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手のひら宇宙

作者: 鬼生姜

「やったぞ! ついに完成したぞ!」


 博士の手の平の上には、小さなカプセルに入った宇宙空間があった。

 長い歳月をかけた研究が遂に実を結んだ。苦労の果てに、老人は小規模の宇宙を人間の手で完成させたのだ。


 この宇宙は猛スピードで成長し、そしてやがて消える。

 まさに宇宙の誕生から終わりまでを超小規模で観察することができるのだ。

 そしてその細部まで観察するための顕微鏡も、博士は既に手に入れていた。


「おお、凄い! こうなっていたのか! 誕生直後の宇宙をこの目で見ることができるとは!」


 これは一瞬たりとも目を離すことができない。

 なにせ、宇宙誕生からの138億年を記録したビデオを猛スピードで再生しているようなものだ。

 目に映る全て光景が興味深かった。


 博士は数時間ほど宇宙を眺めていたが、やがて何かを思い出したように携帯電話を取り出した。


「おっと、こうしてはいられない。すぐに皆にも連絡しなければ」


 そう言って、博士は顕微鏡を覗きながら研究者仲間に電話をかけた。


「もしもし? 私だ、聞いてくれ! 完成したんだよ! 遂に人の手で宇宙を作り出すことに成功したんだ! ……おおっ、超新星爆発だ! 最古の星が生まれたぞー!」




 博士の研究はもちろん評価され、しばらくはパーティーや式典への招待、メディアの取材依頼が殺到した。

 なるべく宇宙の観察に時間を割きたい博士だったが、流石に全て断るわけにもいかない。仕方なくそれらにも応じた。

 ようやく一息つくことができたのは、数日後のことだった。


「さて、私の宇宙はどうなっただろうか?」


 久しぶりに顕微鏡を覗き込む。

 数日放置していた結果、なんといつの間にか地球のような青い惑星と、そこに高度な文明を築く二足歩行の人間に良く似た生命体が生まれていた。


「おお、進化のスピードとは恐ろしいものだな。どれどれ、どんな風になっているか少し見てみるか」


 顕微鏡をズームさせ、ピントを合わせる。

 街の様子を眺めていた博士は、とある建物の窓から見える光景を見て動きを止めた。



 そこでは、一人の老人が声を上げて喜んでいた。



「やったぞ! ついに完成したぞ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ショートショートとして完成されたテンポの良さがあり、すんなり読めました。 [一言] 非常に良く出来たお話です。私は違うオチを想像しながら読んでいたため、最後のシーンで思わず「そっちか!」と…
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