夢の叶え方
午前4時38分。ついさっき街を歩いていた。なんの予定もなく、ただ家にはいたくなかった。
この家は何より心地悪い。引きこもってゲームばかりやってて恐ろしい寂しさでいっぱい。楽しくはあるけどたまには外も楽しみたいかと思って、こんな時間でも家を出た。
そんな些細な選択肢でこんなことが起こるなんて。
ベッドで寝てた少女は美しかった。
彼女の言っていることはわからなかったけど。たしかに、何かに惹かてた。
見た目だろうか。美少女ではあったがそれだけで惹かれる男だと思いたくない。
いや、俺が彼女に恋をしたのは可愛いからのではなく。
世界のどこにも居場所がないというオーラだった。
自分が助けてあげないと、そのまま死ぬだろうという恐怖。そして守りたいという気分。
いやそうじゃないだろう。自分に嘘をつくのはやめよう。彼女に恋をしたのはただ他人が必要だったからだ。
一人が苦手な俺に、彼女に遭遇。
そしていきなりキス。
かわいいって、言ってくれて。
そう、その瞬間こそが恋に落ちた瞬間だと思う。俺が彼女の世界のすべてになった刹那。俺しか考えられなかった彼女。別に美少女じゃなくても惹かれたと思う。だってこれは恋ではなく、ただの寂しさでしかない。
好きだろうと寂しいだろうと彼女のすべてがほしいという気持ちは確かだった。だがそれでよかったのだろうか。
これ以上考えたくないな、と思ってベッドに入って彼女のことだけ見つめていた。
数分が経って彼女は目覚めた。
「あ、おはようございます…?」ベッドを出ていなかった。
「まだ夜だよ。」
「え、全然寝てないじゃん」
「ごめん起こしちゃって」
「自分が勝手に目覚めたよね、蓮くんのせいじゃないよ」
いつもいつもこんなやり取り。
「あのさ…俺たちのしたこと、わかってるよね」
「うん、キスっていう」
なんて生き物。
「どしたの?」
「あのさ…なんで俺にいきなりキスしたんだよ」
「可愛い女の子だと思ってて」
「可愛い女の子に見えるの?」
「うん、ちっちゃいから、それに声がすごく優しい?」
どういうことだろう。俺はたしかに背が高いんだったんじゃない?
「声も女の子に聞こえるの?」
「集中したら男の子だとわかるけど、最初は女の子かと思った」
信じられない。
「そうか…」
「そうそう。所詮は男の子だけどな…」
「なんで男だとわかってたの?」
少しの間沈黙。
「それを聞いても…」
続けなかった。
「じゃあ唯は女の子が好きってこと」
「そんなことより、男のほうが苦手かな…」
「そうだったんか」
「別に女だと思っていいじゃん?」
「え?」
「俺のことを、女だと思って」
「やだよ、だって男の子じゃん」
明らかに混乱してた。
「女の子に見えたんじゃない?」
「そうだけど…だって蓮って名前だったんじゃない?どう考えても男の子の名前じゃん」
まあ確かに。
「じゃ女の子の名前つけてみたら?」
「確かに。それは効くかも」
変なところで納得行くな。
「なんにする?」
「蓮くんの名前でしょ?蓮くんが選びなよ」
「え、そう言われても…」
少しは考えた。
あの人のことを思い出した。
「なな、でどう?いけると思う?」
「ななちゃん…いいね!私は好き」
「本当か、じゃこれからななちゃんって呼んでね!」
「うんうん」
彼女は笑ってた。
俺も笑ってた。
時間さえ止まればいいと思った。