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この迷宮を攻略するには何が必要ですか?  作者: シュトローム
第一章 迷宮攻略・故郷奪還編
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EpiSodE005:和解

 長老のアルフィリオンとエルサリオンが悪魔族の事や故郷アルフヘイムの事についても話してくれた。


 「悪魔の名はマモン。なんでも自分の物にしようとするらしく、わしらの故郷もそいつに略奪された。エルフは長寿で100年前とかの事はもう覚えてないが、あの事については皆鮮明に覚えておる」

 「あの時、俺はまだ若かったが本当に地獄だった。思い出しただけでも恐怖と憎しみが甦ってくる」

 「全員が助かるには故郷を明け渡すしか選択肢がなかった。苦渋の決断じゃったが、誰かが犠牲になるよりはマシじゃ」


 長老とエルサリオンの話を二人は黙って聞いていた。

 すると姫那が、、


 ツーーー、、、


 姫那の目から雫がこぼれた。


 「姫那殿、どうしたんじゃ?大丈夫か?」

 「あ、すみません!なんでだろう、話を聞いてると勝手に涙が、、」


 姫那は考えていた。

 故郷を奪われるとはどんな気持ちだろうか?

 どんな気持ちでここまで来て、どんな気持ちで街を作ったのだろうか。

 故郷からいきなり転生された姫那達もある意味状況は一緒だから帰りたいという気持ちはわかる。だが、無理矢理奪われたエルフの気持ちは計り知れない。

 長老にここに住んでるエルフは2000人はいると言っていたが、街に入ってからここまでの道のりや今こうやって喋ってる間も長老とエルサリオン以外の他のエルフは一人も見ていなかった。


 多種族。


 それを見るだけで、恐怖しているのだろう。


 「ありがとう、姫那殿」

 「え、いや、お礼を言われる事なんて何もしてません」

 「会って間もないわしらのために泣いてくれとるじゃないか。それだけでもありがたい事じゃ」

 「俺達も過程は違うが、境遇は一緒だからな」

 「何か出来る事があれば言ってください!私達で出来る事があれば手伝うので!」


(達って俺もかよ。まぁいいか)


 「じゃあ、一つ頼みがあるんじゃが、今日はわしらの街でご飯を食べて泊まっていってくれんかの?」

 「え?いいんですか?私達泊まっても!」


 長老からの頼み事にびっくりした表情で聞き返す。


 「いいも何もわしからのお願いじゃ。いいじゃろ?エルサリオン」

 「まぁいいんじゃねぇの」


 姫那達の事を敵視し、殺そうとしていたエルサリオンも少しは姫那達を受け入れたみたいだった。


 「そう言ってくれるならありがたくそうさせてもらおう。なぁ姫那」

 「そうだね!エルサリオン以外のエルフとも仲良くなりたいし!」

 「別に仲良くなった覚えはない!」


 エルサリオンが少し顔を赤らませながら否定していた。


 「夕食までまだ時間があるの。エルサリオン、二人に街を案内しなさい」

 「なんで俺が、、」


 バシッ


 「痛っ」


 エルサリオンはまた殴られていた。


 「仕方ねぇな、あんたらついて来い」

 「ありがとう!エルサリオン!」


 姫那はいつの間にか敬語もなくなっていた。


(さっきまで震えるほどビビってた癖に。都合のいい奴だ)


