EpiSodE058:知力と知識
「これで良かったんですよね?エリーさん!」
「上出来だ。今はロノウェを見失ってしまうというのが一番やっていけない事だ。だから絶対目を離すなよ」
「はい!大丈夫です!それくらいならいくらでもやります!」
実は葵はロノウェを狙って外したのではなく、エルサリオンに言われて、最初から建物を狙うように言われていたのだ。
その理由はすぐわかる事になる。
「エリーさん!ロノウェが別の道を使って逃げようとしています!」
「奴の動きは別に速くない!追うぞ!」
「わかりました!」
追ってくるエルサリオンと葵を見て、ロノウェは笑っていた。
「追ってきたところで私は賢明の悪魔ロノウェ。ここは私の庭だ。身を隠すなんて容易い事だ」
斬っ!
周りの建物が切り裂かれた。
「なんだ?いきなり建物が二つに、、」
ロノウェは何が起きたのかわかっておらず少し混乱していたがすぐに冷静になり、身を隠した。
「うわ!いきなり建物が真っ二つになりましたよ!」
「やっと来たか」
「来たって、、もしかして!」
「あぁ、そうだ。あいつらが来た」
エルサリオンが待っていたのはもちろんあの三人だった。
「夏生!やりすぎだよ!エリーと葵ちゃんに当たったらどうするの?」
「そうだよ!ただでさえ怪我してるのに夏にぃバカなの?」
「計算して斬ったから大丈夫だよ!それよりも、お前ら最近本当に俺への当たりが強くなってないか?」
姫那と夏生とルーナが到着した。
「みなさん!」
「あ!葵ちゃん!よかった〜!やっと見つけた!」
「僕達も姫那さん達に会えて良かったです!」
姫那と葵が再会を喜び合う。
「合流できたのはいい事だが、今はそれくらいにしとこう。ロノウェが逃げるぞ」
「あ、はい!」
「ロノウェがいたの?どこに?」
「さっき夏生さんが斬撃を放った辺りです!」
全員がその方向に目を向けるがそこにロノウェの姿はなく、別の悪魔が盾になり犠牲になっていた。
「くそ!見失った!早く追わないと本当にわからなくなるぞ!」
エルサリオンが珍しく感情的になっていた。
「お姉ちゃん!」
「うん!行こう!」
ルーナが何を言おうとしているか、内容を伝えずとも姫那はわかっていた。
そしてルーナが姫那を抱えて上空に飛んだ。
「お姉ちゃんどう?いる?」
「いない!さっきまであそこにいたんだったらそんなに遠くにはいってないと思うんだけど、、」
ロノウェは姫那の能力を配下の悪魔から逐一聞いていた。
だから姫那の能力が洗脳という事も知っていて、更には見た者を洗脳する事ができるというのも既に知っていた。
「逆にあの斬撃がありがたかった。あれのおかげで瓦礫に紛れて進める。そしてあの斬撃が来たという事は城にいた奴らもここに来たという事だな。あの手負いの二人だけならまだしも、洗脳のギフトを持っているあいつは厄介だな。とりあえずあいつに見えない道を通っていこう」
事前情報で姫那達のギフトの能力はロノウェにバレており、それの対策法も考えていた。
「ごめん!見失っちゃった、、」
姫那とルーナが降りてきてみんなに報告をする。
「何故俺達がいる事に気付いたんだ、、」
「どういう事だ?」
エルサリオンがロノウェの行動について疑問を持っていて、それを夏生に話す。
「俺達はロノウェの油断を誘う為にずっと隠れて待っていたんだ。そしてロノウェがそこの辺りまで来て、もう少しでこの広いところだったのにそこで立ち止まり、何かに気付いたかのように進行方向を変えたんだ」
「ロノウェは知力が異常に高いって北の塔の悪魔が言ってたな。だったら待ち伏せしている事に気付いてもおかしくない、か。いや、それは流石に気付けないだろう。だったら、、」
