EpiSodE039:集結
夏生が囚われている場所の目の前に立ち、その異様な雰囲気にエルサリオンは疑問を感じた。
「この中に人はいるのか?」
「いるはずです。多分」
「多分とはどういう事だ?ここに異世界人がいるんじゃないのか?」
人間曰く、抵抗できない夏生を殴ったり蹴ったりしてボコボコにしていたと言う。
この二人はそれに飽きてここから出てきたところだったらしい。
話を聞いていたら本当に今すぐ殺してしまいそうになるが、今はそれどころではない。
「お前ら後で口が利けなくなるくらいボコボコにしてやるから覚えておけよ」
エルサリオンは目に光がなく、暗く深い目をしていた。
それを見た人間は顔が引き攣り、自分がどうなるかを想像して震えていた。
そして夏生が囚われているという木造の建物に足を踏み入れたエルサリオンだったが、中に漂う空気を肌で感じてこの建物の中で非人道的な事が行われている事がなんとなくわかった。
「お前はここにいろ。逃げ出したりしたらすぐわかるからな。ここから一歩も動くな」
いつもより1トーンくらい低く、怒りのこもった声で言う。
「、、わかりました」
中に入って、1階を捜したが夏生はおらず、2階へと繋がる階段を登っていると一人の人間が立ち塞がった。
「なんだ?お前は」
目の前に立ち塞がった奴が敵だと一瞬で理解した。そして理解すると同時に瞬時に拘束した。
「異世界人は何処だ?」
「なんでお前に言う必要があるんだ」
見てわかる。こいつは夏生を痛めつけていた奴だ。
質問した時、一瞬顔がニヤけていた。それが紛れもない証拠だった。
そしてこいつは今質問にすぐ答えなかった。ならば1秒でも早く答えるようにするだけだった。
ボキッ
右手の小指を折った。
「ぐあっ!何すんだいきなり!」
「お前がすぐに答えなかったからだ。次答えなかったら小指だけじゃ済まない」
「わかったよ!言うよ!上の一番奥の部屋にいる!」
それだけ聞くとその男を壁に投げつけ一番奥の部屋まで走って扉を開けた。
するとそこには両手を広げるように鎖で繋がれて、傷だらけで項垂れている夏生がいた。
「夏生!」
その時エルサリオンは夏生の生気を感じなかった為、最悪の事態に陥ってしまってると予想してしまった。
「、、、エリー。遅かったじゃねぇか。流石にくたばりそうだったぞ」
「夏生!生きていたか!」
「当たり前だろ。こんなとこで死ねるかよ」
強がってはいるが、血も飛び散り顔もこっぴどく殴られボコボコだ。
「よく言うよ。それよりなんでお前ギフトで逃げないんだよ」
「こいつのせいで使えないんだよ」
夏生は右手をブラブラさせてブレスレットをエルサリオンに見せた。
「やはりこれはそういった類の物だったか。なんでそれを付けられてんだよ」
「それはあれだ。寝てたんだよ」
嘘丸出しの言い訳をする夏生。
だがそんなものはエルサリオンの前では無意味であったが、エルサリオンもそこまで問いただす事をしなかった。
「そうかよ。とりあえずここから出るぞ。お前がいなくなった後、ルーナもいなくなったんだ」
「は?なんでルーナがいなくなるんだよ!それでなんでお前は俺のところに来てるんだよ!」
「まずはここから出るぞ。集合場所に向かいながら話す」
こいつはなんて理不尽な事を言っているんだと思ったが、そんな事今は言ってる場合ではなかったから一度ここから出る事を最優先にした。
そして脱出の間際に階段のところと出入り口のところに夏生を痛めつけた人間がいた。
「こいつらどうする?お前の好きにしていいぞ」
「こんなやつらほっとけ。どうせもうここで生きていけないだろう」
散々殴られ蹴られていた相手だが、今はこんな底辺の人間よりも仲間の方が気になる。