 街に出てみるとやはりエルフは一人も見つからない。


 「おい、みんな!出てきていいぞ」


 エルサリオンが叫ぶと、エルフ達が顔を出してこっちを見た。


 「エルサリオン、その人達エルフじゃないよね?なんでこの街に入れてるの?」

 「確かにこいつらはエルフじゃなくて人間だ。ただ、害はない」

 「そんなのわからないじゃないか!そんな言葉だけじゃ信用できない!」


 姫那達が思ってた以上にエルフの心の闇は深い。


 「私達は人間です!でもあなた達から何かを奪ったりしません!だから、私達と()()になって下さい!」

 「友達?」


 エルフ達は一瞬何を言ってるのか分からず固まった。


 「フッ」


 エルサリオンは少し笑っていた。


 「私、何かおかしい事言ったかな?」

 「お前はそれでいいんだよ」

 「なんで夏生も笑ってるの!」


 夏生もエルサリオン同様に笑っていた事が姫那は不満みたいだ。


 「こんな奴が俺らから何か奪えると思うか?俺は全く思わない。というか思えない」

 「なんかエルサリオンもちょっと馬鹿にしてない?」

 「ちょっとじゃなく盛大に馬鹿にしてるんだよ」

 「もう!馬鹿にしないでよー!」


 すると一人のエルフの子供が姫那達のところに歩いてきた。


 「お姉ちゃん達、悪い人じゃないの?」

 「違うよ!お姉ちゃんはエルフのみんなと友達になりたいの!」

 「私もお友達になりたい!」

 「君の名前はなんていうの?」

 「私はシルフィ」

 「そっか!じゃあシルフィ、私と初めての友達になってくれる?」

 「うん!なる!」

 「ありがとう!」


 姫那とシルフィは握手をした。

 この時、一人の異世界人の人間とエルフの女の子の二人によって、何百年と長く閉ざされたエルフの歴史に新しい1ページを刻んだのであった。


 そして夜。


 シルフィのお陰でエルフのみんなと普通に話せるようにはなった。

 そして、アルフィリオンにも今日の出来事を伝えた。


 「そうか。仲良くなってくれて何よりじゃ。それにしても、友達か」


 アルフィリオンも笑っていた。


 「アルフィリオンさんまで笑ってる〜」

 「そりゃ誰でも笑うじゃろ。殺されそうになった種族に対して友達になろうなんて言う馬鹿は姫那くらいじゃ」

 「もー!みんな馬鹿馬鹿言い過ぎ!」


 周りにいたエルフもみんな笑っていた。


 「夕ご飯の準備もできたみたいじゃ。さぁ、150年ぶりの客じゃ。盛大にもてなすぞ」


 その後はさらにエルフのみんなと仲良くなって楽しく夕食の時間を過ごした。


 「すごいおもてなしだったね!夏生!」

 「そうだな。料理も全部美味しかったしな」

 「明日からどうしよっか?」

 「とりあえず、3階層に行く条件を知るのが最優先事項だな」

 「じゃあ、明日にはここから出るんだね」


 少し寂しそうな表情になる姫那。


 「、、、まぁでももう少しくらいここでゆっくりしてもいいかな」

 「ほんと?」

 「あぁ。俺も少し疲れたし、ちょっとくらいのんびりしてもバチは当たらないだろ」


 満面の笑みで喜ぶ姫那を見て、

(俺も姫那に毒されてきたな)

 そう思ったが、悪い気はしない夏生であった。


 それから2日ほどエルフの街でゆっくりして、旅立ちの朝を迎えた。


 「ほんとにもう行っちゃうの?」


 シルフィが寂しそうにしている。


 「うん。私達も目的を達成しないといけないから、そろそろ行かないと」

 「そっか、、」


 シルフィを見て姫那も寂しくなって泣きそうになる。


 「仕方がないのじゃシルフィ。姫那殿達はこの世界の人間ではない。だから元の世界に戻らないといけないんじゃよ」

 「わかった」

 「またここに来るよ!また必ずみんなに会いに来る!だって友達だもん!」


 結局姫那は泣いていた。


 「それとな、わしからも一つ提案があるんじゃがいいかの?」

 「何?アルフィリオンさん」

 「お主らの旅に、このエルサリオンも連れて行ってはもらえないだろうか?」

 「エ、エルサリオンを?どうして?」

 「わしらはまた故郷アルフヘイムに帰る事を諦めておらぬ。そして、アルフヘイムは上の階層にある。お主らも上の階層に行くのなら利害は一致してるじゃろ?それにエルサリオンは強い。居て足手まといになる事はまずないと言える。どうじゃ?」

 「どうする?夏生」

 「なるほどな。俺らは全然いいぜ。エルサリオンの強さは俺も肌で感じてるからそこの心配もいらないし、即戦力ならむしろ歓迎だ。逆にエルサリオンはいいのかよ?」

 「俺はお前達を信用している。なんの問題もない」

 「そうか。じゃあ決まりだな」

 「また楽しい旅になりそうだね!ね、エルサリオン!」

 「そうだな」


 故郷を奪還するためについていくのだから楽しい旅になるとは思えないが、それは姫那に言っても意味はないという事はエルサリオンにもわかっていた。

 そして、姫那一行はエルフの街を後にして、3階層に行くための条件を見つけるべくこの2階層の探索を始めるのであった。

多種族を拒絶するエルフには辛い過去があった。

それと向き合い、無事克服した時に友情は芽生える。

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