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2.混乱する世界

 



 西暦2021年1月1日


 それは地球上で最も早く新しい日を迎えるアメリカ合衆国とキリバスの双方が領有するライン諸島が年を越した瞬間に起こった。


 全ての人口衛星と海底ケーブル、そして海を挟んで他国と繋がる橋やトンネルの消失。


 その影響は直ぐに世界中全ての場所に現れた。

 橋やトンネルの消失による移動手段の消失、大陸間での国際電話や各種インターネットの異常、そしてGPS衛星の消失によるGPSシステムの崩壊。


 特にGPSシステムの崩壊による影響は甚大であった。

 世界各地でGPSの使用不能による迷子や船舶の座礁、GPSに頼る航空機の自動操縦システムの突然の解除。

 世界中で1日に航空機は約1万3000機飛行している。

 それらの航空機が突如として自動操縦から手動操縦になったのだ。

 GPSの使用不能による迷子で燃料不足になる機体も居た。


 つまり何が言いたいのかと言うと、この日だけで数千機の航空機が墜落したという事だ。






 西暦2021年1月1日、日本連邦国 首都東京特別区 首相官邸


「つまり、前代未聞の異常事態が起きていると言う訳だな。」


 首相官邸の冷たい大理石の廊下を足速に歩く男は、歩きながらも報告してくるもう1人の男性からの報告にそう結論付けた。


「はい。現在、九州・四国・沖縄・台湾・北海道・樺太・千島やその他島嶼部との連絡は通じて居ますが有線は全て全滅です。JAXAからも衛星との連絡が一斉に途絶えたとの報告が上がってきています。現状他国との連絡は一切取れません。」


 もう1人の男、総理補佐官が今集まっている情報を総理大臣に伝える。


「つまり、我が国以外の国全てが消失したという事か?」

「台湾にある空軍のレーダサイトにフィリピンは映ってるとの事なのでそれは無いと思います。ですが対馬や済州から朝鮮半島が確認出来ないとの報告があり、樺太からも大陸が確認出来ないそうです。」


 総理補佐官の報告に総理大臣は(せっかくの年明けなのに面倒な事になった)と思いながら歩き続け、目的地である危機管理センターに到着した。

 場所的には総理大臣執務室に担当者が情報を持ってくるのが普通なのだが、一刻も早く情報が欲しいという思いと非常事態なので危機管理センターに来たのだ。


 危機管理センター内は年明けにも関わらず大勢の職員が慌ただしく動き回っていた。

 危機対処にあたる部署の人間は相当数詰めているようだが、殆どの大臣や長官は居なくそういった人達が座る席は閑散としている。

 軍だってスクランブルや救難、危機対応にあたる24時間365日対応するような少数の部隊を除けば、特に訓練や演習も無くのんびりしている時期である。

 一部の人達にとってはとっても忙しい時期だが、そういう人達を除けば最低限の人員しか居ないのが普通だ。

 ただ、通信途絶が発生したのが午前9時、直ぐに全職員に対し招集をかけた為、運行し始めた各公共交通機関がなどを使って来た職員達が集まり始めていた。


「防衛大臣、状況は?」


 流石にこの人は居るだろうと危機管理センターに総理が来たのは当たりだったようだ。

 もしかしたら市ヶ谷の防衛総省地下の司令部に居る可能性があったが、常に危機管理センターと繋がってるのでどちらにせよ問題無い。


「現在入って来ている情報ではユーラシア大陸が元の位置から消失している事を確認し、今のところ他国との通信は全て途絶しています。また幾つかの場所から不審な電波が出ている事を情報本部が探知しましたので、現在その場所へ向けて空軍の戦闘機を出す予定です。」


 総理に声をかけられた防衛大臣が今現在入って来ている情報の中から確実なものを全て報告する。


「知ってる電波は無いのか?」

「今現在の情報で確実なのはフィリピンやオーストラリア、英領香港、そして英国本土です。」

「イギリス本土?海外領土じゃ無くてか?」

「海外領土は香港のみですね。電波の識別コードによるとイギリスのケント州にあるマンストン国際空港からの電波だと判明しました。ちなみに距離は約9500kmです。」


 24時間365日で行われている日本のシギント任務は防衛総省の機関の1つである情報本部が行なっており、その実態は謎に包まれている。

 日本連邦国はエシュロンを運用しているUKUSA協定に発足直の1946年に加盟しており、アメリカのNSA、イギリスのGCHQと共に諜報活動を展開しているが、DIHの能力は高いと言われている。


「在日米軍の方からの情報は?」

「横田のグリニッジ司令官も混乱してました。アメリカ本土やハワイ、グアムなどの基地との通信も出来ないそうですが、在英米軍基地とは連絡出来るそうです。」


 第二次世界大戦に連合国側で参戦した日本だったが、戦後の対ソ連包囲網の構築により国内の幾つかに在日米軍基地が存在する。

 元は中華人民共和国と敵対する中華民国を支援する為、日本領台湾に基地を置いたのが始まりであるが、現在台湾と北海道を中心に基地を設置しているが、その規模は史実と比較しても非常に少ない。


「大澤から『F-3.グリペン』が上がりました。三沢防空司令所から映像が届きます。」


 防衛総省と連絡を担当していた担当者の声が危機管理センターに響き渡り皆が動きを一旦止めて大型モニターに釘付けとなる。

 大型モニターには樺太の大澤空軍基地から上がった『F-3.グリペン』が映し出される。


「相手がロシア共和国ならトロント協定加盟国だから領空侵入は問題にならないがソ連だった場合は最悪撃墜されるぞ?