自分の私情よりも仲間の事を大切に想う気持ちの方が勝ったのだ。
この世界に来る前の自分だったら間違いなく私情を選んでいただろう。
それを変えたのはずっと旅をしてきた仲間達だった。
そんな事を考えながら囚われていた建物から出た。
そして集合場所に向かっている道中。
「で、なんでお前はこっちに来たんだ?」
「ルーナの方は姫那と葵に任せてるから大丈夫だ」
「お前はなんでこの悪魔だらけの海底都市で姫那と葵を二人にしてるんだよ!あいつらに何かあったらどうするんだ?」
「大丈夫。姫那が本気の顔で任せてと言ってた。あいつが本気の時は大丈夫だ」
エルサリオンの言葉を聞いて、納得できた。
夏生も本気の時の姫那は誰よりも頼りになると理解したからだ。
それにあんなに仲が良い妹の事となると尚更任せて問題ないと思った。
「そういう事か。だったらなんでお前はもっと早く来てくれなかったんだよ」
「どっかの間抜けな奴がなんの痕跡も残さずに捕まったからだよ」
皮肉を言われたが、不思議と言い返す気にならなかった。
何故ならムカつく気持ちより感謝の気持ちの方が大きかったからだ。
「うるせぇ。そんな事より俺は怪我人なんだから飛んで運んでくれよ」
「何言ってんだお前は。怪我人といえばあいつら悪魔じゃないよな?」
「そうだ、あいつらは人間だ」
「なんで人間があんな事してるんだ?」
夏生はあの人間はこちら側の世界の人間という事、こちらの人間は能力を何も持っていない事、自由に生きる為に悪魔につくしかなかったという事を話した。
「なるほどな。でもあいつらお前を転移させてなかったか?」
「あれはあいつらが転移陣の魔法陣を悪魔に手の甲に彫られていたんだ。人を運ぶ為にな」
「それって結局悪魔に使われてるって事だよな?」
「あぁ、そうだ。悪魔からしたら悪魔以外の種族をなんとも思ってないんだ」
悪魔は夏生を攫った人間達みたいな奴らには少し待遇を良くして泳がせながらいいように使い、従わないやつは徹底的に奴隷として扱う、結局はどちらも使われるという事では一緒だったのだ。
「あの人間も哀れな奴らだな」
「殴る価値もない哀れな奴らだし、本当に殴らないといけないのはあいつらじゃない」
そう、結局使われていただけの人間を咎めたところで何も変わらない。
使っていた悪魔を叩かないとこの悪魔と奴隷という関係に終わりは訪れないのだ。
「そうだな。全員でこの海底都市の悪魔を討伐しよう」
「姫那達の方のルーナの救出が上手くいってればいいけど」
そしてエルサリオン達が集合場所に到着するとそこにはもう姫那達はルーナの救出を成功させて、待っていた。
「あ、エリーだ!それに夏生!よかった!エリーに助けてもらえたんだね!」
「おう、悪かったな、心配かけて」
「夏生なら大丈夫だと思ってたし、エリーが絶対助けてくれるって思ってたから全然心配してなかったよ!」
「なんか、それはそれで寂しいな」
「夏にぃボロボロじゃん!」
「うるせぇよ。それよりお前も攫われたらしいじゃないか。何やってんだよ」
「知らない間に連れて行かれたんだもん!でもお姉ちゃんと葵ちゃんが助けてくれたもんね!」
「でもやっと全員揃いましたね!こんなやり取りもすごい久々な気がします!なんか僕嬉しいです!」
葵の言葉にみんな同じ思いを抱いた。
「みんな葵ちゃんと同じ気持ちだよ!やっと全員揃った!やっとみんなで海底都市を楽しめるね!」
違う。違うよ姫那さん。と全員が心の中でツッコミを入れた。
そして久々に全員が集まったところでやっと本来の目的の4階層攻略を本格的に進める事ができるようになったのであった。
ルーナと夏生の救出に成功した姫那一行に今後何が待ち受けているのだろうか。




