EpiSodE038:覚醒する力
姫那は今自分がしている事を理解できていないほどに自分を見失っていた。
見た目すら少し変わっていた。目は見開き眼球が真っ白になり、血の涙のようなものを流し、髪の毛も静電気を帯びたかのように浮いているようだ。
込み上げてくる怒りを自分で制御する事ができない。制御の仕方もわからない。
ただただ、悪魔への怒りだけが込み上げてくる。
「、、ちゃん!、、姉ちゃん!お姉ちゃん!」
それは突然訪れる。
「ルー、、ナ?」
「お姉ちゃん!よかった!やっと帰ってきてくれた!」
私は何をやっていたんだろう。
確かルーナを助けに来て、ルーナを助ける事に成功して、、そこからの後の記憶が全くない。
ルーナを見てみるとさっきと違って、安堵して泣いているのではなく、姫那に何処にも行かないでと言わんばかりに強く抱き付いて泣きじゃくっていた。
「ルーナごめん、私今どうしちゃったんだろう。全く覚えてない」
やった事は全くわからないが、ルーナの顔を見てルーナにとって良くない事があったのだろうと思い、謝った。
「私の方こそごめんなさい!お姉ちゃんをこんな目に遭わせるなんて!私が悪魔に捕まっちゃったからだ!ほんとにごめんなさい!」
何故ルーナが謝っているのか姫那にはわからず、ふと辺りを見回してみた。
するとこの場で立っていたのは姫那とルーナと葵、この三人だけだったのだ。
この店に悪魔は十人以上いた。それが今は跡形もなくいなくなっている。
「姫那さん、大丈夫ですか?」
葵が姫那に問いかけた。その顔は心配で満ちていた。
「もしかして、これ私がやったの?私が悪魔全員を殺したの?」
「、、、そうです。僕は最初にこの扉の辺りを潰した一撃だけで、後は姫那さんが全部一人で悪魔全員を殺しました」
姫那は魔物に対しては殺す事にそこまで抵抗はなくなっていた。
だが、悪魔は身なりも人間に似ている事から殺す事に少し躊躇いがあった。
わかりやすいのが、3階層の時のグレモリー戦だ。
少し喋っただけで情が移り悪魔であるグレモリーを殺すのを躊躇っていた。
そんな姫那がここにいた悪魔十数人を一人で一瞬で葬り去った。
「そん、な。私が全員を殺した。十人以上を一人で、、」
姫那は頭を抱え、精神は崩壊寸前だった。
だが、その精神崩壊の危機も一瞬で止まった。
「お姉ちゃん!ごめんなさい、、私のせいで、、私が捕まってこんなとこに連れてこられたせいでお姉ちゃんがこんな辛い思いをして、、全部私のせいだ!ごめんなさい!」
姫那の腕の中で何度も何度も自分のせいだと自分を責め、涙か鼻水かもわからないくらいどちらも垂れ流しで泣きじゃくるルーナを見ていると、姫那は自分が悩んでる場合じゃない。今自分が壊れるとこの子はもっと壊れてしまう。
そう思った事によって姫那は正気に戻りルーナを強く抱き返した。
「ごめんね!ルーナのせいじゃないよ!ルーナは何も悪くない!だから大丈夫だよ!」
ルーナが姫那の顔を見るとそこには涙を流しながらいつもの優しい笑顔のお姉ちゃんがいた。
「お姉ちゃん!よかった〜!」
安心したのか先ほどよりも更に号泣して姫那に抱き付いていた。
「姫那さん、よかったです!僕はもうどうしていいかわからなくて、、」
葵も泣きそうになりながら安堵の表情を浮かべている。
「私そんなにやばかったの?」
「やばいなんてもんじゃなかっですよ!本当に姫那さんなのか疑いたくなるくらい別人でしたよ!」
「ほんとに?全然自覚ないや!」
記憶がすっぽり抜けている。
自分がどうやって悪魔を倒したのかもわからない。
それを知りたい気もするし、知りたくない気もする。複雑な気持ちだ。
知る事で今後の悪魔討伐に役立つのは間違いない。
でも知ってしまったら多分壊れてしまう。この惨状を見てそう思った。
そしてルーナはずっと泣きながら姫那にしがみついていたから悪魔の死に方までは見ていなかったが、葵は全て見ていて本当に恐怖を感じた。
姫那は悪魔全員に対して一人一人違う殺し方をしていた。
