EpiSodE006:新たな旅立ち
エルフの街を後にした姫那達はこの階層に来た時と同じように大草原を彷徨っていた。
「エルサリオン、この階層に来て長いんだからここの事詳しく知らないのか?」
「全く知らん。多種族との遭遇を防ぐために必要最低限しか街の外には出なかったからな。逆に俺に教えてほしいくらいだ」
100年以上も2階層にいるのにエルサリオンはこの階層の事を全く知らないらしい。
エルフのほとんどが街から出られない。それくらいのトラウマを与えられたのだろう。
それを乗り越えて今こうして故郷奪還の為に外に出てるエルサリオンは本当にすごいと思う。
「今の俺は昔よりも数段強くなったが、まだ今のままではマモンには勝てない」
「そんなに強いの?マモンって悪魔」
「あぁ。手も足も出ないだろう。だから故郷に辿り着くまでにもっと強くならないといけない」
「エルサリオンでも手も足も出ないって相当やばいね、マモンって悪魔」
そんな話をしながら歩いてると1階層の時と同じような看板が見えた。
「あれってもしかして、3階層への道案内の看板じゃない?」
姫那が看板らしき物に気付き走っていった。
何か見つけると走って見に行かずには居られないらしい。
夏生とエルサリオンが歩いて追いつくとその看板には【これより先は3階層】と記されていた。
だが、看板があるだけでどこが3階層の入り口なのか全くわからない。
「これどこから3層に行くんだろ?」
「上に行けそうなとこが何もないな。どういう事だ」
「1層からここに来る時はどうやって来れたんだ?」
エルサリオンが問う。
「同じように看板があって、近くに転移陣みたいなのがあったんだよね?」
「あぁ。それに入ったら2層に来れたんだ」
2層に上がってくる時には転移陣があって、3層に行こうとするとそれがない。
そこで、長老が言っていた事を思い出した。
「そういえば、上に行くには条件があるってアルフィリオンさんが言ってたな」
「あ!言ってたね!じゃあまだ3層に行くための条件を満たしてないのかな?」
「そうなんじゃないか。1層の時は知らない間に条件は満たしてたって事なら辻褄も合う」
「確かに!でも条件ってなんなんだろ?」
「それがわかれば苦労しないんだが。それにこの横に書いてる文字もわからない。3層と書かれてるところはわかるのに、何故この部分だけわからないんだ」
「お前ら読めないのか?」
エルサリオンが不思議そうにしている。
「もしかして、エルサリオン読めるの」
「読めるよ」
即答だった。
「なんで読めるんだよ」
「なんて書いてるの?」
「【北の山を掌握せよ】って書いてるな」
「掌握ってどういう事だ?しかも方角とか全くわからねぇし」
「方位磁石とかもないしね、、」
「北はあっちだ」
エルサリオンが指を指す。
「え?方角わかるの?」
「あぁ。わかる」
「なんで何もないのにわかるの?」
「んー、直感、かな」
「直感で方角がわかるってどういう事だよ」
エルサリオン曰く、この世界のエルフは直感がすごいらしく、方角くらいなら直感でわかる。
「すごい能力だね!文字も読めるし、エルサリオンが一緒に来てくれてよかったー!」
姫那は大はしゃぎだ。
エルサリオンも姫那ほどじゃないが、満更でもなさそうに少し照れていた。
そんなエルサリオンを見て夏生は茶化さずにはいられなかった。
「何照れてんだよ」
「照れてねーよ!」
と、照れながら返すエルサリオンだった。
そして、エルサリオンが指を刺した方向に歩いて向かう事にした姫那達だが、数時間歩いても肝心の山が全然見当たらない。
「山なんて全然ないぞ。また魔法でみえなくなってんのか?姫那、何か見えないか?」
「んー、何も見えないから魔法とかで隠されてるとかではないと思う」
「だがこっちが北である事は確かだぞ」
エルサリオンの直感だけを頼りに歩いていたが、日暮れが近づいてきた所で進むのをやめた。
これまでは姫那の能力で出来るだけ魔物と戦わず進んで来たが、夜になると魔物の数が一気に増える。
流石の姫那でも全部を洗脳する事は難しい。
戦っても勝てるとは思うがここは街灯も何もない為、勝率も下がってしまうし、無理をして戦う必要もない。
「こんなとこに岩場があってよかった」
「そうだね!洞窟みたいな形でちょうど外から見えなくなってるし、魔物からも隠れられそうだし!」
「それにしても直感を頼って向かってるのに山すら出てこないなんてな」
「とりあえず、今日はここで休もうよ!」
ここまで半日で数十キロは進んで来た。
なのに山が出てくる気配すらない。
本当にこっちの方角で合ってるのか疑いたくなるくらい何も出てこない。
それでもこの状況で唯一頼れるものはエルサリオンの直感だけ。
それを信じて進むしか今は道がない。
その夜、三人は明日どう動くか会議をした。
「明日どうしようか」
「こっちが北で間違いないが、こんなに何もない景色が続くと自分でも自分の直感を疑いたくなるよ」
「何もなくないよ!」
「何か見つけたのか?姫那」
「この場所だよ!こんな岩場今までなかったじゃん!ずーっと草原で石ころすらなかったくらいなのに!」
姫那が力強く答える。
「そう言われてみると、確かにそうだな。一応近づいては来てるって事か」
「山に着くだけじゃなく、掌握しろと書いてたからなんとか明日には着きたいな」
「その掌握しろってどういう事なんだろうね?やっぱり何か強い魔物とかがいるのかな?」
「その辺は着いてみないとわからないな。まぁどちらにしても掌握しないと3階層に行けないならそうするだけだな」
今の状況は確かに厳しいが、三人は何の心配もなかった。
何故なら山に着いてしまえば、すぐに3階層に行けると確信があるからだ。
ここに来るまでに魔物に何度も遭遇した。
そしてそれを半日倒し続けたのだ。
異能力者の能力は成長する。
姫那も夏生も半日でさらに強くなっていた。
特に姫那の成長は著しい。
意識誘導を昇華させ、思考誘導ができるようになっていた。
意識誘導は自分から意識を違うところに向けるのが限度だが、思考誘導は相手に何をさせるかまで誘導できるようになる。
姫那が思考誘導を発動すると例えば、
『右手を出せ』と言えば相手は右手を出す。
相手の行動を限定できるようになったのだ。
そして、夏生は剣のスイッチのスピードが格段に上がった。タイムラグもほぼなしで違う剣にスイッチできるようなったのだ。
エルサリオンは言わずもがな、その実力は折り紙付きだ。
「決めた!」
姫那がいきなり叫んだ。
「どうしたんだよ、いきなり」
「技名だよ!私の技名!」
「お、おう」
技名なんて必要なのかと思う二人。
「一つは意識誘導で、もう一つが思考誘導!」
その技名を聞いた時、二人は衝撃を受けた。
技名は必要だ!と。
会議も終わり、全員眠って体力も回復し、朝を迎えた。
隙間から差し込む朝日が三人に二日目の階層攻略の始まりを告げる。
西條姫那
能力〈ギフト〉:洗脳系のギフト
・意識誘導
・思考誘導
石田夏生
能力〈ギフト〉:刃物を自在に創造するギフト