EpiSodE003:2nd floor
私たちは目の前に光景に驚愕した。
大草原が辺り一面に広がり、終わりが見えない。
素晴らしい絶景なのだが一つ問題がある。
「ここ凄いね!空気も澄んでるし、空気が美味しいって思ったの人生で初めてだよ!」
「テンション上がってるとこ悪いけど、この状況は結構まずいぞ。何処に行ったらいいのか全くわからねぇ」
そう。確かに絶景なのだが、同じ景色すぎて何処に向かったらいいのか全くわからないのだ。
「まぁそうだけど、ずっと洞窟の中の閉鎖空間にいた後のこの開放感に絶景なんだし、ちょっとくらい楽しんでもいいんじゃない?」
嬉しそうにそう問いかける姫那の笑顔が張り詰めていた夏生の重い空気も少し和らいだ。
そうすると、さっきより一段と景色が綺麗に見えた。
(今回は少しだけ姫那に救われたかな)
「能天気すぎるんだよ、姫那は」
夏生が薄く笑いながらデコピンをした。
「痛っ!なんでデコピンすんのよ〜!それにそれくらいの方が絶対楽しいじゃん!」
「まだこっちに来て三日しか経ってないのに順応が早いな。俺と会った時はあんなにテンパってたくせにな」
「そんな前の事とっくに忘れた!」
実に都合のいい体内時計である。
ただ、夏生からしたらむしろそれは羨ましいと思えるほどのものだった。
「ここに留まってても仕方がないし、とりあえず進むか」
なんの当てもなく道なき道を歩いてるとモンスターが現れた。
「よし、あれをやるぞ、姫那!」
「う、うん!でもほんとにできるかな?」
姫那がすごく不安そうだ。
「大丈夫だ!洞窟ではだいぶできるようになってた!」
「わかった、やってみる!」
そして、姫那はモンスターに向かって能力を発動した。
すると姫那の方に向かっていたモンスターが急に攻撃対象を夏生に変更したのだ。
ズバッ
向かってくるモンスターを夏生は一刀両断した。
「成功した!」
「だから出来るって言ったろ!」
姫那は向かってくるモンスターの意識を意図的に夏生に向けさせ、それを夏生が倒すという連携攻撃を成功させたのだ。
1階層の時に姫那の戦闘力ではモンスターを倒せないため、この連携攻撃の特訓をしていた。
成功率は5割程度とまだまだだが、これからさらに精度を上げていけば戦闘の時の武器になる。
「姫那が自分で戦えない間はこれが最善策だから、モンスターに遭遇する度にこの作戦で倒して少しでも成功率を上げていこう」
「なんかごめんね、、」
「ちゃんと自分で戦えるようにはなってもらうからな!」
「が、頑張ります」
因みに夏生も姫那との特訓の間に自分の新たな能力に気付いていた。
それは、刃物を自在に創造できる能力だ。
基本的には日本刀を持っているが、例えば斧とか槍なども創造できる。
ただ条件があって、現状一回に創造できるのは一本だけという事。
日本刀を持ってる時にもう一本日本刀、または斧などを創造しようとすると、最初から出してた日本刀は消滅する。
色々試してみたが、やはり日本刀が一番しっくりくるのでそれを常備している。
邪魔な時はそれを消す事もできる。
今後は用途によって使い分けていきたいと夏生は考えている。
この数日で能力についてわかった事は使用者の理解度、扱うスキルによって出来る事が多くなるという事。
「これどこまで続くんだろうね」
結構歩いてきたが、景色が全然変わらない事に流石の姫那にも少し疲れの表情が見えてきた。
「来る方向少し間違ったかな」
そう思いながら歩いていたら、二人の目の前にあり得ない光景が広がった。
「え?街があるよ!」
「街?街なんてどこにあるんだよ?」
「どこってそこにあるじゃん!」
ポンッ
「ほんとだ」
姫那が夏生の肩に触れると夏生も街を視認できるようになった。
そして二人は2つの事に驚愕した。
まずはいきなり街が現れた事。そして、この世界に街が存在する事だ。