ある悪魔には自分で首を絞めさせ、次の悪魔には斬首させ、次には腑をえぐらせ、と思いつく限りの残虐な殺し方をして悪魔を葬ったのだ。
そんな事を姫那に言えるはずがなく、葵は自分の心の中で留めたのであった。
「とりあえずルーナを助ける事ができて本当によかった!不安な思いさせてごめんね?」
「ううん、私は大丈夫だよ!お姉ちゃん達が早く来てくれたから何もされてないよ!助けてくれてありがとう!」
ルーナを助け出してから約10分、初めて三人が心から笑って全員の無事を喜べた。
「それにしても葵ちゃんの最初の強行突破すごかったね!中にいた私も一瞬また違う悪魔が押しかけてきたと思ったよー!」
「私もびっくりしたんだよ!いきなり葵ちゃんが巨大化して扉をぶち破るんだもん!」
「だって1秒でも早くルーナさんを助けたかったんです!でも今考えたらルーナさんに当たってたら元も子もなかったですね、、すみません」
「当たらなかったし大丈夫だよ!それにあれがなかったら多分私も無事じゃ済まなかっただろうし、、ありがとうね!」
色々あったし、気になる事はまだあるが、何はともあれルーナ救出は成功した。
今はそれをみんなで喜ぶ事にした。
「そういえばエリーはいないの?」
「エリーは夏生の方を探してるの!エリーの事だからもう見つけてそうだけど、、」
「とりあえずエリーさんとの待ち合わせの場所に行きましょうよ!そこに行ったらエリーさんも夏生さんといるかもしれないですし!」
「そうだね!ルーナ歩ける?」
「うん!大丈夫だよ!でも一つだけお願いしていい?」
「いいよ!どうしたの?」
ルーナは最高の笑顔になって姫那の手を掴んだ。
「もう誘拐されないようにずっとお姉ちゃんと手を繋いでていい?」
姫那は無性にルーナが愛おしくなった。
「もう、手の掛かる妹だな〜!そんな子はずーっと握っててあげる!」
「ずーっとだよ!」
「葵ちゃんもおいで!一緒に手繋ご!」
「え!僕は大丈夫ですよ!なんか恥ずかしいし!」
「何言ってんの!行くよ!」
姫那に半ば強引に引っ張られ三人は手を繋いで集合場所に向かうのであった。
そして時間は少し遡り、、
エルサリオンはなかなか夏生を見つける事ができなかった。
「何処にいるんだよあいつ」
どうやっても転移陣以外の手掛かりを見つけられずにいた。
もう何処を探したらいいかわからず立ち尽くしていたその時。
「あの異世界人、何を期待していたんだろうな。あんなボコボコにされながら」
「何かを待っていたような感じだった」
「待っていても誰も来ないのにな。なんか名前も呟いてたな〜。える?えら?えり?なんかそんな名前を呼んでたな。女か何かかな」
「おい、それ以上喋るな。誰かに聞かれるだろう」
「聞かれたところでどうなる事でもないだろ」
エルサリオンには聞こえていた。そして話の中の異世界人とは夏生の事だと確信した。
エルサリオンは鬼の形相でその話をしていた二人組を捕まえて問いただした。
「今の話、どういう事だ?詳しく聞かせろ」
「いきなりなんだよお前、、」
全て言い終わる前に殴っていた。
「悪いが今の俺は虫の居所が悪い。俺の質問にすぐに答えないとお前達を一瞬で殺してしまいそうだ。その異世界人は何処にいる?」
夏生の話をしていたのは夏生を捕らえた内の二人で、こちら側の世界の人間だった。
二人はエルサリオンの漏れ出る殺気に気圧され、喋れずにいた。
「おい、次で答えなかったら本当に首を折るぞ。お前が人間だろうが関係ない。異世界人は何処にいるんだ?」
「向こうの木造の建物です」
結局すぐに場所を吐いた。その場所はエルサリオンがいるところから見える場所ですぐにその建物まで翼を使って飛び立った。
「ここでいいんだな?」
「はい」
場所の確認のために二人のうちの一人を連れて建物の前まで来た。
本当にこの中に夏生はいるのだろうか。
無事ルーナを救出できた。
後は夏生だが、エルサリオンは助ける事ができるのか。




