EpiSodE021:奇策と決断
「ここは、、まだ教会の中か」
「あぁ、さっきとは違うところだが」
階段を登り切ったところは地理的に言うと、夏生達が捕まっていた場所とは反対側のところに出てきた。
「ここにも別の教会があったのか。いや、別の教会というより同じ教会内にある別の内陣や主祭壇か」
最初の祭壇と構造自体は基本的に一緒だが、所々の模様や形が違う。
「ねぇ、あそこに人がいるよ!あの一番前の椅子のとこ!」
一番前の椅子に目をやると一人の女性が祈りを捧げていた。
「あぁ、我が神よ。私の願いを聞き叶えたまえ。この世に存在する人間を喰らう事をお許し下さい」
全員が耳を疑った。そして、瞬時にこの目の前にいる奴が悪魔でこの街の統治者だとわかった。
何も言わず夏生がその悪魔に襲いかかる。だが、易々と悪魔に止められる。
「不意打ちとは礼儀がなってない。私は今祈りを捧げているの。終わるまで少し待ってなさい。その後遊んであげるから」
放つオーラ、風格がその辺の悪魔の物とは別格だ。
2階層の山頂で戦ったザガンに匹敵するかそれ以上の強さである事は戦わずしてわかった。
「悪魔。お前が今祈りを捧げた内容が俺らには納得できない内容だった。それにお前が悪魔という時点でお前の意見を聞く気はない」
「すごい言われようですね。私達は生きるために人間を喰らっている。お前ら人間が牛や豚を食べるのと何が違うって言うの?」
「倫理的におかしいだろ。悪魔に倫理観が通じるかはわからないが」
「フフ。まぁいいでしょう。祈りもほとんど終わってるし、今から遊んであげる。私はグレモリー。あなた達は?」
悪魔に似つかわしくない上品な物言いで名乗ってきた。
「俺は石田夏生だ。お前を消す奴の名前だからしっかり覚えておけ」
そして全員が名前だけの簡単な自己紹介をする。
「石田夏生。あなたはすごい暴力的なのね。逆にそれがそそられる所ではあるけれど」
そう言いながら不敵に笑うグレモリー。
「そろそろ始めてもいいか?」
さっきは不意打ちをした夏生だが、グレモリーの対応を見て倫理観を語った自分がそれから外れてはもはや悪魔以下だと思い、不意打ちのような卑怯な事はせず、真正面から戦おうと思った。だが、、
「何を言っているの?仕掛けてきたのはあなたでしょ?もうとっくに始まってるわよ」
そしてそれは急に起きた。
夏生達の視界が歪んで、まともに立てなくなっていた。
「なん、だ?目の前が歪んでいる。グレモリー、お前何をした?」
「私は黒魔術を操る悪魔。あなた達は今私の魔術に堕ちている。周りの景色が歪んでいるでしょう?あなた達の三半規管を乱して脳を混乱させたのよ」
そしてやはりそういった類の魔法や魔術すら効果がない人物が若干一名いた。
「みんな!どうしたの?なんで倒れてるの?」
「何故あなたは倒れてないの!?」
グレモリーは驚愕していた。
姫那の能力は砂漠の魔物を相手していたのを見ていたし洗脳系のギフトだと知っていた。
ただ、グレモリーは少し勘違いをしていた。グレモリーは姫那のギフトを『相手を洗脳する能力』と思っているが、姫那のギフトの根幹は『自分に向いてる意識を他に向ける』という事。相手を洗脳するというのはあくまでも後から発現したものだ。
この勘違いの結果、グレモリーは自分が思い描いたシナリオとは違うシナリオになったのだ。
「何故って言われても私達まだ何もされてないじゃん!」
いや、されてるよ!と倒れている全員が思った。
「そこに倒れてるあなたのお仲間達を見なさい。三半規管がやられて全く立てなくなってるでしょ!それなのにあなたは何故立ってられるの?あなたの能力は洗脳系の能力でしょ?」
グレモリーが誰の目からもわかるくらい取り乱している。
