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竜の翼ははためかない7 〜竜の涙は露より重く〜  作者: 藤原水希
第四章 魔女裁判 〜ただしきものとまちがったもの〜
23/33

チャプター23

 魔族の指揮官ヘルツォークが倒されて数日、「コッペパン通りのエルリッヒがピンク色のドラゴンらしい」という噂は、瞬く間に街中に広がっていた。



☆☆☆☆



「ええっ? ちょ、エルちゃん何言ってるの? あのピンク色のドラゴンの正体が、エルちゃん? 確かにドラゴンは見当たらないし、代わりにエルちゃんがここにいるけど、それっていくらなんでも飛躍しすぎだよー。エルちゃんが何かを隠してるのは伝わってくるけど、もう少し真実味のあるごまかし方を……」

「そうじゃないんだよ! ……本当のことなんだよ。わたしだって、荒唐無稽なことを言ってるっていうのはわかってる。でも、本当のことだから。じゃあ、ゲートムントたちは今までに二回遭遇したって言ってるけど、その時、二人はわたしとそのドラゴンが一緒にいるところを見てる? そんな話は言ってないでしょ? もちろん、こんな話、信じてもらえないのは百も承知だよ。信じろっていう方がおかしいもんね。だから、信じてくれなくても構わない。それでも、フォルちゃんには疑われたままなのは嫌だったし、大切な友達だと思ってるから話してる」

 それは恐怖と苦悩に満ちた告白だった。フォルクローレはどう受け止めてよいものかわからず戸惑ってしまったが、エルリッヒの様子はただ事ではない。どう見ても嘘を言っているようには見えなかったし、「信じられないから」というだけで相手の話を否定するような姿勢は、錬金術士としては失格のように思えた。

「エルちゃん……だったら、何か証拠はないの? 例えば、この場で炎を吐くとか、何なら今ここでドラゴンの姿になってもらうとか。あたしだって、エルちゃんの言葉は信じたい。でも、どうしても、話が飛躍しすぎてて、信じられないって思いがあるんだよ。だってそうでしょ? こんなの完全におとぎ話の世界だし。だから、信じたいって気持ちを少しでも大きくするために、証拠を見せて欲しいんだよ」

 フォルクローレの言葉は初めは冗談めいた色を見せていたが、今は優しい色に包まれている。エルリッヒから握った手を、優しく握り返してくれたその姿を見て、つい抱き寄せたくなった。が、本当に自分にその資格があるのか、信じてくれないにしても真実を打ち明けてしまった今は思い悩んでしまう。手を握ってくれていることですら、本当は恐れ多いことなのではないだろうか、と。

「……ごめん、この姿の時は火を吹いたり吹雪を呼んだりはできないんだ。それと、いつ誰が見に来るかもわからないから、元の姿に戻るのはちょっと。こんなんじゃ、余計に信じてもらえないよね」

 一瞬、「信じてもらえないなら今まで通りの生活ができるのでは」という思いが脳裏をよぎった。それでも、一度話してしまった以上は、納得してもらうまでは話を続けたかった。それが、友達としての義理のように思えたのだ。

「ううん、こっちこそ無理言ってごめん。じゃあ、当人しか知らないようなことを質問させて? それならできるでしょ? 言いたくないことは言わなくていいから。例えば、あいつらの話だと、ピンク色のドラゴンは人間の味方で、竜の王女さまって言ってたけど、本当?」

「ありがとう、フォルちゃん。そういうことで少しでも疑問が晴れるなら、いくらでも答えるから。二人の言ってることは、本当だよ。わたしは竜王族の第二王女、上にはお兄様とお姉様がいて、王位はお兄様が継ぐことになってるんだ。人間の味方っていうのは少し大げさだけど、わたしは人間社会に憧れで竜社会を出て行ったから、今でもずっとこの街で暮らしたいと思ってるし、そんな街に魔物が攻めてきたら、全力で守るのは、当然でしょう? フォルちゃんやゲートムントたちと同じだよ」

 本当にこんなことで信じてもらえるのかはわからないし、信じてもらった結果、化け物呼ばわりされてしまうかもしれない。それでも、この話には大きな意味があるに違いないと思っていた。

 フォルクローレも、にわかには信じられないことを少しでも信じるためにはこうして会話を重ねていくしかないのだと考えていた。それでも、今目の前にいるのはまぎれもない友人だが、その言い分を心から信じた時、本当に今まで通りに接することができるのか、今はまだ、自信がなかった。

