EpiSodE053:絶体絶命
「うわぁぁあああ!」
葵がエルサリオンに向かって巨大化した拳を振るった。
ドゴォン
葵の拳は塔の壁を突き抜けた。
そしてエルサリオンは、、
「何故だ。何故俺に当てないんだ!」
葵の拳はエルサリオンの横を通過していた。
「無理です、、僕にはエリーさんを殴る事、ましてや殺気を込めて殴るなんて出来るわけありません、、すみません」
拳を突き出したまま震えて泣いていた。
葵からしたらやっと一緒にいても安心できる仲間に出会えたのに、そんな大切な仲間を自分の手で殺めることなんてできるわけがなかった。
「葵、、」
「自分の手でエリーさんを殴るくらいならやられた方がいくらかマシです、、」
「何を言ってるんだ。俺は自分を制御できない。本当にお前を殺してしまうかもしれないんだぞ!」
「・・・・・」
「おい聞いてるのか!早く俺を殴れ!」
「、、ごめんなさい。できません」
葵にはどうしてもエルサリオンを殴る事ができなかった。
たとえそれで自分が殺される事になろうとも。
そしてついにエルサリオンが操られ、葵に攻撃を仕掛けてきた。
「エリーさん、僕は皆さんに出会えた事を誇りに思います。皆さんは僕のかけがえのない家族です。そう伝えてて下さい」
葵は涙を流しながら笑顔でエルサリオンに最期の言葉を残した。
「くそっ!やめろ!やめてくれ!」
傀儡の悪魔、ガープが用意した剣を手に持ち葵に斬りかかったその時。
ガギンッ
「危ねぇ。間一髪ってとこか」
そこに現れたのは塔を南の塔の悪魔を全て倒し、階段で登ってきた夏生だった。
夏生はエルサリオンを吹き飛ばした。
「なつ、き」
「夏生さん、、」
「大丈夫か?葵」
「はい、大丈夫です、、」
「よかった。それで、お前は何してんだエリー」
夏生はこの状況の意味がわからなかった。
何故エルサリオンが葵を殺そうとしたのか。
「エリー、これはどういう事だ?何故お前が葵を殺そうとしてるんだ」
「違うんです、夏生さん!エリーさんは悪魔に操られてて、制御ができなくて、、エリーさんの意思じゃないんです!」
「そういう事か。だったら姫那がどうにかできるんじゃないか?洗脳の類ならあいつの右に出る奴はいないだろ」
「エリーさんは洗脳じゃなくて、傀儡で物理的に操られてるんです!だから姫那さんの洗脳も効果がなくて、、」
今のこの状況をなんとなく理解してきた夏生。
「なるほど。姫那達は何処に行ったんだ?」
「今あのはしごで上に行って傀儡の悪魔を探してるところです!」
「そうか」
「夏生、俺を斬れ。じゃないと俺は止まれない。頼む、俺を斬ってくれ」
「だからエリーさんを攻撃するなんて無理に、、」
夏生が葵の前に手を出し、言葉を止めた。
「わかった。俺がお前を斬ってやる」
「え?何言ってるんですか夏生さん?」
「ちょうどよかった。俺もお前とどっちが強いか試したかったんだよエリー。お前に会った時より俺も数倍強くなってるからな」
葵は混乱していた。
何故夏生が斬ると言っているのか意味がわからなかった。
「え?ダメですよ!仲間同士で戦うなんて絶対ダメです!」
「大丈夫だ。俺に任せろ」
「任せろって言ったって、、」
「俺に任せろ」
俺に任せろ。夏生のその言葉には何故かすごく説得力があった。
夏生はエルサリオンを斬ると言った。
なのに夏生に任せればエルサリオンを救えると、そう思ったのだった。
「、、わかりました。お願いします!」
そして夏生は今まで出していた剣を消して新たに2本剣を創造した。
「さぁ、やるかエリー。ここらでどっちが強いか決めとこうぜ」
エルサリオンは傀儡によって操られている。