「あー、そういう事か!私そういう感じのやつ効かないんだよね!」
「き、効かない!?何なのそれ!ズルいじゃん!反則じゃん!」
「そんな事言われても効かないものは効かないんだし、仕方ないじゃん!」
倒れている夏生達を取り残して二人で漫才のような会話が繰り広げられる。
姫那も姫那だが、この悪魔グレモリーも悪魔に見えなくなってきたと思う夏生達だった。
「って事で私しか戦えないみたいだから、夏生!ナイフちょうだい!」
「おせーよ!もう出してるよ!早く持っていけ!」
夏生もそれしか方法はないと思っていたからずっとナイフを出していた。
「ありがとう!」
夏生が持っていたナイフを走りながら受け取り、グレモリーにナイフで挑んでいった。
「そんなナイフでは私に傷一つ付ける事はできないわよ?私が魔術だけに特化した悪魔だと思わない方が身のためよ」
グレモリーには姫那のナイフは全く刺さらず折れてしまった。
そしてナイフ自体が夏生が想像した物だった為、折れると同時に消滅した。
「ナイフなくなっちゃった!」
「私の魔術にかからなかったのは驚いたけど、それだけみたいね。他のお仲間さんは動けないみたいだし、先にあなたから脱落してもらいましょうか」
「みんなが動けないのに私が負けるわけにはいかない!私があなたに勝つ!」
『そこに座って!』
姫那がグレモリーに洗脳をかける。
「くっ、すごい力ね。でもあなたのその洗脳する能力は知ってたから私も私自身に魔術をかけて対策させてもらった。だから私にも洗脳とかは効かないわよ」
姫那の洗脳が通用しない。それはこの状況では絶望的であった。
だが、姫那にはまだ秘策があったのだ。
「夏生!もう一度ナイフ出して!」
「なんでだよ!さっき全く刺さらなかっただろ!」
「いいから出して!」
「、、、わかった!何か手があるんだな!」
そう言うともう一度夏生からナイフを受け取りグレモリーに突っ込んでいく姫那。
「さっきの事をもう忘れたの?全く刺さらなかったでしょ?」
「そんなのもう一度やってみないとわからないじゃん!」
「何度やっても一緒よ。もう一度そのナイフを折って、次はあなたの腕も折ってあげる」
その言葉が聞こえてないのか、関係なく突っ込んでいく。
そしてナイフを突き刺そうとして、持っている左手を出したがグレモリーに届く前に手を引き、何も持っていない右手でグレモリーに触れる。
「何?左手じゃなくて右手を折って欲しいって事?ならお望み通り右手を折ってあげる」
「折って欲しいわけないじゃん!ナイフを持った手を先に出したのはそっちに気を逸らせる為!本命はこっちの手であなたに触れる事!そうすれば私の力がより強くなる!」
「強くなる?まさか、、」
『口を閉じて動かないで!』
その瞬間グレモリーは喋る事も動く事もできなくなった。
(しまった!そういう事だったの!この子の洗脳の力は対象に触れる事で更に力を増す!私の魔術が全く効果を成さないほどに!)
「よし!成功した!」
これによりガードも出来なくなり、容易にナイフを刺せるようになった。
だが、何故か刺さない姫那。
「どうした、姫那!早く刺せ!」
「動けない内に刺さないと!お姉ちゃん!」
エルサリオンとルーナが叫ぶ。
「わかってるよ!」
わかっている。刺さないといけないのはわかっているが、さっき普通に喋っていた相手をなかなか刺さないでいた。
「そいつは人間を喰っている悪魔だぞ!早く刺せ!そいつを倒す事で今まで喰われた奴も少しは報われる!」
夏生も同じように姫那を促す。
「、、ごめん」
グサッ
姫那はグレモリーの左胸の心臓部をナイフで突き刺したのだった。
悪魔の街クライマックス。
グレモリーはこれで消滅するのか?それとも、、




