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さよなら平坦な日常

彼女の言うことがわからなかった。


まるで人間の言葉じゃないみたいに言っていることがわけがわからなくて話は合わなかった。


けれど心地良くて。


「なんで水飲まないの?」と聞かれたら、「喉が渇いてない」と即答。


水なんて、みんな仕方ないから精一杯頑張って飲んでるんだ。だがそれは言えなかった。


「なんで下を向いてるの?」と聞かれたら、「太陽が眩しいから目が痛いんだよ」と即答。


みんな目の痛みを隠して上を向いてるんだね。だがそれは言えなかった。


「なんで泣いてるの?」と聞かれたら、「泣いてないよ」と即答。


みんないつも泣いてるのに。おかしいなぁ。


どうやってそのような人が人間の言葉喋れるのかな。まるで言語の能力を得たAIみたいに、たしかに喋っているのは日本語ではあったが辻褄が全然合わなかった。


泣くことには理由なんてない、みんなそれを知っている。だけど彼女はそれを知らないかのように理由を訪ねて。


嘘しか言えなかった。


ナンセンスな会話の繰り返し。いつもそばにいてねと願いたいぐらい楽しかった。彼女はどうだったのだろうか。本当のこと言ってみたら、彼女の世界どうなるんだろう。あのわけのわからない世界はそのままにしたほうがいいかと思って。


たぶん本当のことを言ったら、彼女の現実を破ろうとしたら、自分の世界も崩壊するんだろう。


そういう関係だった。


彼女の名前はまだ知らない。出会ってから5分も経っていなかったから訊く機会はなかった。


「名前は?」

「そんなことより早くついてきて」

「やだよ、足疲れたし」


同い年にみえた。


「何があったの?」


優しい声だな。


「別に何もなかったよ?」

「じゃどうしてあそこに隠して寝てたの?」

「足疲れたし」


きれいな顔。


「どういうこと?」


ファーストキスこの人で最高と思った。

だからキスした。


「???!!!」

「ん〜?」


よく見たら男の子だった。


「あ、ごめん。可愛い女の子かと思ってキスしちゃった。」


彼の表情は混乱だらけで、数秒経って状況を把握していなかったらしい。ほんとう、可笑しいな人だね。


「か、可愛いと思ったの」

「うん、すごく可愛いよ!だけど女性じゃないから興味ない」

「いや待って、普通知らない人とはキスなんてしないだろ」

「そうだろうね」


頭痛を感じる。


「………………」と彼。

「大丈夫か?」

「もう一回する?」

「え、だから興味ないって」

「じゃなんでしたんだよいきなり?!」

「ごめん間違ってて」

「逆だったらどう思われると思う?」

「何が?」

「俺が、君にいきなり可愛いだけだからキスなんてしてきたらどう思われると思う?」


わけのわからない質問の繰り返し。懐かしいなぁ。


「そりゃぁ素敵だと思うよ」


数秒の間は無表情。

刹那の終わり彼は近づいてきた。


「???!!!」

「ん〜?」


キスだった。


私はただその人の世界が崩壊しないようにそれを受け入れた、何の抵抗もせず。


彼が目を開いて混乱していたような顔。止まんないのと小さな唇が音をした。まあ女の子だと思ってこれも楽しめるだろう、と私は気づいて、目を閉じて私からもう一度キスしてみた。


お互い最高だった。(彼のことはわからないけど、舌とか入れたり長い間唇を別れずにいてくれたりそっちの方からも楽しかったと思われた)。


永遠の終わりそれぞれ二人になった。


「変な人だね」とビックリな顔で彼。そりぁこっちの台詞なんだけど。「なんでそう思う?」と聞いてみたら、「いや何でもない」でもう一度唇を奪われた。


彼は女の子みたいに背が低くて声が優しくて肌が柔らかく唇も柔らかくて、だけど男の子ではあった。それだけはたしかだった。


だからこんなことをし続けてはいけなかった。彼の世界が崩壊するのであろうと、そして私の世界が崩壊するのであろうと。


「もうやめよう」、と長い間睨み合う。

「わかった」と理解したかのような彼。何も理解していないというのに。


「で、こんな場所にこんな時間で何をしていたか謎のままなんですけど。」

「別に普通に寝てただけだけど?」


意味不明な質問が戻ってきた。うん、こういうのが落ち着く。


「家ないの?」

「必要ないよ」

「どういうこと?」


これをどうやって答えたらいいか迷った。


「家というものは必要ないってこと」


彼のポーカーフェイス。


「またそこに寝るつもりなの?」

「そういうつもりだよ」

「マジかよ勘弁してくれ…」

「どういうことなの?」

「お前こそどういうことなん?さっきから言ってること全然わからないんだけど?」


てめぇ私にも限界というものがぁ。


いや落ち着こう。


「ごめん、頭回らなくて」

「あそこで寝るより俺ん家きたら?」

「え、ベッドもあるの?最高じゃん!」

「………そう」


わからない表情。


「まあついてきてね」


と彼が背中を向けて。


「蓮だよ、名前は」

「あ、私、唯っていうよ。よろしくお願いします。」

「うん」


と歩き始めた。私はただその背中を追った。たぶんあんな変な人を一人にしたら駄目なことになる。


私が守ってあげるよ、蓮。


君の世界が平坦なままであるように。


素晴らしき日常を楽しもう。


永遠に。

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