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13.戦争中も派閥争いに勤しむ国

 


 新世界歴1年1月9日 中華人民共和国 首都北京 中南海


「何故だ?何故日英が武力行使をしてくる?」

「我が国が海北島を領有するのを恐れて国土防衛名目での攻撃でしょう。出撃した艦隊は全滅、これで日英の実効支配は確立されてしまいました。」


 国家主席が声を荒げて自問自答する中、隣の席に座っていた政治局常務委員が自分なりの考えを述べた。

 日英と戦争状態に入っているのに、何とも思ってないように言っているのは、日英が国土防衛を名目に攻撃をした為、全面戦争になる可能性が非常に低いからである。

 後、彼は陸軍閥なので政敵である海軍が失態を犯した為、内心喜んでるという事情もある。


「1個空母機動艦隊を失ったんだぞ!?直ぐにでも報復攻撃をすべきでは無いのかね!?」


 そう言ったのは海軍閥の政治局常務委員である。

 ただでさえ史実より海軍力が少ない現状で、今回の失態により海軍の予算が減らされる可能性があるので海軍閥の彼としては見かけだけでも虚勢を張らないといけない。


「日英に報復攻撃?ふっ、笑えないな。」

「私も同感だ。互いに報復合戦になれば負けるのは我が国だ。連中のSSGNからの巡航ミサイルで我が国の都市は壊滅するぞ?」


 空軍閥とロケット軍閥の政治局常務委員が次々に海軍閥の政治局常務委員を非難する。

 2人も常日頃から「人民解放軍は世界一の軍隊だ!」と言っているが、ちゃんと実力は把握しているのだ。

 ちなみにロケット軍は弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルなどを運用している軍種である。


 他国と戦争になったのに派閥争いとは何処かの史実島国を思い出させるが、この国ではこれが日常である。

 通常であれば1番の最大勢力である陸軍を攻撃する為に空軍閥やロケット軍閥の人間が海軍を庇う事もあるが、外洋艦隊を半壊させるという大失態を犯していれば、助けたくても助けられない。


「海軍の責任者は国家反逆罪を適用させるとして、予定がだいぶ狂ったな。満洲に対する侵攻計画は取りやめて、統一戦線工作部を使った引き剥がしに変更するか?」


 他国だと一時の戦争に負けてもクビ程度で済むが、この国だと国家反逆罪による目隠し(銃殺刑)が一般的である。

 別にこの国で国家反逆罪の適用は珍しく無いのだが、今回は国家主席の命令、袖の下(贈賄)身代わり(替え玉)も通用しない。


 結果的に日英との全面戦争は悪手という事で記者会見で日英を非難して(勇ましい事を言って)、お茶を濁す事になった。

 その判断が今後、どのようになるかはまだ誰にも分からない。






 新世界歴1年1月9日 日本連邦国 首都東京特別区 市ヶ谷防衛省


 この世界の日本は太平洋戦争も起こさずに戦争放棄もしてないのに 何故か監督省庁は史実と同じ防衛省なのは神のみぞ知る事(作者の都合)だが、その権限や影響力は史実とは比較にならない程に大きい。

 その辺りは国土防衛ならば内閣の判断で出動可能だったりと既に垣間見えるのだが、イラン・イラク戦争や湾岸戦争にも参戦している辺り、この世界の日本はかなり好戦的である。


 そんな日本の防衛省大会議室で行われているのは国際情勢と周辺地理の大幅な変化に対応した国防の在り方についての会議である。

 他にも経済産業省や国土交通省、外務省などが似たような変化に対応する為の会議を開いているが、防衛省に関してはその性質上、かなり異質である。


「え〜、それでは我が国を取り巻く地理及び国際情勢の大幅過ぎる変化に対応する為の国土防衛計画の見直しを含めた検討会を始めたいと思います。」


 司会進行役の職員がそう言うと、何名かの出席者達が「変わり過ぎだよ」と苦笑いする。

 だが、防衛省としては苦笑いするような余裕など無い。

 何故ならば5年に1度策定する防衛力整備計画(所謂防衛大綱)を再策定しなければならないからである。


「では、まず初めに従来の北中国やソ連を仮想敵としてアメリカなどのトロント協定加盟国と協力しながら南中国や韓国、満洲、ロシアなどを支援するという方向性を今後も続けるか否かですが、どう思われますか?」


