EpiSodE049:姫那の秘策
夏生が西の塔を制圧した時より少し時間を遡る。
姫那とルーナの北の塔では、ルーナが姫那を抱えて塔の外側から最上階まで一直線に向かっていた。
「ルーナまた飛ぶスピード速くなったんじゃない?」
「そうかな?自分じゃあんまりわかんないや!でも、お姉ちゃんと飛ぶのが久しぶりだからそれが嬉しくて速くなっちゃってるのかも!」
抱えられてるからルーナの顔は見えないが、姫那は見なくてもわかった。すごい笑顔で姫那と一緒に飛んでいるこの状況を楽しんで、喜んでいると。
「もうそろそろ最上階に着くよ、お姉ちゃん!」
「うん!さっきの悪魔は雷の悪魔がいるって言ってたよね!」
「うん!言ってた!」
「雷か〜。雷は洗脳じゃどうにもならないと思うから、当たる前になんとか決着つけないとだね!」
雷という事は目では追えないスピードの速さで攻撃してくるはず。
流石にまだ目で追えない速さの相手を洗脳する事はできないと姫那は思った。
そして最上階に到着した。そこには髪の毛が逆立った悪魔が立っていた。
それを見た瞬間姫那は洗脳をかけようとした。だが、、
バリッ
「き、消えた!?」
遅かった。姫那が洗脳をかけようと思った瞬間にはもう雷の悪魔は姫那達に気付き、動いていたのだ。
何故そこまで早く気付けたのかと言うと、雷の性質を利用した電磁波の空間把握力だった。
「聞いていたし見てたよ。君がオロバスに何をしていたのか。情報にあったのはサイコキネシスだけど、サイコキネシスじゃない。君の能力は洗脳だったんだね」
「オロバス?誰それ!そんな人知らないよ!」
「毒の悪魔だよ。広場のど真ん中で殺してたでしょ?」
毒の悪魔はオロバスという名の悪魔だった。
姫那は思った。名前も知らないまま一方的に殺してしまったのだと。
「私、名前も聞いてなかったんだ、、」
「え?」
抱えているルーナでさえほとんど聞こえない声で姫那が一人呟く。
「君、本当に人間なの?人間でそんな事言う奴には初めて会ったよ」
雷の悪魔は姫那の声が聞こえていた。
これも電磁波の力の一つで電磁波により、遠くにいる会話内容もそこに意識を集中すれば聞こえるようになるのだ。
「、、あなたの名前はなんて言うの?」
「僕の名前か。そんな事を聞いてどうするの?」
「どうもしないよ!ただ名前を知りたいだけ!教えて?」
名前を知る意味なんてない。まず名前を知る事に理由なんてない。
ただ、姫那はどんな相手であっても名前を知らないというのは嫌だったのだ。
これから戦う悪魔であろうとそれは変わらなかった。
「本当に君は変わってるな。いいよ。僕は雷の悪魔のフルフルだ」
「私は姫那、この子はルーナ!よろしくね!何処にいるか全然わからないけど!」
会話を交わしているが、フルフルは姫那に洗脳をかけられまいとずっと雷の速度で動いていた。
「人間と悪魔が挨拶を交わすとはね。姫那、君と話していると悪魔の敵である人間と話している気がしないよ」
フルフルは元々マイペースな性格で、できるなら戦うとか争いとかそういう事をあまりしたくないと思っていた。
でも自分が悪魔である以上、悪魔以外の種族は全て敵という悪魔の掟があるから仕方なく戦っていた。
そして何故そんな悪魔が派閥のトップなのかというと、それは純粋な強さにあった。
雷というのはそれだけで脅威で、それに加えて電磁波で相手の会話が聞けたり、場所がわかったりと汎用性も抜群の能力だった。
更にフルフルは自分に驕る事もなかった。
そんなフルフルの振る舞いに力を持たない悪魔達はついていった。
