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この迷宮を攻略するには何が必要ですか?  作者: シュトローム
第一章 迷宮攻略・故郷奪還編
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EpiSodE064:ゾーン

 姫那が続々とブレスレットを壊していき、もう終わりが見えていた。


 「ふぅ。後何人くらいかな?」

 「もう十人を切った。後九人だ」

 「そっか!もうちょっとだね!頑張らないと!」

 「姫那、大丈夫か?ずっと休まずにギフトを使い続けているが、ギフトを使うのは体力を使うんだろ?」


 エルサリオンはギフトの事はあまりわからなかったが、使い続けると体力を消耗するのはなんとなくだがわかっていた。

 というより、こういう特殊な能力というのは種類を問わず、力を使えばその代償があるのが定石だった。


 「確かにちょっと疲れてはいるけど、まだまだ全然大丈夫だよ!それよりも早くみんなを助けたいって気持ちの方が強いから!」


 強がりなのか、本当に大丈夫なのかエルサリオンには姫那の本当の状態がわからなかった。

 わかっていたのは唯一人だけだった。


 「お姉ちゃん、、」


 ルーナだ。ルーナはずっと姫那を抱えて飛んでいて、気を抜いている時の姫那を一番間近で感じている。

 ルーナが抱えて飛んでいる時の姫那はいつもなら楽しく会話をしたりしているのに、今の姫那は全く喋らず、逆に喋りかける事もしづらいくらいに意気消沈だったのだ。

 何か自分も力になりたい。でも今の姫那がやっている事は姫那にしか出来ない事で、ルーナだけじゃなく、他のみんなも同じく何も出来なかった。

 だが、ルーナは誰よりも強く力になりたいと思っていた。

 それはもちろん姫那の状態を一番知っているからというのもあるが、それよりも自分の大好きなお姉ちゃんだったからだ。

 だからこそ、何もできないのが自分がもどかしかった。


 「これで最後だね!」


 最後は一番最初に姫那達を見つけた男だった。


 パキッ


 「あれ?壊れない?」


 パキン


 「あ、壊れた!よかった〜!」

 「姫那様、ありがとうございます。この御恩をどう返したらいいか、、」

 「ほんとにそんなの大丈夫だよ!中央広場でする大宴会に来てくれたらそれでオッケー!」

 「もちろんそれには是非参加させて頂きます」


 今、姫那は何事もなかったかのように流していたが、一番心配してずっと姫那の事を見ていたルーナは見逃さなかった。


 「お姉ちゃん、今一回で壊せなかったよね?」

 「うん?あー、そうだね!ちょっと力加減間違っちゃったみたい!」


 明らかに誤魔化していた。ルーナはわかっていたが、何も言えなかった。

 今姫那を止めたら姫那に嫌われると思ったからだ。

 姫那は今、奴隷の解放の事しか考えておらず、それを止める事は誰であっても出来ないのだと思わせる程であった。


 「、、そっか。あんまり無理はしないでね?」

 「大丈夫だよ!いつもありがとね!」


 姫那の安心させようとする作り笑いに対して同じ作り笑いだが、ルーナは心配の表情が消えきってない作り笑いで返した。


 「よし!全員終わったし、最後の中央広場に行こっか!そこでこの奴隷なんて時代錯誤な制度も終わりなんだ!」


 姫那は今脳内でエンドルフィンが大量に分泌されて、フロー状態になっていた。

 いわゆるゾーンに入っていたのだ。


 「あいつ大丈夫かよ。もうとっくに限界なんて超えてるんじゃないか」

 「さっき、最後の一人のブレスレットを壊す時、一回で壊せたなかったんだ。お姉ちゃんは力加減を間違ったって言ったたけど、私はそんなんじゃないと思う」

 「そうだったのか。それを姫那には言えてないんだな」

 「え、そうだけど、、なんでわかったの?」


