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竜の翼ははためかない7 〜竜の涙は露より重く〜  作者: 藤原水希
第二章 深化激化 〜たたかうものとまもられるもの〜
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チャプター9

〜中央通り〜



 いよいよ、ギルドの戦士たちとヘルツォークの本格的な戦いが始まった。一足に踏み込んできたヘルツォークの剣戟を、ツァイネの二本の剣が受け止める。初撃は予定通りに運んだ。

「よし、今だ! 行け〜っ!!」

 ゲートムントが号令をかけ、周囲の戦士たちが一斉に襲いかかった。

「どりゃー!!」

「うおりゃああ!!!」

「くたばれ〜!!!」

「これで、どうだーっっ!!」

 一陣で攻めかかるのは8人。あまりに大勢ではむしろお互いが邪魔になると判断して、これくらいの人数で繰り返し攻めることになった。

 しかし、その攻撃は思いもよらない手段で防がれてしまった。

「なっ!」

「どうなってやがるんだ!」

「俺たちの攻撃が、通らねぇ!」

「一旦引くぞ!」

 全員が、一様に距離を取る。

「なんだありゃあ。何が起こってやがったんだ」

「多分、魔法の力だ。俺もよくわかんねーけど、それだけは断言できる。何しろ俺たちの常識が通じない力だからな」

「そうだろうね。だけど、あそこで引いて正解だったよ」

 珍しく、ツァイネが焦りを覚えていた。先ほどの一撃、防ぎきることはできたが、予想以上に重い一撃だった。それに、武器自体の鋭さもかなりあるようで、受けた時の音が並の武器のものとは違っていた。いくら実績のある剣と言っても、どこまで耐えられるのか、自信も保証もない。

「お前がそこまで言うなんてな。そんなにか。いや、それよりも、あの障壁みてーなのをなんとかしないと、攻撃を当てることすらできねーぞ」

「そこなんだよね。今はこっちのことを舐めてるからこうして相談してるのも見逃されてるけど、普通に考えたら、そんな余裕はないんだし」

 心の底から見下すような目線でこちらを見ているが、攻めてくる気はないらしい。それはつまり、「全員まとめていつでも殺せる」という意思表示に他ならなかった。腹立たしいことだが、今までの短い時間でも、その余裕に足るだけの力は見せつけられていた。

 果たしてどうやって攻撃するべきか、攻めあぐねていると言っても過言ではない。

「じゃあ、俺が一人で行ってみる。俺は素早さには自信があるし、武器防具もみんなよりいいものを身につけてる自覚もあるから。厭味じゃなくて、生存率が高いってことは、わかるよね。だから、俺が戦ってもう少し実力を見定めてくる」

「ツァイネ、無理すんなよ。俺たちが後ろに控えてるってことだけは、忘れんな」

 自己犠牲の精神や協調性、言葉尻だけを取るならそんな価値観が前面に出ているように聴こえるが、内心では気兼ねなく戦ってみたいという思いが強かった。

 恐らく、全員が胸にくすぶらせているその思いを、さりげなく果たそうということに他ならなかった。

「なんとか、攻撃の糸口くらいは掴んでみせるよ」

 この言葉自体には、なんの嘘も含まれていなかったが。

「繰り返しになっちまうけど、無理すんなよ。無理に攻めて死んじまったら、元も子もないからな」

「ああ、わかってるよ。でも、何かあったら、次はゲートムント、お願いだよ」

 自分の「次」を託すことができるのは、やはりゲートムントしかいない。それが偽らぬ本心だった。

「じゃ、行ってくる」

 一歩前に進み出ると、道具袋から赤い宝石を取り出し、それを剣の柄にはめた。ギルドでも有名な、ツァイネの誇る一振り。城に勤める一定以上の騎士にのみ下賜される不思議な剣だ。

 赤い宝石は炎の力。失われた魔法の力を擬似的に利用するための秘伝の技術で作られているらしいが、その工房は城下にはなく、製法は一切が謎に包まれている。

 しかし、宝石をはめることで石に宿る魔法の力を刀身に宿らせるという特殊な力だけでなく、素の切れ味も鋭かった。限りある消耗品の宝石を使う機会は、ここぞという時だけでも済むようにできているのだ。

