女の子二人
そばにいた可愛い男の子はついさっき可愛い女の子になった。残念だな、もう蓮くんとは会えなくて。と私は思ってた。なぜだろう。蓮くんだって、どれだけ可愛くても男の子だった。だから私は苦手なはず。それなのにもう彼のことを懐かしく想うなんて信じられないな。
あの、わけのわからないことしかいえない人はもういない。
ポジティブな考えをしよう。代わりに新しい友達ができた。ななちゃんって言う。
ななちゃんは蓮くんみたいに可愛くて小さくて柔らかいけど、蓮くんと違って男の子ではなく、女の子で。
それはとても大きな違いだった。
だからキスした。何度も何度も。女の子のななちゃんを味わいたかった。抱きしめたままキスした。笑ったままキスした。泣いたままキスした。どうしても一人でいたかった。なのにキスが終わるときにいつもいつも二人にもどった。
なぜだろう。なぜ一人ではいられないだろう。
そんな当たり前の悩みをななちゃんに聞くと、
「一人になるには、大きな前提がある」と彼女が私に優しい声で伝えた。
「なんだろうね、前提って」と自然に聞いてみると、彼女は答えなかった。
「ななちゃんどうしたの?」
心配を示しても沈黙のまま。目も閉じていた。だけどそのうちに確かに聞こえてきた、彼女のその発言。
「殺し合わなくてはいけない、そういう前提だよ」とゆっくりと彼女は断言した。
私はわからないまま、説明が欲しかった。
「だって唯ちゃんも、自分の趣味とか、好きなこととかあるんだね。そういうの私とのは違うよ。」
「え、なんでそんなことにこだわるの?」
「いや、重要だよ。そのままにしたら一人にはなれない、ぜったいに。」
「じゃあ私、一人になるになどうすればいいの?」
「私が唯ちゃんを殺して、唯ちゃんが私を殺して、どっちでもいけるとおもうよ」
なんとか辻褄があってきた。
「なるほどね、じゃあどっちのほうがいいと思う?」
「私死にたくないから、後者のほうがまずいかな…」
「そうだね…でも私も死にたくないよ」
「じゃあ私が死にたくなる理由をみつけたら、あるいは唯ちゃんが死にたくなる理由を見つけたらいいと思うよ」
ふむ。深い話だね。
「死にたくなる理由とすれば、ななちゃんがいきなり消えたりとか、私の事無視したりとか。」
「私いつもそばにいるつもりだからむずかしいかな…」
「ん〜、じゃあ一人になるのってやめる?」
「そうだね、少なくとも今の間には」
残念だけど、二人でもいいや、かな。
「もう寝ようよ。明日月曜日でしょ。講義だってあるじゃん」
「え、サボってもいいんじゃない?」
「そんなことないよ。唯ちゃんと一緒に学校通いたい。唯ちゃんと一緒にいろいろなことしたい。この家ではできることそんなに多くないよ。だから学校一緒に行こう。いろんなことするために。」
わけがわからなかったけど、ななちゃんのを守らなきゃ、と思って頷くことしかできなかった。
「おやすみなさい、ななちゃん」
「おやすみ」
と眠りに落ちた。
ななちゃんが言ってたことについて考えてた。
ほんとうに、一人になるには相手を殺さなくてはいけないんだろうか。わたしはどうやってもななちゃんを殺さないまま一人になりたい。と思うと、たしかに難しいな。彼女のいることには一理がある。
私とななちゃんは違う。それは事実。だから一人になるにはそんな違いを破らないといけない。
それも事実だろうか。
それとも他の方法でも一人になれるのかな。
もしかしてもう一人になってるのかも。
これからは、別れるともう前のそれぞれの私と彼女へ戻らない状態。
たった一日で。たった一晩で。
たった、刹那で。一人になるなんて。
恋愛って、凄い。と私は思った。
他者の世界と交差すること。
一人ではない証。
私の勘違いなのだろうか。
ななちゃんの泣き顔に手を伸ばす。
大丈夫、私達いつも一人のまま、と呟き。
おやすみ、と目を閉じて。
彼女のすべてを受け入れた。