EpiSodE050:複雑な感情
ついに50話まで来ました!
フルフルを捕らえた姫那とルーナは少し休憩していた。
というのも、フルフルの雷撃を受けた姫那が案の定動けなくなっていたのだ。
「やっぱり痛みはないけどダメージはあるじゃん!本当に大丈夫?お姉ちゃん、、」
ルーナが心配そうな顔をしている。
「痺れて動けないだけだよ!それが治ったら動けるようになるから!」
右手を動かして見せる姫那。
「ほら!動くようになってきた!」
そんな姫那を変わらず心配そうに見ていたルーナだったが、そこに思わぬ人物が現れた。
「姫那、ルーナ!助っ人に来たぞ!」
西の塔を制圧した夏生であった。
「夏にぃ!なんでこっちの北の塔に来てるの?西の塔は?」
「もう片付いたんだよ。ていうかこっちももう終わってんじゃねぇかよ」
捕らえられてる悪魔を見て姫那達が勝利している事を察する。
そして姫那の方を二度見する。
「お前、どうしたんだその髪の毛?なんかのイメチェンか?」
「違うよ!これは雷を受けてこうなっちゃったの!誰がこんな変なイメチェンするのよ!」
「雷を受けた?どういう事だよ?」
「ここの塔の悪魔は雷の悪魔でお姉ちゃんが雷撃を受けながらフルフルに洗脳をかけたんだよ!むちゃくちゃだよねほんと!」
「フルフル?あぁ、その雷の悪魔か。つまり自分を犠牲にして雷の悪魔を捕まえたって事か。バカかお前は」
夏生が姫那の頭を小突く。
「痛ー!何するのー!って今は全く痛くないけどね!」
「お前、雷だぞ?普通当たったら死ぬんだぞ?痛みを無効化したとしても体へのダメージは残るだろ。ちょっとは自分の体の事も考えろよ!」
姫那の肩を持ち、夏生はすごく真剣な顔で叫んでいた。
それは姫那にも伝わり反省していた。
「ごめん、でも本当にこうするしか方法が思いつかなくて。心配かけちゃってごめんね」
「別に心配なんかしてねぇよ!俺はただ仲間が傷つくのを見てられないだけだよ!」
照れ隠しをしているが、誰が見ても姫那の事を心配していたのはお見通しだった。
姫那はそんな夏生の顔を見て少し嬉しくなった。
「ありがとね!夏生!」
「お礼言われるような事なんもできてないし、俺がもっと早く来れていれば、、」
「そこは素直にお姉ちゃんの気持ちを受け取ろうよ、夏にぃ!」
「、、わかったよ」
姫那は自分がとった行動に後悔の念は感じていなかった。
むしろ自分以外誰も傷付かず塔の制圧ができた事を嬉しく思っていた。
自分が傷つくより家族が傷つく方が自分の傷も大きくなる。それが姫那なのだ。
「とりあえずここから降りるか。エリー達もまだいないし、助っ人に行こう」
「夏にぃも怪我してるじゃん!お腹から血出てるし!大丈夫なの?」
ルーナが夏生の怪我を見つけて、心配そうにしていた。
「これくらい大丈夫だよ。かすり傷だ」
夏生は強がっているが、結構な深傷のようで顔色も少し悪くなっていた。
「全然大丈夫じゃないじゃん!ちょっと待ってて!」
そう言うと、ルーナは自分の服の袖を千切って傷口に巻き付け、止血をした。
「とりあえずこれである程度血は止まると思うけど、また動き過ぎたら更に傷口が開くからあんまり動いちゃダメだよ!」
「わかったよ!お前は俺の親か!早く下に降りるぞ!」
「動いちゃダメって言ったじゃん!」
階段で下に降りようとする夏生をルーナが引き止めた。
「じゃあどうするだよ!エリー達のところに早く行かないと!」
「一回落ち着こうよ!なんか夏にぃらしくないよ!」
夏生が珍しく少し取り乱している。
それにはいくつか理由があるが、大きくは二つで、一つ目は純粋に早く助けたいと言う気持ち。
二つ目は今まで自分が足を引っ張っていたからそれの罪滅ぼしもしなければ自分で自分を許せないと思っていたからだ。