「ヘルツォークと言ったね。今度は俺が一人で戦うよ」

『ほう。今度は魔法剣の使い手か。魔王様が倒された100年前より人間どもから魔法の力が失われた聞いていたが、面白い武器だ。よかろう、相手になろう』

 あくまで余裕の態度を崩すことなく、二人は向き合った。そして次の瞬間、ツァイネが駆けた。

「たぁっ!!」

『なかなかやるな! 素早さ、攻撃の正確さ、武器の素性、どれも一級品だ。もちろん、人間の基準で考えれば、だがな。だが、その程度で我を倒そうなど笑止千万!』

 初撃を受け止めたヘルツォークはすぐさま攻撃をいなし、今度は自分が攻撃を放つ。しかし、ツァイネは顔色を変えなかった。

「さっきと同じなら、大体読めてるよ!」

 振り下ろされた剣は、ツァイネの体をわずかに逸れた。いや、ツァイネがギリギリのところで回避していた。先ほどの攻撃を受けただけで、その速度を見切っていた。

「それが本気だなんてとても思えないけど、そこまで舐められたんじゃ、俺もちょっと気に食わないよね。はぁっ!」

『な! 小賢しい真似を!』

 再びツァイネが攻撃を繰り出す。今度は一撃を与えて終わりではなく、素早く何度も繰り出す。おそらく見切ることはできているはずだが、油断しているためか、ヘルツォークは防戦一方だった。

「そろそろかな。これなら、どうだ!」

 そして、タイミングを見計らい、もう一振りの剣を鞘から抜いた。今のツァイネにとって、攻撃の真骨頂はこの二振りの剣による連続攻撃にあった。

 以前、立ち寄った村でもらった宝剣。一振りごとに星屑のような光がきらめくそれは、少なくとも店で売っている市販品のものとは違っていた。

『二本だとっ! しかも、そちらも魔法の剣か! 人間風情が!』

「なんとでも言えばいいさ。詳しい謂れは知らないしね! でも、それがお前のような強敵に有効なら、それで十分だ!」

 炎の力を持った攻撃はじわじわとヘルツォークに迫り、反対側からの攻撃は、見た目には軽そうなのに、非常に重たい手応えをしている。武器の力か実力かはわからなかったが、どちらも予想外のものだった。

 確かに今は人間相手に手加減をしているが、勝利のためには手加減などしている場合ではないと気づかされた。

「さあ、バカにしてないで本気を見せてみろ! どのみち、俺たちは本気のお前を相手にしなきゃ勝てないんだ!」

『よかろう。それを望むというのなら、いま少しばかり力を解放してやろうではないか!』

 次の瞬間、何かの力に弾き飛ばされていた。これは先ほどみんなの攻撃を防いでいた障壁のようなものだろうか。それとも、ただただ強い力が顕現しただけでこうなるというのだろうか。

『さあ、もう一度行くぞ!』

「っ!」

 少しだけ力を解放するといったヘルツォークの踏み込みは、予想以上に速かった。ツァイネの素早さをして、防御で手一杯になっている。先ほどは作戦として攻撃を受け止めたが、今度は違う。本当に、避けることができなかったのだ。

「お、重い!」

(それに、このままじゃ、武器がもたない! なんとかしないと!)

 下手に動こうものなら、態勢を建て直す前に斬られてしまう。それだけは避けなければならない。己の体に鞭を打ち、武器の耐久力を信じるよりほかはない。

「うおりゃあああ!!」

 武器を交差させて防いでいたのが幸いした。そのままハサミのように相手の武器を抑えこみ、全身を右側にずらすことでなんとか攻撃をやり過ごすことができた。

 軌道を逸らされた攻撃は地面に当たることになったが、石畳が割れている。恐ろしいほどの攻撃力を持っているようだった。

『多少は知恵も働くようだな。だがしかし、これならば回避できまい! いなすこともできまい!』

「何!」

 ヘルツォークは剣を大きく薙ぎ払った。

「なっ!」

 重たい攻撃とともに、「何か別の力」が後押しするように、ツァイネの体を大きく吹き飛ばした。

「がはっ!」

 家屋の壁に激突し、そのまま意識を失ってしまった。

『これが、挨拶代わりだ』

 ヘルツォークは、不敵な笑みを浮かべていた。




〜つづく〜

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