「後はそうだなぁ……あたしは、何を訊いたらいい? 何を見たらいい? あんまりにも新しいことだから、思考がおいついてなくて」

「ごめんね。本当なら、今すぐにでも元の姿に戻ってあげられたいいんだけど。さっき魔物がいなくなったばっかだし、すごく目立つから……」

 その言葉には、普段の明るさや力強さは感じられなかった。それもまた、嘘を言っていないという証拠の一つということなのだということを強く物語っていた。しかし、それとは別に、フォルクローレの頭には忘れてはならない事実が一つ、はっきりと存在していた。

「できるだけばれたくないっていう気持ちは、十分に伝わってるよ。それよりも、あたしは大事なことを忘れるとこだった。あのピンク色のドラゴンは、この街の危機に突如現れて、魔物の指揮官を倒してくれたんだ。ここに来る途中、ギルドのみんなが気絶してるのを見たよ。あんな腕利きたちが苦戦した相手を、倒してくれたんだ。それだけは、まぎれもない事実だよ。だったら、その正体が誰であれ、この街のみんなは感謝するに決まってるよ。ううん、感謝しなきゃなんだよ。だから、今はまだ心の底から信じることはできないけど、疑ったりもしない。もちろん、言いふらしたりもしない。それでいいかな」

「……十分だよ」

 街を救った立役者、なんていう看板は大げさだと思ったが、それを理由に言い分を尊重してくれたのは、本当に嬉しかった。きっと、心のどこかでは信じられない思いが強く住み着いているんだろうけど、真実は真実として存在していて、エルリッヒ自身はそれを嘘偽りなく伝えたのだから、それでも、十分だった。

「フォルちゃん、ありがとう!」

「っ! そんな、大げさだよ」

 思いがけず抱きしめられた格好になったが、フォルクローレが抱き返したその体はまぎれもなく人間のものであり、やはり正体がドラゴンということは信じがたい。しかし一方では確かにあのドラゴンと入れ替わるようにこの森にいた。それは、信じるに値するレベルの材料ではなかったが、嘘を嘘と見抜けないほど浅い付き合いはしていないという自覚もあった。だから、態度はもちろんのこと、友人としての直感もまた、「エルリッヒの言い分に嘘はない」と伝えていた。

「さ、街に帰ろう!」

「うん……」

 この時、二人はすっかり忘れていた。エルリッヒが裁判の真っ最中に抜け出していたことを。



☆☆☆☆



 街に戻ると、「魔物を退治してくれドラゴン」の噂で持ちきりだった。全員が全員が避難したわけではなかったようで、やはり目撃者は他にもいたのだ。

 そして、そうなると過去にも二度助けられた上、大長老から若干の素性を聞かされているゲートムントとツァイネが話を始める。ギルドで顔の知られた二人のもたらした追加情報は、瞬く間に噂話と合流した。その結果広まったのが、「魔物を退治してくれたピンク色のドラゴンは竜の王女様で人間の味方だ」という内容である。

 一方、その噂とは直接の接点を持っていなかったエルリッヒだったが、まずいことに「裁判から逃げ出した」かどで再び城に連行されてしまった。

 もともとの罪状が「人間に化けた魔物ではないか」という濡れ衣だったため、裁判の真っ最中に魔物の襲撃があったというタイミングの悪さもあり、ますます濡れ衣を晴らすことが困難な状況になっていた。これには、フォルクローレはもちろん、ゲートムントとツァイネ、そしてコッペパン通りの住人たちも危険極まりないと考えた。

 そこで、冤罪を晴らすには城にパイプがあり信頼できる人物の協力が必要と考えたフォルクローレは、やむなくゲートムントたちに事実を打ち明けた。約束を破ることになっても、冤罪を冤罪だと証明するためには、真実を証拠として突きつけてやらねばならない。そして、それはこの街の住人たちにも知れ渡っていなければならない。

 噂話を広めるために重要なのは、その話題がセンセーショナルかどうかだ。こちらの話は真実だが、信じる者はほとんどいないだろう。しかし、今の時勢にはぴったりな、非常にセンセーショナルな内容だった。だから、噂話として広まってさえくれれば、それでよかった。

 後は、城内の信頼に足る人物にこの話が伝われば、それで計画は完成である。問題は、噂話が城に伝わるのを待っているべきなのか、それとも誰かーと言ってもツァイネしかいないがーに直接伝えてもらうべきなのか。

 この作戦の成否は、時間の問題だった。何しろ、遠くに見える王城で起こっていることは、外からはうかがい知ることなどできないのだから。

(エルちゃん……絶対助けるからね!)




〜つづく〜

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