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魔法少女モノ、頑張ってみます。

 その日、ひとつの災害があった。

突如として地球に現れ始めた、魔物と呼ばれる怪物がとある地域に降り立ち、建物を破壊し、人間を殺していったのだ。


 魔物に人間の兵器は効かない。

故に人々は、魔物と同時に現れ始めた魔法少女と呼ばれる救世主が来るのを待つしか無かった。

そして、魔法少女が現れ、魔物を殺し、死骸を持って去っていった。


 人々は歓喜し、魔法少女に感謝した。その間にひとつの悲劇が起きていることも知らずに。





 燃える家。落ちる瓦礫から己を庇って事切れた母親。

これから死にゆく幼き少女は、それをどこか他人事のように眺めていた。

父親は何年か前に魔物に殺されている。

自分も父と母の元に行けるのだと、理解できていた。

理解できているからこそ、母親のために流した涙の跡がついたままの顔で、情のない(まなこ)で、口を三日月に割いた。


 『本当にそれでいいのかい?』


 どこかから、声が聞こえた。


 少女の返事を待たず、声は言う。


 『魔法少女と魔物の戦い。愚かだとおもわないかい?』


 その言葉は少女の、魔物に対する恨みを、魔法少女に対する恨みを、刺激した。


赦さない。

──パパを殺した魔物を。


赦さない。

──ママを殺した魔法少女を。


 『いいね! その感情!』


 バカにするな。

 黙れ。

 この感情はその程度のものじゃない。


 『キミは選ばれたんだ! 人間が恨む魔物を憎悪し、人間が感謝する魔法少女すら恨む。実に素晴らしい!』


 燃えて炭になった家の何かが少女の近くに落ちる。


 『おっと、もうそんな時間もないか。ひとつ、キミに提案があってね……。魔物と魔法少女の、こんなくだらない争いを、止める気はないかい?』


 それは、天命だった。

 少女は、手を伸ばした。




 その日、魔物が街を襲うというひとつの災害があった。

死者1名、行方不明者1名という、魔物に襲われたにしては小さな被害だった。



 その日、とある街で人知れず、一人の魔法少女が誕生した。






~~~~~~~~~~


 『(みこと)、魔物だよ』


 あの日、少女──命に声をかけた、魔法少女との契約者。

精霊の、その王を名乗る存在、マキナが言う。


 「わかってる」


 命は恨みのこもった眼を空に向けながら、言う。


 『このくらいの魔物なら、キミの初陣にふさわしい相手かもね』


 「ん」


 起き上がり、右に向かって走り出す。


 「″今此処に、契約の一端を″──変身(チェンジ)


 走りながらそう詠った命の両手から、どす黒い闇が放出される。

その闇は命を中心に渦巻き、命の顔を、服を、体型を変えた。


 「変身完了」


 そのまま住宅街の屋根を駆け抜け、現場に到着する。


 そこには既に、狼型の魔物と対峙する青い服を纏った魔法少女がいた。


 「魔法少女……」


 『護るべきものを護らない魔法少女のみ。その契約を忘れたわけじゃないよね?』


 「……わかってる」


 命は魔法少女の攻撃を防ぐ魔物を俯瞰する。


 「«気配(シャドウ)»」


 命の気配が希薄になる。

まるで、世界から存在が消えたようにすら錯覚するほどに。


 「«容姿(コスチューム)»」


 命の姿が完全に消える。

いや、消えたわけではなかった。

命の姿が、周りの風景と同一になったのだ。

自然界で言う擬態に近しいもの、と言えば分かるだろうか。


 魔法少女となり、強化された肉体をもって、人間離れした速度で魔物へ接近する。


 「«気配»«容姿»」


 魔物の近くに来た命は、«気配»の能力で魔物に一瞬だけ己の気配がとても強大なものであると錯覚させ、«容姿»の能力で突如姿を見せた。

急に現れた強大な気配に驚き硬直した魔物へ、接近するときの速度を保ったまま、絶大な筋力をも利用して横腹を殴りつけた。


 宙に血潮が舞った。

静寂。

そして、魔物は鳴いた。


 「ガッ!……ルゥゥゥ!、ル、ウゥゥ…………」


 最初に来た魔法少女との戦闘で既に致命傷だった魔物は、命による一撃で、息絶えた。


 「終わり」


 呆気なく幕を閉じた戦闘。

命は魔物の骸につまらないものを見るような、そんな眼を向ける。

 そんな命に、既に居た魔法少女が声をかける。


 「あ、ありがとうございます。既に魔力も尽きていまして、このまま戦いが続けば危なかったので」


 彼女は腰を曲げながら言う。


 「ん、じゃ」


 命は彼女に興味を持っていないかのような返事をしたあと、魔物の骸を掴み帰ろうとする。


 「ま、待ってください! 私はアクエスです。お名前と、あとどこの局に所属していますか? あとでお礼を伝えに行きたいです!」


 魔法少女は危険だ。

魔力を体にもつ以上、人間の兵器は効きずらく、ただの人間より身体能力も優れている。

故に、普通の魔法少女(・・・・・・・)は、政府の管理下におかれ、それぞれの都市にある管理局に所属することになる。


 「……名前はレーテー。所属はしてない」


 言う必要は無いが、早めに世に名前を知らしめておくべきだろうと、命は魔法少女としての名前を名乗る。


 「所属してない、って。野良?!」


 野良……魔法少女に対するこの言葉は管理局に所属していない者を指す。

野良と所属者では国からの扱いが違い、怪我をしたときの補償が無いため、基本的に魔法少女になった者は管理局に申請して所属する。

滅多な事情がない限り野良の魔法少女など居ないので、彼女が驚くのも自然と言えた。


 「そうですか。野良の魔法少女は保護対象となっています。あなたは恩人ではありますが、無理矢理でも管理局まで着いてきてもらいます」


 レーテーは先程の戦いで弱っている魔物を横から倒しただけだ。

わざわざ弱っている魔物に攻撃しに来たのだから、レーテーの魔法少女としての能力はそこまで強くないのだろう、なら消耗している自分でも勝てると、アクエスは考えていた。

実際、その考えは当たっている。

魔法少女になったばかりの命では経験者であろうアクエスに敵う道理は無い。

力ずくと言われれば、レーテーが負ける可能性は高い。


 だが、それは戦った場合の話である。

逃げるだけならば、他人に自身を悟らせないだけならば、どうとでもなるのだ。


 「«気配»«容姿»」


 «気配»の能力で自身の気配を希薄にする。

 «容姿»の能力で姿を周囲と同一化する。


 「なっ、一体どこへ!」


 「……次は容赦しない」


 レーテーはそう言い残し、その場から離れた。

確りと、魔物の骸を掴んだまま。

投稿時点で2話目を執筆開始

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