カップ麺を作るより早く読めてしまう超短編小説《囚われの身》
その日の電車は憂鬱だった。
片手でつり革につかまり揺れる電車に体を預けながら、もう片方の手の行き場を探した。
ポッケに入れようと、真下におろしていようと
この空虚感を埋めることはできない。
仕方なく僕は顔を上げ窓の外を見た
市街地から川、川から森、森から市街地へとその姿を変えていく
その時だった、バタンと何かが落ちる音がした。
僕は慌てて後ろを振り向く、どうやら女性が携帯を落としたようだ。
僕は再び窓の外に目を向けようとしたが、ある奇妙なことに気づいた、それは僕以外の誰もが音のした方へ注意を向けていなかったのだ。
右を見ても左を見ても、人々は同じ姿勢のまま
微動だにせず、手に持つ1つの端末に視界を奪われていた、いや正確には囚われていた。
僕は再び車窓に目を戻した。
いつからだろう。この景色を見れなくなったのは
いつからだろうか。画面の世界へ囚われてしまったのは
今考えることも、明日になればきっと僕も囚われの1人になることだろう。