街が存在するという事は何かが住んでるという事の証明でもあるからだ。
では何故ここまで街を認識できなかったかというと、同じ景色過ぎて距離感を失っていたのだ。
街は少し下った所にある。
どこまでこの草原が続いてるのかも分からないという精神的ダメージと、物理的な体力の消耗も相まって街の向こう側の景色と街の手前の景色が一体化して窪みにある街に全く気付かなかったという事だ。
「周りの景色が全く一緒でこんな窪みにあったらなかなか気付けないな」
夏生はある程度一つの見つけにくい理由を理解していた。
だが、何故同じ場所に居た姫那に見えて自分には見えなかったのかは見当がつかない。
「私にはいきなり出てきたようにしか見えないけど、まぁとりあえず行ってみようよ!」
姫那は全く理解してないようだ。
「待て、何があるか分からない。慎重に行くぞ」
見知らぬ世界の見知らぬ街なのに姫那には警戒心のかけらもない。
「待てって言ってるだろ!」
夏生の言葉も虚しく、姫那は走って街に向かっていった。
そして夏生も姫那を走って追いかけるしかなくなったのだった。
先に街に着いた姫那は街に入って驚いた。
「あれは、、人?」
そこには金髪の長髪でブルーの綺麗な瞳に整った顔の女と言われても疑わないくらい容姿が整った男がいた。
そう、ついに人らしき生物に遭遇したのだ。
「夏生!人だよ人!」
「お前、俺と会った時と同じ反応してるじゃん」
「だってこんなところで人に会うなんて嬉しいじゃん!」
二人がそんな会話をしてると、ここの住人らしき人がこっちに近づいてきた。
「こっちに来た!」
「でも歓迎って雰囲気じゃ無さそうだぜ。それにあれは人間か?」
「え?どう見ても人間じゃない?」
「貴様ら、何者だ?何故ここに来れた?」
こちらを睨みつけながら問いかけてくる。
「何故ってたまたまここを通りかかって気付いたら目の前に街があったんだよ!」
「違う!何故貴様らはこの場所が見えているのだと聞いているのだ!」
「え?どういう事?」
姫那は言ってる事の意味がわからなかった。
「ここには外からは見えないように細工をしてある。見えるはずがない」
「細工って窪んでる所に街を作って見つかりにくくしてるって事か?それなら近づけば見つかるだろ」
夏生は自分が見えてなかったのに姫那には見えていた。これの真相を確かめるべく誘導尋問を行った。
「それもあるが、それだけでは見える説明がつかない。それにそんな見え見えの誘導尋問に引っかかりもしない」
(チッ)
夏生は心の中で舌打ちをした。
「なんだかよくわかんないけど、普通に見えてたんだしなんで見えたかなんて説明できないよ!」
姫那自身も何も分かっていないみたいだ。
「まぁいい。部外者は排除する」
そう言い目にも見えない速さでこっちに向かってきた。
「姫那!」
「え?わ!」
ガギンッ
夏生の剣と相手の剣がぶつかった。
「いきなり何しやがんだ!」
「言っただろう。部外者は排除すると」
「全然見えなかった」
姫那には何も見えてなかったみたいだ。
姫那の能力は強力だが、自分が認識できないとそれを行使する事はできない。
「こら、やめんか」
相手の後ろから白く長い髭の男が止めに入ってきた。
「長老」
「すまんの。うちのもんが乱暴してしもうて。剣を収めてくれんかの?」
「こっちも収めたいんだが、あんたんとこの奴が全然収めさせてくれないんだよ」
「おい、エルサリオン!お前も早く引かんか!」
「わかりました」
緊迫した空気だがようやく落ち着いて話せそうだ。
「ふぅ。で、あんたらは人間か?」
夏生が単刀直入に問う。
相手側も躊躇う事なく答える。
「わしらはエルフ。ここはエルフの街じゃ」
西條姫那
能力〈ギフト〉:洗脳系のギフト
石田夏生
能力〈ギフト〉:刃物を自在に創造するギフト