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可愛い娘にはギャグをさせろ  作者: 雪村宗夫
15/17

料理

「春菜さん料理とか出来るの?つかおでん作るの難しく無い?」

ボイスが去った後、厨房を探り調味料の数々を確認する春菜を見ながら相良は聞いた。

「逆よ逆!おでんだから良いのよ相良くん。おでんのタネは相良くんに出してもらって、

後は煮るだけ。超簡単なのよおでん」

春菜の言葉に、具材はアイテムボックスから俺が出す訳ね、と呆れる相良。

(どっかのスーパーでおでんの具が消えるのか。問題になるかもな)

と相良は危惧するが、コンビニおでんの鍋ごと出せと言われるよりまマシだと直ぐに思い直す。

「えと、おでんの具材って大根と鶏肉とこんにゃくと牛すじと卵と練り物とはんぺんって所かな?」

「え!?鶏肉なんて入れるの!?おでんに鶏肉は入れないよ!?」

「あれ?俺の家では鶏肉入れてたけどな〜」

「それおでんじゃなくて汁だくな筑前煮じゃないの?」

「筑前煮って。何それ、筑前のかみとか大名っぽいんだけど」

「筑前煮知らない?」

「知らないよ、そんな大岡越前みたいな煮物」

「え?相良くん大岡越前派?私は遠山の金さん派なんだけど」

「いやどうでも良いよ、北町奉行派とか南町奉行派とか。そうじゃなくて、いやもう良いや。

それより思い出した。春菜さん、これから俺の事はタカハシって呼んでくれない?俺も春菜さんの事はマリコデスって呼ぶから」

「え?何で?相良くんじゃダメなの?それに私マリコデスじゃないよ?」

「あー、ほら。この世界の人の恨み買った時に名前から辿られると怖くて。んで春菜さんの名前もそのままだと、そこから同級生で辿られちゃうでしょ?だからだよ」

「相良くん、意外と気持ちがちっちゃいね。うんわかったよ」

春菜の言葉に少しだけ傷つきつつも相良は話を続けた。

「こう言うのは慣れが必要だからねマリコデス。オーケー?」

「マリコデスって!あー、まー良いよタカハシ」

「ナイス!良いねえー!マリコデス!」

「え?馬鹿にしてるの?相良くん」

「いや全然馬鹿にしてないから!春菜さんちょっと待ってよ!本当危険なんだって!

魔族とかの恨みとか買いたくないって!ホラ今日の魔族、名前忘れたけど。

アイツが日本に復讐に来た時、防波堤になれるのは自衛隊か警察だけだよ?でも不意打ちだと被害出るって。ここは銃火器を隠し持つタカハシ組に時間稼ぎしてもらわないとなんだから!」

「そか!わかったえよタカハシ!」

「おけ!ありがとうマリコデス!」

2人の会話の間にもマリコデスの調理は進む。

「へー、ダイコンって一回茹でるんだ、知らなかった」

「下茹でよ!下茹で!下茹でする事でイキってた大根が素直になるの!」

「大根ってイキってたんだ....」

「辛い大根とかあるでしょ?あれイキってるから」

「そうだったんだ、知らなかったよ。あー、ちょっと部屋の確認してくるよ。風呂とかあるのかな?」

「お風呂か、確かにお風呂に入らないで布団に入るのは抵抗あるよね」

「んじゃちょっと行って来るよ」

調理場から出る偽名のタカハシを押し通す決心をしたタカハシ。そして調理を続ける偽名を受け入れたマリコデス。

タカハシは屋敷を探索、自身とマリコデスの寝室に丁度良い部屋を決め、更に一階に大浴場も発見。

大浴場では魔具による温水の出し方に四苦八苦しつつも湯を張る事に成功。

マリコデスに気を使う事も無く何も考えず一番風呂を楽しむ。

「うわぁ、泡風呂かよ〜ハリウッド映画でしか見た事無いよー。なんだっけかなジャクジーだっけかなー?」

全身を泡風呂に包まれ、恍惚の表情で呟くタカハシ。

1時間後、風呂上がりのホカホカ気分で調理場へ戻るタカハシ。

タカハシの目にマリコデスの手によって完成した見事なおでんが飛び込んで来る。

「おお!凄い!ナイスおでん!ナイスおでんですよマリコデスさん!」

「あ、タカハシ。うーん完成はしたんだけどね、焦がしちゃった」

タカハシは呼び捨てなんだと思いつつ、おでんの鍋を覗き込むタカハシ。何処も焦げている様には見えない。

「え?全然焦げてないよマリコデス!凄い美味しそうだよマリコデス!」

自身が呼び捨てされた事に拘り、2回呼び捨てにするタカハシだったが、マリコデスは全く気が付かない。

「うーん、焦げた味するんだよねー」

「どれ?ちょっと味見」

おでんの大根を箸で取り口に入れるタカハシ。あまりの熱さに口を震わせ「ハフハフ」と連呼する。

「タカハシ、そう言うの要らないから」

マリコデスの指摘に、そんなつもりは無かったと思いつつも、タカハシの口内には熱さとは別の衝撃が走る。

「ウゲっ!?何この味!?焦げ??」

タカハシの口内に広がる味は正に『焦げ』。しかし見た目にはまるで焦げは無い。

「え!?何これ!?おでんじゃないよ!?これ何入れた!?」

「だしパックで味付けしたんだけど....」

鍋の底に浮かぶ粉パック。

タカハシの脳裏に浮かんだのは自身用にと用意していた麦茶のパックであった。

「麦茶だよ!!これ麦茶パックだよ!!麦茶でおでんの具材茹でてるだけだよ!!」

「え!?麦茶!?またまた〜」

おでんの汁をスプーンですくい味見するマリコデス。

「麦茶だ」

「麦茶だよ!!普通に麦茶だよ!麦茶はぶっちゃけ焦げた味だよ!!麦茶おでん不味いよ!!」

「うーん。失敗失敗。失敗選手権!!ヒャッホーウ!!」

一言失敗の度に右手で頭をかき、失敗選手権で両手を上へ伸ばし、ヒャッホーウで一気に両手を横へと広げスキップをするマリコデスを見ながらタカハシは思った。それはギャグ以外の何物でも無いぞと。

そしてタカハシは思った、マリコデスは証拠隠滅を図っている、このおでんを存在しなかった物にしようとしていると。

タカハシの数々の想いは一言に集約され、そして昇華する。

「いや待って」

それがその日タカハシが壁に吹き飛ばされ意識を失う前に残した最後の言葉であった。




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