だから本来のエルサリオンの力を発揮する事ができるのかという疑問が生まれるが、傀儡の悪魔のガープが操っているのは体の外部ではなく、体の内部の神経系を操っている為、エルサリオン本来の力を引き出す事も可能なのだ。
そして二人の戦闘が始まった。
「夏生、、ありがとう」
「あ?何感謝してるんだよ。俺らは今殺し合ってるんだぜ?気抜くなよ」
夏生とエルサリオンの戦闘が始まったその頃、姫那とルーナはというと。
「ルーナ!こっちに何かあるよ!」
「これってまたはしごじゃない?この上がまだあるって事?」
「登ってみよう!なんか臭うし!」
「臭うってお姉ちゃん、、」
姫那の野生の勘が働いた。
「扉がある!開いてみよう!」
ガチャ
「眩しっ」
扉を開けるとそこは外だった。
「ここは、、屋根の上?」
「あーらら、見つかっちゃったか」
姫那が屋根の上に出ると誰かの声がした。
そしてそれは間違いなく傀儡の悪魔のガープだとわかった。
「あなたが傀儡の悪魔のガープ?」
「あぁ、そうだよ。あんな暗い部屋からよくはしごを見つけれたね。すごいよ」
「そんな事よりもエリーを操るのやめなさいよ!」
「嫌だね。今すごく面白いところなんだ。階段から来た人間と戦ってるんだよ」
「階段から来た、、夏生!」
何故ガープが二つ下の部屋の事が見えているかというと、ガープの傀儡は操っている対象の視覚情報を共有できるのだ。
「あれ?もう一人の女の子は何処に行った?さっき一緒にいたよね」
姫那はガープの姿を見た瞬間にルーナをはしごのところで待たせた。
最初に傀儡の悪魔と聞いて、多分自分は大丈夫だろうと思ったが、ルーナは違う。
操られてルーナが自分に攻撃してきてもルーナに反撃ができる気がしなかった。
だからルーナをガープの視界から外させる為に出てこないように手で合図を送った。
そしてここでルーナが上に出ていたらガープの傀儡にかかっていただろう。
不意に働く姫那の機転がルーナを守ったのだった。
「下にいるよ。あなたは私だけで充分だから」
「サイコキネシストの君一人だけで俺を倒せるとでも思ってるの?」
ガープの言葉を聞いて姫那は勝ちを確信した。
「あなたはやっぱり私一人で充分。フルフルよりも弱いね」
「この俺がフルフルごときと比べられ、更に弱いと言われるとはね。君にも俺の恐ろしさを教えてあげるよ。下のエルフのように俺の人形になるといい」
ガープが姫那に手を向けて操ろうとした。
「ふふ、これで君も俺の人形の仲間入りだな。下の人間を殺したら次は君とエルフを戦わせよう」
「誰が人形だって?」
やはり姫那には傀儡も無意味だった。
姫那がガープの方に近づいていく。
「な、なんで!?俺の人形にならない人間なんていないはず!君なんてあのエルフよりも確実に弱いだろう!」
「私はエリーよりも弱いよ。でもあなたの能力は私には通用しない」
「意味がわからない!君はただのサイコキネシストだろ?」
「あなたの敗因は私のギフトをサイコキネシスと間違えた事。そして、私の大事な家族を傷つけた事」
『思考停止』
姫那がギフトを発動するとガープは全く動かなくなった。
「ふぅ。もう出てきて大丈夫だよ!ルーナ!」
ルーナがひょこっと顔を出す。
「やっぱりお姉ちゃんすごいやー!強い悪魔でも一瞬で終わらしちゃうんだもん!」
「えへへ!ルーナ、ガープをエリー達のところに運べる?もしかしたらまだ傀儡が解けないかもしれないし、そうならガープに解かせないといけない!私は一人で戻れるから!」
「うん!わかった、大丈夫だよ!」
「よし、じゃあ下でね!」
無事ガープを確保した姫那とルーナは、エルサリオン達の元に戻るが、そこでは信じられない事が待ち受けているのだった。
姫那が本領発揮!
エルサリオン達は無事なのか!?