それを考えたら腹の傷なんかかすり傷だと本当に思っていたのだ。
そんな夏生に対して、ルーナが心配の意味も込めて夏生らしくないと言い放った。
そのルーナの声に夏生自身もいつもの冷静な自分を取り戻した。
「すまん、そうだな。少し落ち着こう。あっちには手負いの葵がいると言っても一緒にいるのはエリーだもんな」
「そうだよ!こんなとこで無理して逆に怪我が悪化したらこの後がしんどいじゃん!」
ルーナの言う通りだった。
それは夏生に放った言葉だったが、姫那も自分に言われている気がして肩を窄めていた。
「お前の言う通りだよ。じゃあどうやってこの塔から降りるかを考えようか。とその前にこの悪魔から色々聞こうか」
捕らえていたフルフルに中央の巨城の事についても聞く事にした。
「姫那、ギフトで喋らせる事はできるか?」
「うん!できるよ!何を聞く?」
「塔を制圧した後の事だ。この4つの塔よりさらにデカいあの中央の巨城についてだな」
「わかった!」
そう言うと姫那はフルフルに中央の巨城について聞いた。
「あの巨城の名はシャルストラ城。一応僕たちの主人、ロノウェ様が住んでいる城だよ」
「一応ってどういう事だ?」
「・・・・」
「姫那、聞いてくれ」
姫那がフルフルに聞くとすぐに答えた。
「一応僕らの主人だけど慕ってはいないんだ。地位があるだけで力はないからね。だから派閥なんてものもできるんだよ」
「わかってはいたがお前が聞くとほんとなんでも答えるな。なんか悔しい」
「それは仕方ないよ!お姉ちゃんがすごいすぎるもん」
そう言われると何も言い返せなかったのが悔しさを倍増させた。
更にフルフルは続けた。
「主人は弱い。流石の僕でも弱い悪魔に従うのは嫌だった。そしてそれはロノウェ様もわかっていた。だから僕たちにほとんど命令もしない。したのは一つだけ。この塔を死守する事。それだけだった」
この塔を守りさえすれば何をやってもいいと言われていたらしい。
「ロノウェ様は強さの代償に知能が他の悪魔とは桁違いだった。だからロノウェ様もそれ以上の命令はしなかった。それ以上の事を求めたら僕らが反旗を翻すと思ったからなんだろうね。そしてそれは当たってる。僕らは縛られていないからこそロノウェ様についているんだ。この海底都市クルアラントはそうやって成り立っている」
すごく理に適った関係性だった。
悪魔の上下関係は絶対。
だからお互い必要以上に干渉せず、最適な距離感を保っていた。
「知りたい情報以上の情報も知れたな。そろそろ終わらせるか」
「終わらせるってどういう事?」
終わらせる。姫那はどういう事かわかっていたのだが、何故か聞いてしまった。
「どういう事って悪魔だから殺すんだよ」
「そう、、だよね」
あからさまな姫那の表情に夏生は姫那が何を考えてるかすぐにわかった。
「お前、わかってるのか?こいつは悪魔なんだぞ?お前の大切な妹を攫った奴の仲間なんだぞ?そんな奴に何同情してるんだよ」
「わかってる、わかってるんだけど、、殺さないとダメかな?」
「当たり前だ。それが悪魔の宿命であり、人間の宿命でもあるんだ」
姫那のその感情はあってはならない事だった。
そして夏生がフルフルを斬ろうとしたその時フルフルは正気に戻った。
「姫那、ありがとう」
その声は姫那にも聞こえた。
「フルフル!」
その瞬間、フルフルは夏生に一刀両断された。
姫那は夏生に斬られるフルフルから目を逸らした。
そして夏生は一言。
「下に行くぞ」
そう言って広場に向かうのであった。
北の塔を本当の意味で制圧した。
残すはエルサリオンと葵が向かった南の塔だけだ。
そして北の塔を制圧したその頃、南の塔では激戦が繰り広げられていた。
残すは南の塔だけ。
南の塔にはどんな悪魔が待ち受けているのか。




