EpiSodE023:それぞれの葛藤
教会から出ると街の反対側の奥まった場所に出てきた。
入ってきた門とは逆の砂漠が目の前にある。
姫那とルーナはすごく盛り上がっていた。その理由は一つ。葵の件だ。
「本当に葵ちゃん、男の子なの?未だに信じられないんだけど!」
「女の子の私より可愛い顔してるのに男の子なんて絶対嘘だよ、お姉ちゃん!」
「本当ですって!確かによく女の子に間違えられますが、歴とした男の子です!」
「じゃあ本当かどうか確かめさせて!」
「確かめるってどうやって確かめるんですか?」
姫那が葵の両胸を掴みにいった。
「いやっ!」
反応が完全に女の子だっが、胸は全くなく、ゴツゴツしていた。
「胸が、、ない、、!胸がないよ、ルーナ!葵ちゃん男の子だ!」
「だから言ってるじゃないですか!正真正銘の男の子なんです!、、キャッ!」
ルーナもまだ信じられなかったみたいで胸を掴もうとしたが、やはり掴めなかった。
「確かに胸はないけど、反応が可愛すぎるんですけど!女の子より女の子じゃん!」
「もう葵ちゃんは女の子って事でいいんじゃない?今更男の子になんて見れないし!」
「お姉ちゃんに賛成ー!」
「なんでですか〜!」
少し涙目で訴える葵だったが、そこまで嫌がっているようには見えなかった。
それは今までずっと悪魔に捕らえられ、いつ喰べられるかわからない状態で牢屋に閉じ込められていたから、久々にこうやって気軽に話せる人に巡り会えて嬉しかったのであろう。
そして葵は自分も知らない間に死の危機から脱していたのだ。
葵は誰から見ても女にしか見えない。それは悪魔から見ても一緒だった。
悪魔の最高のご馳走は人間の若い女だ。
もし悪魔が葵の事を男だとわかっていたら、葵はこの場にはいなかっただろう。
実際、葵と一緒にいた異世界人は全員悪魔に喰われていた。
葵が最後だったのだ。
その奇跡的事実を葵は今後も知る事はなかったのであった。
そうやって勝利を喜んでいる一方で今回のグレモリー戦、完全な役立たずだったと自分を責める人間とエルフが一人ずついた。
まずは人間。
(俺は今回何ができた?ずっと倒れていただけだ。姫那にナイフを渡した。それだけだ。龍刃を撃った時なんて最悪だった。姫那にサポートしてもらったにもかかわらずグレモリーは全くの無傷だった。俺は無力だ)
心の中で自分の無力さを嘆いた。それは表情にも表れていて悔しさが滲み出た表情をしていた。
そしてエルフはというと、、
(一番最初に夏生が放った斬撃を無傷で防がれた、この時点で俺がグレモリーにダメージを与える事はできない。そう思って最初から諦めてしまっていた。そして極め付けは黒魔術をかけられて立ってすらいられなくなった。あれだけ悪魔を憎んでいたのに勝つことすら諦めていた。俺は戦わずして負けていたんだ)
自分が思っていた以上に悪魔と自分との差が大きかった事により、心を折られていた。
そして二人は思う。
自分は足手纏いだった。そんな足手纏いの自分達より体は小さく力もなく頭も回らない奴が自分より圧倒的に強いであろう相手に立ち向かい意表を突き手傷を負わせ最後は女の子のような男の子と協力して倒した。
姫那か葵、どちらか一人でも欠けていたらたぶん負けていただろう。
こういう時でも夏生とエルサリオンは同じ事を考えていた。
「俺達、まだまだダメだな」
「そうだな。自分の力を過信していたのかもしれない。強くなりたいな」
「なりたいじゃないんだよ。強くなるんだよ。何がなんでもな」
「あぁ、その通りだ。このままじゃ故郷すら取り戻せない」
二人は口にしないが、もう一つ共通している事があった。
「夏生ー!エリー!何そんな難しい顔してるの?早く行こうよ!」
それは二人の目の前で馬鹿のように笑っているこの笑顔をなくさない事だった。
姫那の笑顔は不思議な力を与えてくれる。
それは夏生もエルサリオンも一緒だった。
「うるせぇ!わかってるよ!」
考えていた自分が恥ずかしくなって当たりが強くなってしまった夏生。
「うるせぇって何よー!夏生のバーカ!」
いつまでも終わった事を悩んでても仕方ない。
今回がダメだったならそれを教訓にして次に活かせばいい。
課題は山積みだが、今は窮地を乗り切れた事を素直に喜ぼう。そう思った夏生とエルサリオンであった。
「お姉ちゃん!街が見えてきたよ!」
「ほんとだ!」
「慎重にいこう。何があるかわからない」
この街を治めていたグレモリーはいなくなったが、他の悪魔がまだ街に蔓延っているかもしれない。と警戒したのも束の間、一人として悪魔はいなかった。
悪魔はそこの統治者が負けると全員が負けを認めて逃げていくのだ。
それくらい悪魔にとって自分より高位の悪魔は絶対的存在なのである。
「誰もいないな。まだ戻ってくる可能性はゼロじゃないから警戒は必要だと思うが、とりあえず何処かで休憩しようか」
「それならあのレストランで何か食おうぜ」
「僕もお腹空きました!牢屋に閉じ込められてから全然食べれてなかったので」
レストランに着いて冷蔵庫にある物を適当に漁って食べる事にした。
「いいのかな〜、勝手に食べちゃって」
「何言ってんだ。元々悪魔がやってた店だし、その悪魔ももういないんだからなんの問題もないだろ」
「そうだよお姉ちゃん!今いっぱい食べてこれからに向けて蓄えておこうよ!葵ちゃんなんてこんなにいっぱい食べてるんだから!」
久々のまともなご飯に誰よりも勢い良く食べていた。
「葵、お前男みたいな食べ方だなー」
「だから僕男の子ですってば!」
「おいおい、何言ってんだよ。なー姫那」
「夏生、葵ちゃんは男の子だよ」
「お前まで。そんな訳ないだろ」
その瞬間姫那が夏生の手を掴んで葵の胸に持っていった。
「ちょ、お前何やってんだよ。流石にそれはやり過ぎ、、ん?」
葵は慣れてしまったのか顔は赤いが声は出さなくなった。
「夏生わかった?私もルーナも信じられないけど、葵ちゃんは実は男の子だったんだよ!」
「まじかよ、、でも姫那、お前葵ちゃんってよんでるじゃないか」
「それはあれだよ!もう呼び方を変えるなんて今更無理だよ!」
「なんだそれ。ややこしいな」
「あのー、そろそろ手を退けてくれますか?」
夏生と姫那で話が進んでるが、夏生はずっと手を胸に当てたままだった。
「あ、ごめんごめん。なんか男って事が信じられなくて」
「なんでみんなそうなるんですか!どう見ても男の子でしょ!」
すごい形相で言っているが、ここにいる全員が、
『いやー、それはないだろう』と思ったのであった。
今回は夏生とエルサリオンの葛藤が主軸でした。
これから3階層攻略はどうなっていくのか。




