EpiSodE048:悪魔の剣豪
「ゴホゴホッ」
「本当に大丈夫か?葵」
「大丈夫です!ちょっとむせてるだけなので!戦いに支障はないです!」
エルサリオンと葵が少し遅れていて、まだ南の塔に入っていなかった。
それはやはり葵が毒の後遺症で思うように動けていなかったからだ。
「わかった。じゃあ塔に着くまでだけでも俺に掴まっていろ。わかったな?」
「はい、わかりました。すみません、エリーさん。迷惑かけてしまって、、」
「全然迷惑なんかじゃないよ。仲間なんだからこれくらい当たり前だろ」
「ありがとうございます!」
エルサリオンは葵を抱えて翼を広げ、南の塔まで飛んで向かった。
そして驚くほど早く着いた。
「エリーさん、速さがめちゃくちゃですね。ジェットコースターが比にならないくらい怖かったです、、」
「じぇっとこーすたー?なんだそれは?それにそんなに早く飛んだつもりはないんだが」
エルサリオンはこの世界のエルフの為、ジェットコースターなんて物はもちろん知らない。
「そうですね!エリーさんはそもそもこっちの人ですから知らないのも当たり前ですよね!遊園地っていう遊ぶ場所があって、そこに何百キロって速度が出る乗り物があるんですよ!」
「遊園地?乗り物?何か知らない言葉ばかりで出てきてるぞ」
葵の知らない言葉のオンパレードにエルサリオンは少し混乱していた。
だが、楽しそうに話している葵を見て少し安心もしていたのだった。
「よし、ここからは悪魔も出てくる。集中していくぞ。それと基本的には俺が悪魔の相手をするから葵は出来るだけ休んでおけ」
「もう、だから大丈夫ですって!」
「いいや、休んでおけ!わかったな?」
「わかりましたよー!エリーさんもわからずやですね〜!」
三組が各塔を制圧しようと奮闘していたその頃中央の巨城では、現状把握を急いでいた。
「異世界人の動向はどうなっている?」
「はい。先程毒の悪魔が負けた模様です。そして他の3つの塔に分かれて陥落させようとしているところです」
広間で如何にもこの街を治めているであろう悪魔が動こうとしていた。
「そうか。それが落とされる可能性も考えないといけないか。ならばそろそろ準備に入るか」
「準備、ですか?」
「あぁ。お前達は気にしなくて大丈夫だ。時が来たら言う」
「、、わかりました」
何の準備かは仲間の悪魔でも伝えられなかったが、なんとなく理解はしたみたいだった。
そして場面は変わり、西の塔では。
「これどこまで続いてんだよ」
夏生が倒しても倒してもキリがない悪魔の軍勢とどれだけ登っても終わりのない塔にうんざりしていた。
ゴールが見えない時ほど長く感じるものはない。
塔までどのくらいあるか知るため、倒した悪魔にあとどのくらいあるのか聞いた。
「おい、悪魔。この塔はあとどれくらいでてっぺんまで行けるんだ?答えたら今すぐ殺してやる。答えなかったら苦痛を味わって死ぬ事になる」
そんな夏生の顔を見た悪魔は怯えてすぐに吐いた。
「も、もうすぐ最上階です」
「最上階にはどんな悪魔がいるんだ?」
「我が主人は剣の悪魔です」
(剣の悪魔。という事は剣術使いという事か?
ならこの西の塔を選んだのも正解だったかもな)
何十人もの悪魔を従える剣術使い。今まで何の感情も持たず悪魔を倒してきた夏生だったが、初めて不覚にも悪魔と戦う事を楽しみと思ってしまったのであった。
「何考えてんだ俺は」
そしてさっきの悪魔が最後だったみたいで、ついに最上階に着いた。
「やっと着いたか。どれだけ登らせるんだよ。エリーがいたらさっきみたいにすぐここまで来れたんだけどな」
「何を一人で喋っているんだ?」
後ろを振り返ると髪を後ろで束ねて細長く縛り、正座をしている悪魔がいた。
「お前が剣の悪魔だな?」
「いかにも。私が剣の悪魔のバラムだ。貴殿は異世界人だな?」
「そうだ。俺も剣術を使う」
「ほう、それは楽しみだな。では早速始めようか」
バラムは立ち上がり、腰に差した長い刀を抜いた。
一方夏生はここに来るまでずっと同じ剣を使っていた為、刃こぼれを起こしていた。そのため、今まで使っていた剣を一度消滅させ、新しく二本の剣を創造した。
「貴殿も面白い能力を使うな。では参るぞ」
そう言うとバラムは目にも止まらぬ速さで動いた。
「このスピードに着いて来れるか?貴殿に私が捕らえられるかな?」
「確かに速いが見えない程じゃない」
バラムは警戒しながら夏生の周囲を動いていたのだが、その夏生がその場から急に姿を消した。
「む、何処に消えた?警戒していたはずだが、、」
それはバラムからしたら予想外の事だった。
「おい、何処を見ている。俺はこっちだぞ」
夏生は背後に立っていた。
「いつの間にそこに、、何かやったのか?」
バラムは驚いた表情で夏生に何かしたのかと問いかけるが、夏生は何もしていなかった。
夏生はただバラムよりも速く動いただけだった。
「別に特別な事なんて何もしてねぇよ。単純に俺の方が速く動ける、ただそれだけだ」
「私より速く動けるだと?そんな人間いるはずが、、いや、そうか。認めよう、確かに貴殿は私より速い。だが剣術の方はどうかな」
バラムは居合の構えを取った。
それに呼応するように夏生も手をクロスさせて腰に剣を持っていき、居合の構えを取る。
そして決着は一瞬だった。
『龍の閃光』
『魔刀一閃』
お互いの攻撃が交差し、轟音を発した。
その音は他の塔にも届くほどの音だった。
「ぐはっ」
バラムが血を吐く。
「こんな事ができる人間がいるとはな、、」
夏生とバラムの攻防は実に0.5秒の間に起きた事だった。
夏生は最初からバラムの攻撃を左の剣で防ぎ、右の剣で攻撃するつもりであった。
それが見事成功し、バラムは完全に意表を突かれた。
「ぐっ、お前もあれからもう一度立て直してくるとはな」
だが、バラムもタダでは終わっていなかった。
夏生の攻撃を受けた後、弾かれた剣をもう一度夏生に振り下ろした。
「それでも貴殿に致命傷を与える事ができず、私は致命傷を負った。完全に私の負けだな」
「俺も純粋な剣の勝負でこんな傷を負ったのは初めてだよ。やっぱりこの西の塔に来てよかった。バラムという強い剣豪とも戦えて、俺もまだ強くなれると思えたからな」
バラムという剣豪と剣を交えれた事により自分の更なる可能性を見出せたと同時に、自信にも繋がった。
「そろそろ時間だな。最後に貴殿のような剣豪と戦えて嬉しかったよ」
そう言うとバラムは灰になって消えていった。
「ふぅ。こっちは制圧できたがちょっと時間がかかったか。他のところは今どうなってるんだ。行ってみよう」
夏生によって西の塔の制圧は成功した。
そして西の塔の悪魔の軍勢、バラムとの戦いにより、夏生自身も自分の成長を感じられた戦いであった。
西の塔制圧!
その頃他の塔では?