 中華人民共和国やソ連を仮想敵にと彼は言うが、中華民国・満洲共和国・大韓民国・ロシア共和国の各国の軍事力はそれなりにあったので日本としては軍事面では共同演習程度意外ではあまり協力していなかった。

 海南島や青島を拠点とする人民解放軍海軍艦隊が脅威になりつつあったのは事実なので海軍力や沿岸防衛能力の増強などを実施していただけだった。

 簡単に言えば国土防衛計画は国内外のプレゼンス的な物であり、実際にはかなりズレていたのが実際のところである。


「大陸と離れたとは言え無関係で居られる距離では無いので、防衛計画に則った方向性は必要でしょう?」

「とは言え新たな国家も現れている事だし、海上戦力は北中国以上だ。優先順位は下げる必要もあるだろう。」

「イギリスからはトロント協定を抜けて周辺地域での集団安全保障体制を構築しようというお誘いも来てるし、大陸を主眼に置くのはもう必要無いだろう。」


 色々と意見が出てくるが、ある程度共通しているのは従来の計画より優先してやる計画が有るという事だった。

 と言うよりも判明している周辺情勢が少な過ぎて判断が付かないというのもある。


「だがなぁ、我が国の西北にイギリス、東北にスカンディナビア、南東にスフィアナ、その南にスイレンと、これまでの国防計画が根本から覆されたなぁ。」


 そう言いながら出席者の1人は見ていた地図を目の前の机に放り投げた。

 そもそも、その国の小銃1つ取ってもその国の国防情勢が現れるほど装備というのは情勢の影響を受けやすい。

 陸軍国家の兵器が陸軍国家に、海軍国家の兵器が海軍国家に輸出され易いのもそう言った事が影響している。


 ちなみに今出てきたスイレンとはスイレン王国の事で、スフィアナの南に発見された新国家である。

 どうやらスフィアナと同じ世界で親交もあるそうなので、現在スフィアナに仲介してもらい交渉中である。


「と言っても島国である事は変わらないのでそこまで大きな変更は必要無いのでは?」

「と言ってもアメリカの影響力が下がるのは必須だ。戦闘機定数などの増加も必要だろう。」

「とは言え空軍関連でもやれる事はFSXの開発促進と既存の『F-2』『F-3』の近代化改修や『F-15』のEX化くらいじゃ無いのか?」


 空軍の近代化改修は必要だが、予算は有限である。

 現代の戦闘機などアップグレードで同じ機体をもう1機購入出来る程の費用が必要になる事も多い。

 史実空自の『F-15』JSI化計画が凍結しているのも高すぎる改修費用が原因である。


 そもそも、この世界の日本は史実と比べて樺太や千島列島、台湾まで領有しているのだ。

 保有している戦闘機の数も史実と比較してかなり多い。


「はぁ、空軍だけでそれだけの量だ。各個で話し合えば良い。今は我が国の国防戦略を継続するか否かだ。」

「そうは言っても情報が少な過ぎやしませんか?この地図も範囲的には地球世界の太平洋の半分も無いでしょう?」

「その辺りに関しては情報本部が明日更なる情報を出すそうだ。今はわかってる範囲だけで構わないそうだ。」


 日本が有するシギント機関である情報本部はエシュロンにも加盟しているようにかなりの能力である。

 諜報活動と言えばヒューミントのイメージがあるが、人と人が接するヒューミント活動より通信などを傍受するシギントの方が今は非常にやりやすい。

 最も、その通信を傍受したり情報を集める衛星を全て喪失しているので今は空軍の保有する情報収集機などを使うしか無いのだが、いかんせん数が少ないのが問題だった。


「海軍や陸軍の方でも変更があるだろうが、コレ予算足りるか?」

「非常事なんである程度はなんとかなるでしょう。」


 その後加熱していく議論を見守る防衛大臣が心配になっていくが、統合参謀本部長が安心させていく。

 ただ、当初は国家最大の非常事態と捉えていた異世界転移も1週間ほど経って、中華人民共和国との衝突を除けば国土の位置が少し東にずれ新しい国家が加わった程度で、緊張感も薄れていた。


 今議論している彼等の要求を最大の敵(財務省)が認めるかどうかはまだ誰にも分からない。






 新世界歴1年1月9日 アメリカ合衆国フロリダ州南部 ホームステッド郊外


 数日前までは善戦していた合衆国軍も敵の大攻勢により徐々に戦線を後退、マイアミ、ウェスト・パーム・ビーチ、フォート・マイヤーズなどの都市を敵であるレムリアに明け渡していた。

