EpiSodE036:人間の選択
「なんでなんだよ。なんでお前はそっち側にいるんだよ!」
「なんでってそれの方がここでは贅沢できるからだよ。それがここのルールで縮図なんだ」
夏生は囚われていた。そしてルーナと同じくギフトを使えず、抵抗する術をなくしていた。
(くそ、俺は何をやっているんだ。完全に気を抜いていた。このブレスレットがギフトを封じている。これさえなければ!いや、それよりもまさかこの海底都市がこんな状態になっているとは、、)
ーーーーー時は少し遡る。
「この違和感はなんなんだ。この街は何かがおかしい。とりあえずみんなを待つか。いや、少し歩いて攻略の手掛かりでも探すか」
歩いていると夏生はある事に気付く。
「ここの奴ら、同じようなブレスレットを付けてる奴がいるな。何かあるのか?」
エルサリオンが夏生は気付かないであろうと思っていたブレスレットの事を実は気付いていたのだ。
ただ、それを少し疑問に思っただけで特に問題視しなかった。というよりはこれだけで何かを怪しむ事ができないのは当たり前というものだ。
エルサリオンの場合は姫那の指摘があったからこそそれについて考えるという思考になった。
自分で気付くよりも誰かに指摘された方が気になる。これは人の性なのかもしれない。
「ここにいる全員が悪魔ってわけじゃなさそうだな。逆にいろんな種族が集まっている。流石にここまで色々いるとどれが悪魔かはわからないな。聞いて探すわけにもいかないし、どうしたもんかね」
海底都市に着いたはいいが、歩いているだけでは何も手掛かりを見つけられない。
そう考えた夏生は結局近くの店で聞こうとしたその時、逆に声をかけられた。
「さっきから何か悩まれてるみたいですけど、どうかされましたか?」
人の身なりをした男がいきなり話しかけてきた。
「、、、お前はなんだ?」
「そんなに警戒しないで下さい。困ってらっしゃったようなので気になりまして」
「確かに困ってはいるが、人間かどうかもわからない奴をそう簡単に信用できるかよ」
「私は人間ですよ。安心して下さい」
男は人間と言っているが、それが本当なのかどうかわからない。
だが、夏生には目の前の男が嘘をついてるかどうかくらいは見極める目を持っている。
そしてこれに関しては嘘はついていないと判断した。
「そうか、わかった。人間だと信じよう。俺も人間なんだが、この海底都市に悪魔はいるか?」
「悪魔ですか?悪魔はこの海底都市にいますが、それがどうかしましたか?」
「どうかしましたかじゃないだろ。悪魔は滅ぼさないといけない存在だ。お前も人間ならそう思うのが普通だろ。」
「あなたはここには最近来られたんですか?」
「あぁ、今日来たばかりだ」
「そうですか。だったら知らないのも無理はないですね」
「知らないのもってなんだ?どういう事だ?」
「この街の事、ですよ」
「この街の事?お前は何を言っているんだ?もっとわかりやすく教えろ」
「そうですね。わかりました。では少しこっちに来てくれますか?」
そう言われて夏生が近くに寄るとその人間は夏生にあのブレスレットを付けた。
「おい、なんだよこれは」
「これはここで流行ってるブレスレットですよ」
「そんな事聞いてるんじゃねぇよ!なんでこのブレスレットを俺に付けたんだって聞いてるんだよ!」
「それはあなたが人間で、悪魔の敵と言ったからですよ」
「は?どういう事だよ!お前も人間で悪魔の敵だろ?」
「はぁ。そんな昔の事なんてもう忘れたよ。君はここに来たばかりだからわからないだろうけど、いずれわかるようになるよ」
「お前、もしかして悪魔側にいるのか?」
その人間は少し口をニヤつかせながら答えた。
「さぁどうだろうな。君が自分で判断したらいいんじゃないか?」
夏生は今の反応を見て確信した。目の前のこの男は悪魔側についているのだと。
「お前、人間を捨てたのか」
「捨てたなんて言わないでほしいな〜。僕もちゃんと人間として生きてるよ」
「もういい。お前にはここで終わってもらう。このまま生かしていたらやばそうだしな」
「なるほどね。でもどうやって終わらせるのかな?」
「心配するな。一瞬で終わるから」
ここで大きな剣は目立ちすぎるので、小さめなナイフを創造するためにギフトを発動しようとしたその時に異変は起きた。
(何故だ?ナイフが出てこない?ギフトが発動しないぞ!)
「どうした?一瞬で終わるんじゃなかったのか?僕はまだピンピンしているぞ」
「、、、このブレスレットか。こいつのせいでギフトが使えないんだな」
「やっと気付いたか。そうだよ。そのブレスレットは異世界人が持つ特殊能力、ギフトの力を封じる特別な鉄で作られている」
(3階層の時に姫那が檻に囚われてる時にギフトを使えなかった。あの檻と一緒か。厄介な物をつけられたな)
「今の君では僕を倒す事はできないよ」
ギフトを使えない状態で男に殴りかかろうとしたが、別の人間に背後から殴られて夏生はそのまま気を失った。
そして現在ーーーーー
「お前は人間だからギフトも使えるのに、なんで悪魔と手を組んでいるんだ?」
「僕がギフトを使える?そうだな、僕がギフトを使えたらまだやりようはあったかもな」
「その言い方だとギフトが使えないような言い方だが」
「あぁ、君の言う通り、僕はギフトを使えない。何故なら僕は異世界人ではなく、この世界で生まれた人間だからな」
この世界で生まれた人間?そんな人間はこの世界に来て初めて聞いた。
だが、今まで会ってこなかっただけで、この世界で生まれ育った人間がいても何もおかしくはない。
「こっちで生まれた人間は全員ギフトが使えないのか?」
「そうだよ。こっちの人間は弱い。見ただろう?奴隷のように使われている色んな種族を」
確かにこの街では色んな種族が働いていたし、好きで働いているというよりは、働かされていたような気はしていた。
実はそれはその通りで、みんな悪魔に屈して奴隷として働かされていたのだ。
「そうか、今思えば働いていたのはブレスレットをつけていた奴らばかりだった。ブレスレットをしてなかったのはその殆どが悪魔ってわけか」
「殆どというか、ここにいる数人以外は全員悪魔だな。こうやって悪魔側につくと考える奴は僕達以外にいない」
「そりゃそうだろう!どんな理由があろうと悪魔の手下になるなんて死んでもごめんだ!」
「あんな奴隷の扱いを受けてでもそう言い切れるか?僕達を見てみろ。この街で人間でありながらワインを嗜み、美味いご飯も食べている。君はこの現実を見てもそう言えるのか?」
正直言ってる事はわかる。
自分がもしこの世界でギフトが使えないと考えたら、それだけで背筋が凍る。
ただ、それでも自分は悪魔の仲間になる事はしないだろう。何故なら悪魔と人間では根本が違うからだ。
「確かにお前が言ってる事はわからないでもない。でも、それでもどんな事があろうと俺は人間の心を捨てるような事はしない」
夏生の決意は固く、自分の信念を曲げない強い心を持っていた。
それを聞いたこの世界の人間はどう思い、どう行動するのか。
夏生を捕らえたのはこっちの世界の人間だった。
これからは夏生はどうなるのか。
そしてその頃ルーナは、、、