「お姉ちゃん!相手は雷だし、いつ攻撃されるかもわからないから一度塔の中に行こう!」
「うん、そうだね!」
見えない相手を、ましてや雷を扱うフルフルを前にいつまでも飛んでいるのは命取りになりかねないので、一度塔の最上階に入った。
「中に入っても一緒だよ。君達に僕は見えていない。見えない相手にどうやって洗脳をかけるんだい?」
フルフルは姫那の能力を予測していた。
いくら洗脳という能力を有していたとしても見えない相手にはかける事はできない、そう考えていた。
そしてそれは当たっていた。
「そうだよ!見えない相手には私のギフトは通用しないよ!」
「お姉ちゃんなんで正直に答えてるの、、」
正直すぎる姫那に少し呆れるルーナ。
「バレてるんだから隠してもしょうがないかなって思って!」
すごいドヤ顔で、ドヤ顔で言うような事じゃない事を言っていた。
「お姉ちゃん、、」
更に呆れたルーナだったが、姫那が続けて話した。
「でも大丈夫だよ!私に秘策があるから!」
「秘策?」
この言葉によりフルフルに少しの動揺が生じた。
(秘策?秘策ってなんだ?見えない僕にも洗脳をかける秘策か?そんなものあるのか?いや、あるなら最初から使ってる。だったらこれは僕の動揺を誘うためのハッタリか?それが一番考えられるけど、、一応こっちからも鎌をかけてみよう)
「秘策ってどんな秘策なの?実は見えない相手を洗脳できるとか?」
「秘策だから内緒だよ〜!それにフルフルに言ったら秘策にならないじゃん!」
流石の姫那でもその秘策を敵に言うほど馬鹿ではなかった。
そして今の会話でフルフルが思った事は、やはり秘策というのはハッタリだという事。
「そりゃそうだよね。僕は姫那とはあんまり戦いたくない。でも僕が悪魔で姫那が人間である以上戦う宿命にある。姫那を殺したくはないけど僕はそうするしかない」
そう言うとフルフルは雷の速さで姫那の元へと行き、姫那に触れたその瞬間フルフルに異変が起きた。
「フルフル、かかったね!」
「なん、、で」
フルフルは姫那の洗脳にかかっていた。
そして姫那は目から血の涙を流し髪の毛が逆立っていて、覚醒した時のような姿になっていた。
「お姉ちゃん!なんであの時と同じ姿になってるの?私は大丈夫だよ!」
ルーナは姫那があの時の姿になっている事に焦っていた。
「大丈夫だよ、ルーナ!気も確かだし、私はいつも通りだよ!」
「え?じゃあなんで目から血を流して髪の毛がそんなに逆立ってるの?」
「これはフルフルの雷の攻撃の影響だよ!フルフルに触れられたからこんなになっちゃった!」
姫那は笑っているが、ルーナから見れば何故姫那はフルフルの雷を受けて平気で笑ってるか意味がわからなかった。
「なんでフルフルの攻撃を受けたのに平気なの?雷だよ?」
「それはね、私が私自身に洗脳をかけてたからだよ!」
実は姫那はギフトの一つ、自己洗脳を発動し、痛みを感じないように洗脳したらしい。
そうする事によって痛覚が遮断され、雷を受けても立っていられたのだった。
「お姉ちゃんむちゃくちゃだよ!痛みは遮断されても体は雷の影響も受けてるんでしょ?」
「んー、たぶん受けてるかな?今はわからないや!でもこうしないとフルフルは捕まえられなかったし、仕方ないよ!」
姫那がフルフルにかけたのは思考停止で、フルフルは全く動けない状態になっていた。
西の塔の夏生と同じく、勝負は一瞬だった。
だが、痛覚を遮断していたとは言えどフルフルの雷を食らった事に変わりはない。
無謀な賭けに出たが、姫那の体は無事なのだろうか?
自分を犠牲にした姫那の秘策が炸裂した。
雷を食らった体でこの後動けるのか。




