苦手(だった)なあの子と
私は図書委員をやらされている。
というのは、何か委員会に入るか部活に入るかをしないと
この学校には居れないという謎の決まりがあるから。
図書委員は冷房暖房がついてる快適な部屋で、特に
忙しくすることもなさそうやったし、サボっても迷惑
かからなさそうやなーと思って。
なのに、さすがに1回も行ってないことがバレたのか、
これ以上サボったら退学という脅しを担任から受け、
渋々図書室にやってきた。
もう一人おるって言うてたし、気楽やといいっ・・・・
「清水さん、5分遅刻ですよ」
げっ、何でよりにもよって堅物変人と・・・・
「チャイム鳴る前やからギリギリセーフじゃない?」
「そういう気の緩みが今回のこともっ・・・・」
「あーはいはい。何をやればよろしいでしょーか」
彼女は同じクラスの谷口まどかさん。
いつも隅っこで大人しく本を読んでいたり、勉強をして
いたりと、属にいう優等生タイプ。
何考えてるか分からんし、さっきみたいに説教垂れて
くるし、苦手というか嫌なタイプ。
でも、美人なのは美人なので、クールビューティーだと
密かにファンクラブがあったりするとかしないとか。
「現時点で誰も本を借りに来たりしていませんので、
整理整頓をいたしましょうか。適当に読んで、
適当に目につくところに直す困った人たちが結構
いらっしゃるんですよね」
「片づけかー」
「あいうえお順に追っていったら、同じ作家さんが
ありますので、そこにお願いしますね」
「はーい」
また説教臭く指示されるのもめんどくさいから、
とりあえず言うこと聞いておこう。
・・・・なーんて作業を始めて十数分。
たまに確認のため、こっちをチラ見してきてるようには
思うけど、特にやいやい言われることもなく、なんか
拍子抜け。構えすぎたか?
「何か分からないところありました?」
「いや、もっと細かく指示飛んでくるんかとおもて」
「大体あいうえお順になっていればそこまで細かい
ことは言いませんよ。どうせまた皆さん読まれますしね。
さて、少し休憩しましょうか。もうすぐ忙しくなる
時間帯ですし」
そう言って、飲食可能スペースに移り、2人分の紅茶を
用意してくれた。
「あ、ありがとう。なぁ、質問やねんけど、谷口さんって
なんで図書委員やってるん?」
「なんで・・・・本が好きだからですかね?特にやることも
多くなく、快適な空間で本に囲まれながら、その大好きな
本を読む・・・・素晴らしいことではないですか?」
「なんか意外」
「え?」
「この学校を良くするためにわたくしは生徒会長一本を
志します!皆さん!手と手を取り合って、さぁ!
・・・・的なタイプやと思ってた」
「まぁ、良くなればいいなとは思いますけれど。別に
自分の手で切り開いていきたいわけではないですし、
楽出来るなら徹底的に楽したいではありませんか」
なんか話せば話すほど、谷口さんの意外性というか、
私の、私たちの固まったイメージが崩れていく。
「変わっています、か?やはり私は」
「え、いや、まあ・・・・変わってるというか意外なだけで」
「どうして、特に恋愛に浮かれてもなく、静かに本を読んだり、
騒いだりしていないと変人だというレッテルを貼られて
しまうのでしょうか。好きなことをしているという点では
相違ないと思うんですけどね」
「恋愛してないの?」
「ほら、またそうやって見下して。い、ま、は、していないん
です。私だってそれなりに好きな人はいましたよ。実り
ませんでしたけど」
「変わってるって言われてるの、結構気にしてる感じ?」
「気にしてるといいますか、腑に落ちないといいますか」
「そういう敬語口調なところも関係してるんじゃない?」
「んー、もうこれは染みついたものなんですよね。人と
話をする時は常にこういう口調でありなさい、と」
「そう、なんや」
「むしろ変わっているのは、そちらサイドだと思うんですよ。
同じような顔をして、同じような趣味を持って、同じような
ものを飲み食いして・・・・まるでそうでもしないと生きて
いけないかのような感じで」
「まぁ、ハブられるってうちらみたいな年頃って死を
意味するようなもんではあるやんか」
「はぁ・・・・」
「谷口さんには分からへんっか」
「あ、またそうやってっ」
そう言って立ち上がった時、チラホラと生徒たちが入室
してきだしたので、谷口さんはちょっと不完全燃焼な顔で
言葉を飲み込んで、図書委員の椅子に移動した。
「・・・・では、お仕事しましょうか」
「ははっ、変な顔のままやで」
「いつもこんな顔です」
そうは言うけど、まだなんか不服そう。
それが何か妙に可愛らしくて。
「私、谷口さんが居る時は図書委員来るようにするわ。どうせ
またサボったらうるさいやろし」
「監視役ということですね」
「ってよりも友達になれへんかな?と思って」
「え?友達?私たちが?」
「そう。やっぱ人の噂ってアテにならんよなーって今日話してて
思ったわ。もっとウザイタイプのインキャラなんやと思ってたけど、
話してみたら意外に楽しかったし。あれやな、それなりにただ
真面目な人間なんやな、谷口さんは」
「所々、すごい悪口が挟まれているのは気のせいでしょうかね?」
「え?気のせいやろ」
「まぁ、たまに・・・・5回に1回くらいはサボっても先生に話合わせて
あげますよ」
「え?ほんま?」
「友達、なのでしょ?」
当たり前、というように真顔でこちらを見てくる。
「ありがとう。でも、なるべく頑張って来るからまた美味しい
紅茶入れてな」
「清水さんに合う茶葉、用意しておきますね」
「天音」
「え?」
「天音って呼んでな。私もまどかって呼ぶから」
「はい、天音さん」
そう言って笑う彼女は、私もファンクラブに入りたくなるくらい
美しかった。