 これらの都市は日本だと名古屋や福岡レベルの大都市なので、当然の事ながら避難が間に合わなかった(従わなかった)住民が捕らえられていた。

 それでも多少の事故は有りながらも3分の2程度の人口が1週間程度で避難出来たのだから相当な物である。


 そんな占領下にあるホームステッド郊外のとある施設へ向かう一本道であるパーム・ドライブを1台の車輌が走行していた。


「ふむ、先程からチラチラと見えるのは検問所か?」

「はい少佐。ただ、建物の規模からしてかなり小さいので軍事基地では無い事は確かです。」

「・・・なら発電所などのインフラ施設という事か。」


 装甲車の中で少佐と呼ばれた男は運転手と暇潰しに話していた。

 前線から100km程度しか離れてない場所の会話とは思えない程呑気だが、一応制空権は膨大な犠牲を出しながらも確保しているので、この場所がいきなり攻撃される事はない筈である。


 そして検問所らしき所を素通りして暫く走ると上空に多数の鉄塔に支えられた何本ものワイヤーらしき物が見えてきた。


「あれは送電線か?ならここは発電所か・・・」

「はい。ですが我々の知る発電所とはかなり違いますので今回お呼びしました。」

「こんな海辺なら火力発電所だと思うんだがなぁ。」


 そうこう話している間に発電所の正面入り口に到着した。

 様々な警告マークや標識でこの場所が安全な場所で無いのは誰でも推測出来る事だが、その理由を調べに来たのが彼等なのでその警告は意味を成していなかった。


「ほぅ、どうやらスフィアナ語で書かれてるようだが、我が国でスフィアナ語を分かる人は少ないからなぁ。」

「はい。中にあった資料も全てスフィアナ語で書かれており、現在専門家を呼んでますがまだ暫く時間がかかりそうです。」


『!!DANGER!!』と書かれた看板を見ながらそんな話をする少佐のその部下。

 どうやら彼等の世界では英語であるスフィアナ語は広く知られた言語では無いらしい。


「しかし発電所の周りにこんだけの水路を張り巡らせているという事は何かを冷却しているのか?」

「さぁ?」


 発電所の周りを地下も含めて囲んでいる水路を見ながら少佐は正確な理由を言い当てるが、火力発電所も冷却水は必要なので答えにはならない。

 ちなみに現在、この発電所は停止中なので水量は普段と比べてもだいぶ少ない。


「しかしこの大きな筒状の建物はタンク・・・いや、コンクリート製だから何かの炉か?」

「タンクにしては2つしか有りませんし、建物から沢山のパイプが伸びているのも不自然ですね。あとこの水路は地下で恐らくタンクに繋がっていると思われます。」

「地下でタンクに?」


 その説明を聞いた少佐はある仮説が頭に思い浮かんだ。

 しかし、それは未来の発電方法と話していた技官は言っており、我が国の科学技術では少なくとも後10年は掛かるとも言っていたと、少佐は思い出した。


「まさか・・・原子力発電?」

「原子力発電?なんですかそれ?」

「ある特殊な鉱物を用いて発電する方法だ。我が国では研究はされているものの、まだ実用化には至っていない。もしコレが原子力発電所ならば素晴らしい成果だぞ!!」


 ここで彼が「誰も管理して無いとかヤバくね?離れた方がいいんじゃね?」という考えに至らないのは彼がヤバい奴なのでは無く、単純に原子力という物の危険性を理解してないからこそである。

 そもそも危険性を理解しているのが100人程度しかいないので、原子力発電という考えに至った彼はこの国ではかなり少数派でもある。

 最も、それはなんの慰めにもならないのだが。


「少佐!厳重に封鎖されていた扉が開きました。恐らくこの発電所のコントロールルームかと思われます!」

「よしっ!直ぐに行くぞ。あと本国にも伝えて技術者寄越させろ!」


 そう言って少佐はウキウキ気分で発電所内へと走り去って行った。

 彼等が入って行った建物の看板には英語でこう書かれていた。

『Turkey Point Nuclear Generating Station(ターキーポイント原子力発電所)』と。







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― 新着の感想 ―
[一言] どうやら、レムリア帝国はかなり傲慢な国のようですね。
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