 何故姫那に言ってない事が夏生にわかったのかルーナは不思議に思った。


 「そんなのお前の顔を見たらすぐわかったよ。一応聞くが、何故言わなかったんだ?」


 ルーナは言いにくそうに夏生に理由を話した。


 「お姉ちゃんに嫌われたくなかったから、、今のお姉ちゃんは奴隷解放の事しか頭になくて、それを今止めたら嫌われちゃいそうな気がして、、」


 ルーナは感情が昂って泣いていた。

 姫那のしたい事の邪魔はしたくない。でも姫那の事が心配だから休んで欲しい。

 今自分が何をするべきか、何が正しいのかわからなくなっていたのだ。

 そこに話を聞いていたエルサリオンがルーナに話しかける。


 「ルーナは優しいな。そんなに姫那の事を心から考えてる子の事を姫那が嫌いになるわけがないじゃないか。ましてやルーナは姫那の妹だぞ?そんな心配は全くいらないよ」


 エルサリオンはルーナの頭に手を置き、優しく慰める。


 「エリー、、」


 その優しさが更にルーナの涙腺を緩くする。


 「お前泣きすぎだぞ、ルーナ」

 「別に泣いてないもん!夏にぃのバカ!」

 「まぁどちらにしても今のまま姫那を突っ走らせるのは危ないとは俺も思う。だが、何を言っても姫那が止まらないのもわかっている。だから本当にヤバそうだったら俺達全員で全力で止めよう」


 エルサリオンの提案に夏生もルーナも頷いていた。


 「葵には後で俺からまた伝えておく。そろそろ呼びに来る頃だろうから行こうか」


 葵は姫那と一緒にいて、まだ話をできていなかった。


 「ルーナ、夏生、エリー!何やってるのー!早く行くよー!」

 「ほら来た」

 「はーい!今行くよー!」


 エルサリオンの予想通り、姫那が早く先に行きたいと急かしてきた。


 「飛ぶよ!お姉ちゃん!」

 「うん、よろしくね!」

 「、、お姉ちゃん、次が最後だね!後もう少し一緒に頑張ろうね!」

 「そうだね!やっとここまできたんだ!絶対最後までやりきる!なんかさっきからすごく調子がいいんだ!こりゃ最後も余裕だね!」


 姫那はついには疲れを感じなくなっていた。

 こうなってしまっては今の姫那は最後の力を振り絞って本格的にゾーンに入っていると確信した。

 そしてゾーンに入ったと同時に姫那の体力も風前の灯火だった。


 「今まで通りで大丈夫だと思うよ!中央広場は思ってるより人数もいないし!」

 「まぁそれもそうだね!」


 そして、中央広場に向かってる途中にエルサリオンが葵に先程の話を伝えていた。


 「そうでしたか。僕も大丈夫なのかな?とは思ってたんですけど、やっぱり限界は近そうなんですね」

 「たぶんもう限界は超えている。全員を助けたいという気持ちだけで行動しているんだろう」

 「僕も姫那さんの事、注意深く観察しておきます!」

 「あぁ、よろしくな」


 エルサリオンが葵と話しているうちに中央広場に到着した。

 そして、ルーナは複雑な気持ちのを抱えたままであった。


 「なんか、もうこの場所が懐かしいな。何日も前にいたように感じる」

 「それすごくわかる!色々ありすぎたもんね!」


 中央広場にも姫那達の噂は広がっていて、先程の最後の集落の時と同じように大歓迎された。

 更にはブレスレットをはめた人達が並んで待っていたのだ。


 「すごい!みんな並んでるよ!これで全員なのかな?」

 「集まって並んでるくらいだからこれで全員なんじゃないか?」


 並んでるのは70人程だった。


 「さ!パパッとやっちゃいますか!」


 姫那はそう言ってまたブレスレットの解除に向かうのであった。

 何事もなく無事に終わる事はできるのだろうか。

着実に奴隷は解放されていたが、着実に姫那も体力も削られていた。

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