1. うちのペット
私は、宮園ナオ、生まれて20年と120ヶ月が経とうとしていますが未だに良い出会いも無く、これと言った目的も無く、普通のOLをして過ごしています。
子供の頃は、「大人は、お金イッパイあって良いよね~」とか言っていましたが仕事に慣れて来た頃にその時大人達が言っていた「生きる為に仕事をするのでは無く仕事する為に生きている」とか「もうちょっと勉強していれば」とかしみじみ分かる様になってきました。
自営の飲食店や雑貨屋、匠的な仕事も面白そうでやってみようかと思う時もありましたが現実は、そんな優しいモノではありません。
成功している人は、ほんの一握り、実際は、給金も低いし、親の反対等もなんとかしなければいけないと言う現実にOLと言う無難な道に進んでしまいました。
今日は、仕事終わりにコンビニによって、ショートケーキを買ってきました。
20歳と120ヶ月達成のお祝いを一人で迎える為です。
「……美味しい。」
ほろりと来てしまいます。
お祝いだからでしょうか?
私と同じ境遇の人は、分かると思いますが仕事でいろいろあると精神的な感覚が麻痺して来たり、自分が自分でない様な感覚になってきます。
何気なく付けているTVを見ていると最近は、一人暮らしの方がペットを飼う事が流行っていると紹介されていました。
コメンテーターの人が「寂しさから来るモノでしょうか」とか言っていたので私も納得してしまいます。
流れに乗って、私もペットを飼うべきでしょうか?
丁度、明日は、お休みなのでペットショップへ行ってみようと思いました。
その時は、あんな事になるなんて夢にも思っていませんでした……。
・・・・・・
「お好きな動物は?」
「……とくには。」
「お客様は、戸建てですか? 賃貸ですか?」
「……アパートです。」
「こちらのマンチカンやパピオンはいかがでしょうか?」
「……可愛いですね。」
私は、グイグイ接客されていた。
フォトショ加工された様な営業スマイル、星入りのカラーコンタクトでもしているかの様なキラキラした目。
ペットショップでここまで接客して来る人は、なかなかいないでしょう。
止まる事の無い接客に適当に帰しながら、ペット達を順番に見て行きます。
私のHPガンガン削られて行きます。
ゲーム等で呪いをかけられても冒険している主人公達は、こんな気分だったのでしょうか?
犬猫も良いけどフクロウとかの鳥系も可愛いけど飼い方がサッパリ分からないし。
熱帯魚なんかも意外と環境維持が大変って聞くから。
ハムスターとかなら散歩しなくても良いし楽に癒されるかもしれない。
常にくっ付いて話しかけてくる店員さんと一緒に小動物コーナーへと向かいます。
そこで私は、一匹の兎に目が止まりました。
「この兎、何というか気品があってかわいいですね。」
そう言って、店員さんの方へ振り返ると店員さんは、あからさまに顔を引きつらせていました。
……あれ~?
「お、お客様、アパートでしたらこちらのホトと言うタイプも小さくて可愛くておすすめですよ?」
「そうですね、でもこの子が何故か気になります。」
「あ、あちらのアンゴラウサギも今週入荷したばかりですよ!」
「はい、でもこの子を見せてもらって良いですか?」
「……後悔しないでくださいね?」
「はぃ?」
そして何処か決意に溢れた目で店員さんは、ケースから毛並みが美しい兎を抱き抱えます。
「アナタが私を所望したのね?」
「……は?」
ちょっと待って、今この兎話しましたよ!?
気のせいかな?
「私を選ぶなんてなかなかの目を持っている様ね、アナタで良いわ。」
店員さんに抱かれた状態でふてぶてしく言う兎。
「お、お客様、大変申し上げ難いのですが気をしっかり持って聞いてください。 この子は、人語を理解し、話す事が出来ます。 これも何かの縁です、大切に育ててあげてください!」
※本来、兎は、声帯がありません。
頭を下げ両手で兎を突き出してくる店員さん。
突き出されている兎は、脇を抱えられ、プラ~ンとなってこっちを凝視している。
※本来、兎は、足が地から離れると不安になります。
「へ?」
プロポーズの花束風に出されても簡単には受け取る分けにはいきません。
「……少し、考えさせてもらっても良いですか?」
少し、呆然としていた私は、我を取り戻し、考えると告げましたが少し手遅れでした。
店員さんの手には、兎の姿は、すでに無かったのです。
「何をしているの早くレジへ向かうわよ?」
声のする方へと振り返るとゲージを持った兎がレジへと足を向け私に呼びかけていました。
「まだ、飼うって決めた訳じゃって、ちょっと待って! それ、一番高いゲージ!!」
私の叫びもむなしく、兎は、レジへとかけて行きます。
私も必死に追いかける事になりました。