EpiSodE020:声の正体
教会の地下での戦いは夏生の活躍により悪魔を倒して無事姫那とルーナを救出できた。
姫那達を救出するまでずっと二人で行動してきたエルサリオンは夏生の異常なまでの急成長に驚いていた。
急成長というよりかは覚醒に近いかもしれない。
それくらいいきなり強くなったのだ。
そしてそれはやはり悪魔が人間を喰っているとわかった時。
その瞬間に夏生の雰囲気が明らかにかわったのだ。
自我は保っていたとは思うが、悪魔に対して過剰に残忍になった。
それは以前にエルサリオンが他種族に対して抱いていた憎しみと似たようなものを感じた。
一抹の不安はあるものの、悪魔以外に対してはいつもの夏生だったので、今は触れないでおこうと思うエルサリオンであった。
「さっきの悪魔が仄めかしていた更に高位の悪魔ってどこいにいるんだろうな」
「わからない。でも悪魔はこの世に存在しちゃいけない生物だという事はわかったから必ず消さないとな」
地下通路に夏生の低く怒りのこもった声が響く。
今走ってる通路は夏生とエルサリオンが来た方とは逆にゴーレムが出てきた通路があったからそちら側を通っている。そしてその道中で声がした。
「助けて」
それはあの時に姫那が聞いた声だった。
「ねぇ!今聞こえた?今声がしたよね?」
「あぁ、今回は俺にも聞こえた」
「私も聞こえたよ!」
「俺もだ」
やっぱりあの時姫那が聞いたのは声だったのだ。
その声のする方に向かうと、通り過ぎた一つの牢屋の端の方に大きな布で隠れていて性別もわからないがうずくまっている一人の人間らしき生物がいた。
「あなたが助けてって言ったの?」
「はい。助けてくれますか?」
「今すぐ助けるよ!これ開けるね!」
「姫那、ちょっと待て」
姫那が牢屋を開けようとすると夏生がそれを止めた。
「なんでよ!見つけたら助けるって、、」
「ちょっと待てって言ってるだろ!」
夏生が姫那に叫ぶ。
「な、何よ、、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃん、、」
「こいつが悪魔じゃないか、その確認だけ必要だ。それまでは解放できない」
「夏生、一度落ち着け。お前悪魔を前にすると周りが見えなくなりすぎる」
「別に周りが見えてなくねぇよ。ただ、こいつが悪魔じゃないかどうか確認しないと解放できないって言っただけだろ」
「確かに確認は必要だが、それで何故姫那に怒鳴る必要があるんだ?姫那は仲間だぞ」
エルサリオンが言ってる事が正論すぎて何も言い返せない夏生。
「お前の対応は間違ってはいない。でも全てが正解でもない。自分でもわかっているだろう?」
「エリーもういいよ!私は大丈夫だから!何も確認せずに助けようとした私が悪いし!」
姫那が珍しく気を遣っている。
「姫那」
「は、はい?」
いきなり呼ばれて変な声で返事してしまう。
「怒鳴ってごめん。悪魔かもしれないと思うと過剰に反応してしまう」
「私は大丈夫だよ。何かあったの?」
「姫那とルーナが囚われてるところに行くまでの地下通路にこれと似たような牢屋がいくつもあった。そこには誰もいなくて飛び散った血だけが残っていた。悪魔に喰われた人たちの血だ」
「それって何人喰べていたの、、」
惨劇の想像をして姫那とルーナは気分が悪くなった。
「ルーナ、大丈夫?」
「うん。お姉ちゃんこそ大丈夫?」
「私も大丈夫。でも悪魔が人間を喰べているなんて、、夏生が過敏になるのもわかるよ」
少しの間沈黙になる。そしてその沈黙を破るのはやはりいつも一緒だ。
「でも私に任せて!私のギフトならこの子が人間か悪魔かなんてすぐわかるから!」
そう、姫那のギフトは洗脳だ。
嘘をつかせないようにするなど造作もない事なのだ。
「確かにそうだな。じゃあここは姫那に全て任せよう」
「うん!ドンと任せて!」
「それでいいよな?夏生」
「あぁ、俺もそれが一番いいと思う」
エルサリオンが姫那に全てを任せると言った。
夏生もそれに合意した。
「よーし、じゃあいくよー!」
檻に囚われていた人?が怯えて震えている。
「怯えなくて大丈夫だよ!痛くも痒くもないからね!」
姫那がそういうと、怯えて震えていた背中の震えが止まった。
『あなたは人間?それとも悪魔?嘘をつかず教えて!』
するとすぐに答えは出た。
「人間です」
「人間だって!解いて大丈夫?」
「そうだな。助けてやろう」
ハッとした表情で我に返る。そしてまた少し怯える。
「怯えなくて大丈夫だよ!名前はなんで言うの?」
もう一度簡単に姫那のギフトをおさらいすると、洗脳をかけた対象に触れると洗脳は解ける。
「泉水 葵って言います」
「葵ちゃんかー!私は姫那って言うの!よろしくね!」
「私はルーナ!よろしく!」
「それとこっちがエリーでそっちが夏生!」
「よろしくな」
さっきの事もあって夏生には怯えている。
「やっぱり夏生には怯えてるね!ルーナの時と一緒だ!」
「だって夏生最初本当に怖い顔してるんだもん!誰でも怯えるよ!」
姫那とルーナが笑いながら話す。
「この人も悪い人じゃないからね!その内慣れてくるよ!」
夏生がいい人だとわかってるからこそ時間薬が一番だと思った姫那。
その言葉に葵も頷く。
「とりあえずここから出ようか。他の悪魔とかに見つかっても面倒だしな」
「葵ちゃん、走れる?」
「歩くのも久しぶりだから走るのはちょっと、、」
「お姉ちゃん!私が飛ぶから大丈夫だよ!私に任せて!」
「じゃあルーナお願いね!」
「うん!葵ちゃん、こっち来て!」
ルーナは葵を抱えて飛んだ。
それに最初は葵もびっくりしたが、少ししたら飛ぶ事にも慣れてきて笑顔で楽しんでいた。
「どう?すごいでしょ?」
「はい!飛べる能力なんてすごいです!」
「そういえば葵ちゃんも転生されてきたんだったら何か能力持ってるの?」
「持ってます!ここじゃ使えないから外に出たら使います!」
ルーナと葵の会話はみんなに聞こえていた。
ここでは使えない。どんな能力なのか想像がつかない。
「えー!ここじゃ使えないってなんかすごそうな匂いがプンプンするなー!」
姫那が葵の言葉に反応する。
「狭いところでは使えないから逆に扱いが難しいんです。姫那さんのはどんな能力なんですか?」
「私のは洗脳だよ!それで葵ちゃんが人間ってわかったんだ!ごめんね、急に洗脳かけちゃって」
「いえ、それで人間だってわかってもらえたんですから。寧ろありがとうございます!」
結局その後は通路には何も出てこず、地上へ上がる階段の前まできた。
「この階段を登ったら悪魔がうじゃうじゃいるかもしれないし、何もいないかもしれない。どちらにしろ気を引き締めていこう」
夏生の言葉と同時に全員が気合いを入れて、階段を登っていくのだった。
地上には何が待ち受けているのだろうか。




