EpiSodE063:女神とそのお付きの者
最後の集落に着いた姫那達は早速ブレスレットを解除しようと集落の中に入っていく。
そして一人の人間の男がこちらを窺っていた。
姫那達はまた今までと同じで邪険にされるのだろうと思っていた。
「お前達は誰だ?」
男が姫那達に話しかけてきた。
「俺達はこの集落を助けに来た。奴隷から解放しに来たんだ」
夏生が同じように助けに来た事を告げる。
すると、男は目の色が変わり、人間とは思えない機敏な動きで集落の奥に戻っていった。
「なんだ?なんか今までと少し反応が違ったよな?」
「うん、、目も今までの人達とちょっと違った感じがしてたような、、」
そして少しして、また凄い勢いで戻ってきた。
「お待ちしておりました!是非こちらにお越しください!」
男は姫那達を笑顔で歓迎していた。
今までとは対応が違いすぎて、少し戸惑う姫那一同。
「なんか歓迎されてるみたいだし行ってみようよ!」
「うん!行こー!」
「行きましょう!」
こういう時はいつも姫那が先陣を切って何も考えず進んでいく。
それにもう慣れてしまったルーナや葵も楽しそうに姫那についていく。
「まぁ、何かあっても対処はできるか」
夏生とエルサリオンももし何かあったとしてもギフトも何も持たない無能力の人間に負ける事はないと思い、何も言わずついていった。
そして男に案内されるがままに集落の奥へと入っていき、開けた場所に出た。
「お待ちしておりました!姫那様とそのお付きの方々!来て下さるのを心待ちにしてました!」
そこにはこっちの世界の人間が百人程いて、姫那達に歓声を送っていた。
「これ、、は?どういう事だ?」
「わからないけど、今までと違ってすごい歓迎されてるね!」
すると、先程の男ともう一人の男が近付いてきた。
「お騒がせしてすみません。私共は姫那様達の存在をお聞きしておりました。奴隷解放の為に集落を回っている異世界人の方々がいると」
男が連れてきたのはこの集落の族長のような人らしく、姫那達の噂を耳にしていたらしい。
「私達の事を知っていたの?どうやって私達の事を聞いたの?」
「この奴隷の集落は種族は違えど、みんな繋がっております。いつか悪魔の魔の手から逃れようとみんなで固く誓ったのです」
族長曰く、集落間では常に情報共有をしているらしく、それで今回姫那達の事も伝わっていたらしい。
「でも、それだったらなんで今までの集落は私達の事知らなかったんだろう?」
「それは姫那様御一行が集落を回るスピードが速すぎて、お恥ずかしながらそれについていけず、最後のこの場所でなんとか先に知る事ができたのです。今までの非礼、他の集落の者に代わってこの街の人間の族長である私、タルブがお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした」
人間の街の族長という事はこの階層の人間の中で一番偉い人なのだろうか?
すごく礼儀正しく頭を下げていた。
「そんな!頭なんて下げないで下さい!お詫びなら他の人達からもしてもらったし、そもそも今まで悪魔の奴隷として使われていたんだから、過敏になってしまうのも仕方ないですよ!」
タルブの礼儀正しさに釣られて、姫那も敬語で喋っていた。
「姫那様の心の広さに感服します。お体は疲れてはないですか?ここは奴隷の集落なので何もないですが、休むくらいの場所ならご用意出来ますので」
姫那達を神のように扱う姿を見る限り、伝わり方はやはり姫那という女神とその一行という形で伝わってるみたいだ。
「全然疲れてないんで大丈夫ですよ!それよりも早く終わらせちゃいましょ!」
姫那はそう言ってタルブのブレスレットに触れ、それを破壊した。
「おぉ、本当に外れた。ありがとうございます。本当にありがとうございます」
「だからそんなに頭下げないで下さいってー!」
タルブがひたすら感謝の言葉を述べていたが、感謝されすぎて姫那は少し困惑していた。
そんなやり取りをしていると、それを見ていた集落の子供達が数人走って姫那の元にやってきた。
「女神様女神様!私のこれも外して下さい!」
ボロボロの服を着た5歳か6歳くらいの女の子が姫那にブレスレットをつけた腕をあどけない笑顔で差し出してきた。
「こら!姫那様に失礼だろ!下がってなさい!」
タルブに叱られる女の子だったが、姫那が優しく対応する。
「タルブさん!怒らないで下さい!全く失礼なんて思ってませんから大丈夫です!」
「しかし、、」
「こっちにおいで!」
数メートルの距離だが、女の子は走って姫那のところに向かった。
「あなたは名前はなんていうの?」
「ハルはハルって言います!」
「そっか!ハルちゃんか!私は姫那って言うの!自由になったら何がしたい?」
「美味しいご飯を食べて〜、新しい服を着て〜、後お風呂に入りたいな!」
ハルが言った自由になったらしたい事は奴隷じゃなく、普通に生活をしていれば出来る事だった。
それを聞いた姫那は少し泣きそうになっていた。
「やりたい事いっぱいあるんだね!これからやりたい事全部やろうね!」
そう言うと姫那はハルのブレスレットを壊した。
「やったー!外れたー!ありがとうございます!姫那様!」
ハルは先程駆け寄ってきた時とは違って、本当に心から喜んでいる笑顔を姫那に贈った。
それに対して姫那も最高の笑顔で返した。
その時に姫那が感じた事は、この笑顔のために今までやってきたんだと。
そしてそれを見てもう一人懐かしさを感じている者がいた。
「シルフィの時と似ているな」
エルサリオンだった。
エルサリオンは姫那が2階層でシルフィと話している姿を重ねていた。
あの時も姫那と小さなエルフの子供のおかげでエルフは他種族との繋がりを取り戻した。
あれから姫那はずっと変わっていなかった。
そしてこれからもそうなのだろうとエルサリオンは思ったのだった。
「さぁ、もう一気にやっちゃおうよ!みんなも早く自由になりたいよね!」
「「はい!」」
ハル以外の走ってきた子供達も目を輝かせ、元気良く返事をした。
そして、姫那は次から次へとブレスレットを壊していった。
「本当にすごい。あっという間に半分以上が終わった、、」
タルブが姫那のギフトと底知れない体力に改めて関心していた。
「姫那さん、すごいですよね!ここに来るまでに700人以上の人達を助けてきたんです!それでもまだあんなに余裕でずっと助け続けてるなんて、、」
正確な数字は855人と700人すら優に超えていたのだ。
「な、700人?そんな数を、、そうか、確かにここが最後だとするとそれくらいはいってるか、、姫那様は本当に大丈夫なのか?」
「あんな平気そうな顔をしているが、正直俺達にもわからない」
「少しでも休めるように移動する時は私と一緒に飛んでるけど、、」
集落間の移動の時はルーナが姫那を抱えて飛んで移動をしていた。
そうする事によって、ルーナやみんなの気持ちが嬉しくて姫那はずっと笑顔で貫いてきているが、実はギフトの過剰使用の代償は確実に姫那の体を蝕んでいた。
姫那の体の状態は今どうなっているのか、姫那自身もまだわかっていなかった。




