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第1話 嘘つき天使


「クロ、君は天使失格です」


 縄でぐるぐる巻きにされ、身動きひとつ出来ない少年を見るや否や、男はにこやかに笑って、そう言った。


 ここは、天上界──


 地上からはなれた、はるか上空に位置するその場所は、人間たちが住む『人間界』とは少し違う次元に存在していた。


 地上と天空の狭間はざま──雲の上にはりめぐらされた結界をとおり抜け、人々が"天界てんかい"と呼ぶその場所には、地上からは決して見ることが出来ない島々が浮かんでいる。


 天空に浮かぶ島。

 目には見えない幻の国。


 小鳥がさえずる緑|豊かなその空間は、まさに絵に書いたような楽園だった。


 澄んだ空気と綺麗な水。木々や花々がそよそよと風にゆれれば、花の香りが一面に広がった。


 まさに、見る者を癒す美しい光景。

 

 そして、その世界こそが、"天使"たちが暮らす、天上界てんじょうかいだ。



「オレのどこが、天使失格なんだよ!!」


 だが、そんな美しく穏やかな空間に、あまりにも場違いな少年がいた。


 少年の名は、クロ。


 人間で言うところの14~5歳の姿をしたその少年は、天使には珍しい”黒い髪”をした男の子だった。


 瞳の色は血のように赤く、顔立ちは綺麗だが、その見た目は、どちらかと言えば"悪魔"に近い。


 だが、背中からはその翼だけは、ほかのどの天使よりも白く美しく、それだけが唯一、クロを"天使"だと決定づける証明のようなものになっていた。


「離せよ! オレが、いったい何したっていうんだよ!?」


 さんざん逃げまわったあげく、まんまとつかまったクロは、地べたに押さえられたまま大声をあげた。


 今にも噛みつかんばかりに声を張り上げれば、木の上で休んでいた鳥たちが、慌てて天空へと飛びたつ。


 すると、今にも噛みつかんばかりのクロに、目の前の男は呆れたように笑う。


「やれやれ、自覚なしとは困りましたね。天使をだまし傷つけ、他人をおとしいれることに、なんのためらいもいだかない”極悪非道な出来損ない天使”。君のことは、天界でもそこそこ有名ですよ?」


「ッ!?」


 極悪非道な出来損ない!?

 その言葉に、クロはピクリと眉を引くつかせた。


 確かに自分は、あまり出来がよいとは言えない。見た目も天使とは言い難いし、大人に対してもすごく反抗的だ!


 だが、まさか自分の知らないところで、そんな最悪な異名をつけられているなんて……


「ぅ、う……ひどぃ……っ」


 すると、先ほどとは一変。クロはじわりと目に涙を浮かべた。


 まだ青年になりきらない、あどけない表情がくしゃりとくずれるて『どうして、そんなひどいこと言うの?』とばかりに、ひくひくと泣き始めたクロ。


「そうそう。それです、君の悪いところ。言っておきますが、私に君の『嘘』は一切通じませんからね」


「……ちっ」


 だが、男は一切表情を変えずそう言って、その瞬間、流れていたクロの涙は一瞬にして引っ込んだ。


 男の言った通り、今のは全部、嘘。

 つまり、()()()だ。


 クロにとって、このくらいの演技は朝飯前。この可愛らしい顔で、しおらしく涙を流せば、たいていの心優しい天使なら見逃してくれるのだが


「クロ、君はこれまでに、たくさんの嘘をついてきました。それも他人を傷つける嘘を。さすがにこれは、天使として"致命的"だと思いましてね」


「……」


 だが、どうやら、この男は心優しくないのか、その嘘泣きが一切通じなかった。


 しかも『たくさんの嘘をついてきた』ということは、捕らえられた理由は嘘をつき、天使をだましたのが原因らしい。


 クロは天使でありながら、嘘をつくのが大好きだった。


 いや、つくのが好きというよりは、 だまされたあとの相手の顔を見るのが好きなのだ。


 だまされていると知らずに、相手が自分に心を許してくれるのが楽しくて仕方なかった。


 そして、バレるかバレないかのギリギリのスリルを味わい、それが嘘だとあかした時のなんとも言えない相手の表情。


 その爽快感と達成感は、まさにクセになるといってもよいほどだ!


 だが、捕まったということは、このあとこっぴどく叱られるのかもしれない。


「はぁ……だから、なんだよ。騙される方が悪いんだろ」


 男の言葉に、見事ふんぞり返ったクロは、もはや反抗期の子供のようだった。


 すると、さすがにその態度には、男も我慢の限界に達したらしい。地べたに胡座あぐらをかいて、ふてくされたクロの前に、にっこりと笑顔を浮かべて歩み寄ると、クロのその顔をグイッとつかみ上げた。


「いいかげんにしなさい」


「痛ッ!?」


「君、この"顔"をいいことに、また女の子だましたでしょう。全く、まだ年端もいかない弱小天使だというのに、顔だけいいばかりに末恐ろしい子ですね。タチが悪すぎますよ」


「うるせー! オレはアンタのその嫌味ったらしい言葉の方が、ずっとタチが悪いと思うぜ! この毒舌天使!!」


 無理やり顔をあげさせられたせいか、首がゴキリと変な音をたてた。


 ちなみにこの毒舌天使。ではなく、目の前にたたずむ美しい男の名は──サリエル。


 深いアメジスト色の瞳と、天使と呼ぶにふさわしい柔かな笑み。


 足首まで伸びた長い銀色の髪は、後ろで三つ編み状に編み込まれていて、その背に大きな翼を持つ姿は、まさに女神にも劣らない。


 だが、この男の”見た目”にだまされてはいけない。


 七大天使の一人でもあり、天界において「審判の議長」を務めるこの男は、神にそむいた天使を裁き、その処遇を決める権限を有している。


 別名──天界の処刑人!!


 つまり『サリエルさんに逆らったら、堕天させられて、魔界におとされちゃうよ!』と、天使たちが口々に言うぼど、恐ろしすぎる男なのだ。


「つーか天使のくせに心の狭すぎるんじゃねーの。オレは、ただ嘘ついただけじゃん。別に天使、殺したわけじゃあるまいし……」


「……殺してない……ですか」


 すると、ぶつくさとそう言ったクロを見て、サリエルは悲しそうに目を細めた。


「やはり君は何もわかっていない。嘘には、さまざまな”種類”があります。そして、君のついたその嘘のなかには、人を殺せるものだってふくまれていました 」


「は? なに言ってんだ?」


「というわけで、君に罰をあたえます!」


「はぁ!?」


 突然飛び出したその言葉には、さすがのクロも驚いた。


 罰とは、つまり堕天させて、天界から追い出すということだろう。


 堕天とは、いうなれば”堕天使”なされてしまうということ。天使の象徴ともいえる白い翼を真っ黒に染められ、悪魔たちが住む”魔界まかい”に落とされてしまうらしい。


 だが、まさか嘘をついただけで、堕天使の烙印を押されてしまうなんて……


「……はぁ」


 クロは、ふてくされたまま深くため息をつくと、再びサリエルを見上げた。


 堕天させたいと言うのならすればいい。


 どうせ、どこに行こうが、自分の居場所なんて、どこにも、ないのだから──…


「いいですかクロ。君は……」

 

「え?」


 だが、その瞬間、サリエルは、なぜかクロの前にスッと手をかざしてきた。大きな手の平が目の前まで来て、その手を中心に複雑な文字がならんだ"魔法陣"が映しだされる。


 クロが大きく目を見開くと、サリエルは、再びにこりと笑って


「君はもう、()()()()()()()()()()()()()()





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