夏生が何かを言おうとしたその時。
「ゴホゴホッ」
全員がその咳払いの方を向くと、それはさっきの夏生の攻撃で盾にされた悪魔だった。
「あの悪魔まだ生きてたか。ちょうどよかった。姫那、あの悪魔に何故ロノウェが南の門に何かあるとわかったのか聞いてくれるか?」
「うん!わかった!」
そして姫那が夏生に言われた通り悪魔に聞くと、賢明の悪魔ロノウェの知力の高さを痛感した。
「我が主人、賢明の悪魔ロノウェ様は常に俺達配下の悪魔からお前らの情報を得ていた。もちろん全員のギフトも知っている。南の門の前に出る直前で三人だけが城に攻めた事を伝えると、残りの二人が先回りして待ち伏せしているとロノウェ様は考えられた。だから南の門はやめて別の門から出る事にした」
悪魔の説明を聞いた夏生とエルサリオンは言葉を失った。
ここまでの知力を持った悪魔に今まで出会った事がなかったからだ。
「全て読まれていたって事か、、」
「今姫那とルーナが上から探しても見つけられなかったのも、姫那のギフトを知っていたから見えないように逃げたのか。それにこの悪魔今ちゃんとギフトと言ったな」
エルサリオンは悪魔がギフトと言った事に更に驚愕した。
今までは『能力』とか『力』とかだったのに、しっかりと『ギフト』と言ったのだ。
それだけで知力だけではなく、知識も豊富だという事もわかった。
「すまない。俺が斬撃を打ったからあいつが逃げやすくなってしまった」
「いや、どちらにしても逃げられていたよ。今の俺と葵じゃ追いつけなかったしな」
夏生とエルサリオンが見失ってしまった事に対してすごく悲観的になっていた。
そしてそれをぶち壊すのはいつも同じだった。
「そんな事今言ってても何も進まないじゃん!見失ってしまったのは仕方ない事だし、終わってしまった事で落ち込むんじゃなくて、今から何ができるか考えようよ!いつもの夏生とエリーみたいにさ!」
姫那は自分が思っている事を夏生とエルサリオンにぶつけた。
姫那自身は喝を入れたつもりはなかったが、二人にはその効果が十二分にあった。
「そうだな。姫那の言う通りだ。次何ができるかみんなで考えよう」
「姫那のくせに生意気な事言うんじゃねぇよ!」
夏生はこういう時、感謝の言葉を伝えるのが苦手だった。
その代わりに行動で感謝を伝えた。
「な、何よー!髪の毛わしゃってしないでよ!」
「よし、じゃあ姫那はどうやって見つけたらいいと思う?」
「私?全然わからないよ!」
全員ががくりと肩を落とした。
姫那は本当に思った事を口にしただけなのだった。
「うん、ちょっと期待した俺がバカだったよ」
夏生は姫那の本質を忘れていた。
単純バカという事を。
「とりあえずはロノウェが向かった方に行ってみましょう!何処に行ったかわからない以上、それだけが手掛かりですし!」
「そうだな。後、この悪魔に何か知らないか聞いてみてくれないか姫那」
「了解!」
そして聞いてみるが、何も出てこなかった。
そもそも方向転換した事すらこの場で決めたのだからその先に何処にいこうとしているかはロノウェ本人しか知らなかった。
「ロノウェにとっても待ち伏せしているという事はここに来るまで予想外だったのだから、次の行動もここで決めたという事か」
「もうここには何もない。葵が言うようにロノウェが逃げた方に俺らも行こう」
4階層の最終目標であるロノウェを倒すまで後一歩のところまで来たが、また逃げられた。
手掛かりは方向だけ。
姫那達はこの後の作戦や動き方を少し話して、ロノウェを追うのであった。
賢明の悪魔の名は伊達ではなかった。
見失ったロノウェはどこに逃げたのか。