 グリペンみたいな非ステルス機より『F-35』のようなステルス機の方が良かったんじゃ無いのか?」

「直ぐに飛ばせるのがスクランブル待機している大澤の『F-3』と千歳の『F-15』だけだったので近い樺太を選んだだけです。それに『F-3』のような非ステルス機ならロシアのレーダー網に引っ掛かった場合、在露米軍かロシア軍が何かしらの反応を返すでしょう。」


 こういう場合はバレなきゃ犯罪じゃ無いんですよ理論を盾にステルス機を出させるのが1番だが、相手が同盟国ならばわざと探知させるのも1つの手だと防衛大臣は質問して来た外務大臣に告げた。


 そもそも『F-3.グリペン』は日本とスカンディナビア連邦が共同開発した局地用の安価な多用途戦闘機なので航続距離は他の戦闘機に比べて短いのだが、元々数を揃えるのが目的なので仕方がないだろう。


「まぁ、確かにそうだが・・・」

「『F-3』がロシア共和国上空に入ります!」


 実際に領空侵犯して相手国から抗議されるのはウチなんだぞ?という思いを担当者の報告に掻き消された外務大臣を始めとする人達は今のところ海しか見えない映像を注視するのだった。





 西暦2021年1月1日 イギリス連合王国 首都ロンドン 首相官邸


「一体何が起きているんだ・・・」


 ダウニング街10番他とも呼ばれる英国首相官邸での緊急会議で国防大臣や外務大臣、SIS及びGCHQ長官の報告を聞き首相は頭の中が整理しきれなくなった。

 簡単に言えば今までの現実と隔離し過ぎてフリーズしたのだ。


 他国との通信が突然途絶し、いきなり昼が夜になったのはヨシとしても、ロンドン郊外にあるヒースロー空港から離陸した旅客機が突然の主導操縦と辺りが夜になった為にテムズ川に墜落したのである。

 その結果ロンドンの警察・消防・軍隊は現在、大混乱の中にある。


「それで、ドーバー海峡トンネルは水没してヨーロッパ各国とは連絡が取れずに、何故か日本の戦闘機がスコットランドのルーカーズ空軍基地に着陸ね。意味が分からん!」

「日本の戦闘機ってそんなに航続距離長かったか?」


 ちなみにその戦闘機は日本の総理大臣を始めとする一部閣僚も視聴するカメラを搭載していた『F-3』なのでタイフーン戦闘機によるスクランブル対応を含めたルーカーズ基地への着陸までの一部始終を見られているのだが、この時彼等はその事に気づいていない。


「いやいや、そもそも日本の戦闘機が我が国の防空識別圏を飛行しているのがおかしいだろ。」


 民間機でも一部のワイドボディ機を除いて経由を挟む距離である、小型な機体が飛んでこれる距離では無い。


「日本の戦闘機パイロットも混乱してました。本人はロシア共和国への偵察飛行のつもりだったようで。」

「なのに我が国でスクランブル対応での強制着陸か、パイロットも気の毒だな。HAHAHAHA」

「・・・もしそうなら世界中の大陸や島の位置が滅茶苦茶になっているという事か?」

「ならば日本が近くに居るのは不幸中の幸いか?」

「面倒な国じゃ無くて良かった良かった。」


 問題無い解散!みたいな雰囲気になっているが問題の本質はまだ終わってない。

 余りにも問題が多過ぎて彼等が逃げ出したくなっているだけである。


「もう少し情報を集めないと。」

「こちらの方から日本に情報提供の要請をしよう。」


 使い物にならなくなっている首相を始めとする閣僚を尻目にこういった事態に慣れているSIS長官とGCHQ長官はひっそりと退出して情報集めに戻っていった。


 最も、少し情報が集まっても謎は増えるだけであるが・・・





 西暦2021年1月1日 ドイツ連邦共和国 シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州 キール海軍基地


 第一次世界大戦の講和条約であるヴェルサイユ条約によりキール運河以北を失ったドイツだが、そのキール運河のバルト海出口のドイツ側に位置するキール海軍基地の運河側埠頭には多数の海軍兵達が野次馬のようにスマホで写真を撮っていた。


「こちらです基地司令。」


 そんな野次馬でも自分達の上官が来ると敬礼して道を開けるのは流石軍人である。

 そんな開けられた道を元日にいきなり連れて来られて不機嫌な基地司令はキール運河が見える場所に立った瞬間に言葉を失った。


「な、え?ど、どうなっているんだ!?」


 語彙力が色々と欠如しているが、目の前の状態は人間に語彙力を失わせるのに等しい状態が広がっていたからである。


「き、キール運河が無い!ユトランドはどこに行った!?」


 キール運河を挟んで対岸のユトランド側にあったホルテナウの街並みを初め陸地が全て無くなっていたのである。

 しかも一部では無い、目に付く限り全ての陸地である。

 昨日まで陸地があった場所は見渡す限り海となっていたのである。


「キールホルテナウ航空基地との連絡は!?」

「一切取れません。」


 キールホルテナウ航空基地はドイツ連邦海軍の航空部隊が配備されている基地である。

 キール海軍基地の対岸とは言えスカンディナビア連合領ユトランドにドイツ軍の基地があるのは異例だが、元々ドイツ領だったのとスカンディナビアとドイツ両国の関係が良かった為、存在し続けていた。


 その後キール海軍基地及び各所より連絡を受けたドイツ国防省はイェファー空軍基地より『ユーロファイター』を出撃させ、ユトランド含めスカンディナビア連邦を確認させたが海が広がるのみで何一つ確認出来なかった。

 同じ頃フランスではユーロトンネルの水没とイギリスとの通信途絶によりエヴルー空軍基地より『ラファール』を出撃させイギリス本土を確認させたが、同じく確認出来なかった。




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