこそ転移陣の手掛かりを掴む事ができたのだ。
ただ、その転移陣がこの悪魔の街の何処にあるかがわかっていなかった。
「すみません、この中のどこかにあるという事はわかっているんですが、どこにあるかまではわかってないです」
「いやいや!ここまでわかってるんだからすごいよ!ここからは私達がやるから!それだったら私達が見つけたら何か目印残しとくよ!」
「ありがとうございます。そうして頂けると私どもも非常に助かります」
ここからどうやって見つけるのか、タルブはすごく気になっていた。
「夏生!この中にはもう悪魔は1人もいないかな?」
「、、わからない。もうボスもいないし、部下もいない確率の方が高い。だがいる可能性もゼロではないとは思う」
「そっか!じゃあいるかもそれない悪魔を見つけるしかないね!」
姫那の考えは悪魔だったら転移陣の場所を知っているだろうと思っており、悪魔を見つけその場所を吐かせようという事だった。
「悪魔が見つかればそれが一番手っ取り早いな」
ここから抜けるには生き残りの逃げてない悪魔を見つける事が最優先事項になった。
そしてついに別れの時が来た。
「タルブさん、今まで本当にありがとう!タルブさんがいなかったらここまで絶対来れなかったよ!」
「いえいえ、私はこんな事しかできませんので」
「こんな事って、私達からしたら最高の事だよ!ここからは悪魔が出る危険もあるから私達だけで行くね!本当にありがとう!また会おうね!」
「はい!我々一同また姫那様達にお会いできる事を心待ちにしております!」
姫那の目には涙が光っていた。
いつでも別れの時は寂しいもので、会えるかもわからない相手にまた会おうと言ってしまう。その約束は守る事は難しいかもしれないが、生きている限り心の中に在り続けるものなのである。
ほとんどの悪魔が逃げた街にまだ悪魔は残っているのか?




