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竜の翼ははためかない7 〜竜の涙は露より重く〜  作者: 藤原水希
第三章 会者定離 〜まもるものとこわすもの〜
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チャプター21

〜王都郊外 上空〜



 激しい炎と氷のぶつかり合いは、大きな爆発を生み辺り一面が煙に包まれていた。

(……この状況なら、絶対視界が悪いのを利用して不意打ちを仕掛けてくるはず。なら、気配で探って裏をかいてやる)

 力強く羽ばたきその場に留まったまま、静かに目を閉じた。

(……どこだ?)

 予想通り、目の前にはいない。定石通りなら背後か頭上から襲いかかってくるだろう。しかし、その方角にも気配は感じられない。あれほどの気配の持ち主なら、どこにいてもすぐにわかるはずだ。現に、先ほどまではそうだった。それが、今は気配を感じ取れない。不思議な力で妨害されているのだろうか、それとも、それほどまでに弱っているのだろうか。

(いや、消耗はしていてもダメージはほとんど受けてないはず。弱るには……まだ早い……とすると……)

 思いつく可能性は一つ。『魔法で気配を消している』可能性だった。魔法というのはなにしろ得体の知れない力を媒介にして自然の法則を無視した反応を起こすことができる。何もないところから炎を出したり本来以上の筋力を発揮したり、果ては怪我を治したり。術者による得手不得手はあるものの、魔族の、それも指揮官を務めるような輩であれば、かつて人間たちが使っていた時よりももっと制限は低いに違いない。気配を消すことくらい、造作もないはずだ。

(仮説は仮説でしかないけど、気配で察知できないとなると、ますますもって厄介だ。なら、取り得る手は一つか)

 目を閉じたまま、力を込める。竜王族が先祖から受け継いだ力の一つ、大気を操る力を発動させた。エルリッヒの周囲に、漆黒の竜巻が立ち上る。

 自分の能力も大概魔法じみたものだと思いながらも、こうして限られた力を最大限に行使している。可能性がどこまで当たっていて、この対策がどこまで有効かはわからないが、兎にも角にも風の鎧が全身を包み込んでいた。迂闊に触れれば全身を切り刻まれてしまうだろう。

(これで、不意打ちには対応できるか。でも、できればこちらから仕掛けてやりたいところだけど……)

 何しろ魔法の力ではないので、そこまで派手なことはできない。だから、これには少し頭を悩ませた。何かを考えるとしたら、ヘルツォークの姿が見えない今しかない。

再び静かに集中すると、今度は角が白く発光を始めた。エルリッヒが雷を呼ぶときの動作だ。

(よーし、これでどうだ!)

 爆煙を吹き飛ばすように、自分の周囲とに雷を落とす。それどころか、自らの角にも落雷は降り注いでいた。一見すると自傷行為にも見える行動だったが、それは竜王族をはじめとした雷の力扱う竜族が体に雷を蓄えるために行う行動であり、もちろん狙いがあってのことだった。

 とはいえ、街の外壁に落ちてしまうと瓦礫が誰を傷つけるかわからないし、森に落ちてしまうと森林火災になりかねないので、周囲に雷を呼ぶと言っても、その範囲には気をつけなければならなかったが、それでも、「街や森を気にしている」とは毛取られないような攻撃になっているはずだった。

『ぬぅっ!』

(かかった!)

 自分の周囲を包み、なおかつ上空から地上までをカバーできる雷という選択は、間違いではなかった。いずれかの雷を警戒してか、ヘルツォークの声が聞こえた。

 真下からの攻撃以外は、ほぼ全てをカバーするための行動がこの落雷だった。風の鎧で身を包んでも、さほど積極的な攻撃には繋がらない。だが、雷というのはその比ではない。並の魔物であれば、一撃で焼け焦げてしまうようなものだ。ヘルツォークといえど、無傷では済まない。

『雷とは小賢しい真似を!』

 気配を消すことを諦めたのか、声だけでなく、気配も感じ取れるようになっていた。それは、斜め後ろ、上空だった。気配が消せれば、定石通りの不意打ちでも構わないという判断だったのだろうか。いずれにせよ、これでまた一つ攻め手を封じることができた。後は、そろそろ決着をつけたいということだけだ。

(こんなところで、時間なんて食ってられない! 一気にカタをつけなきゃ!)

 風の鎧をまとったまま、遥か上空まで飛び上がると、そこから急降下して、思い切りヘルツォークに体当たりを決めた。当然、それは波の質量ではない。

『ぐおぉぉぉぉ!!!』

 もはや、”反発の力”を使う余裕はなかった。もともと、固有の能力とはいえ魔法には違いなく、一時的に大きく消耗してしまった今、魔力の回復を待たなければこの攻撃を弾き飛ばすほどの力は使えない。

 魔族として高い魔力を有し、魔王の復活によって力が大きく増強されているというのに、消耗してしまった今、”時間をかけて回復するのを待つ”ことしかできない。もっと居城に近ければ、その分だけ魔王の影響も大きく回復も早まるだろうし、拠点に戻れば魔力を回復させる薬もあったのだが、今はそのような備えはどこにもなかった。

 もちろん、周囲のガーゴイルたちの魔力は弱く、奪い取っても大した力にはならない。魔法が主力の魔物もいたというのに、空から攻めるのに有利な彼らのみで部隊を編成してしまった。

『これが、油断というやつか……』

 よもやこのような強大なドラゴンが人間に加勢しようなどとは夢にも思わなかったが故の戦略だったが、それを差し引いても、思いの外苦戦してしまった。魔族としての面子も丸つぶれだ。

 地面に激突しようかという勢いで墜落する中、自嘲気味の考えだけが頭をよぎる。

『まあ、この勢いで地面に激突しようと、死にはしないが……ぐあっ!!』

 「死にはしない」と見積もったものの、「無傷で済む」ということではない。体当たりによる物理的なダメージに、激突のダメージが加算されるのだから、それ相応の痛手を被るのは当然だった。

 そうして激突し、勢いのあまり体が跳ねたその瞬間だった。

『なん……だとっ??』

 上空にいたはずのドラゴンが再び急降下してこちらに近づき、そして、なんと人間に化けた。炎のような赤毛をした人間の娘の姿に。

「てぇぇいっ!!」

 ヘルツォークの体が一瞬跳ねたその瞬間を狙って、エルリッヒは人の姿に変じ、上から剣を突き立てた。姿を変えた刹那、ドラゴンスレイヤーを呼び出していたのだ。こんな摩訶不思議な芸当ができるのも、この剣が「いつでもどこでも呼び出せる」というまるで理解できない便利な機能を有しているのに他ならない。

 そして、それを人間でいえば心臓のあるあたりに勢いよく突き立て、再びヘルツォークの体が地面に着いた時、杭になるように深く深く突き刺した。

 自分が一糸まとわぬ姿でいるのは多分に気になったが、相手は魔族、人間の価値観が通用しないと踏んで割り切った。それに、どうせ死にゆく命なのだから、と。

『っ!!』

 声にならないうめき声を上げ、強く血を吐く。心臓を突き刺すことができているかどうかはわからないが、大きなダメージを負っていることは間違いなさそうだった。

『きさま……先ほど……街にいた娘……だな? どういう……ことだ。いや、それよりも……勇者の真似事でも……しているつもりか?』

「私の正体については何も言えないけど、これだけは教えてあげるよ。私は勇者気取りでお前と戦ってるんじゃない。大事な街と街のみんなを守りたいからこうしてるんだ。もう、おしゃべりは終わりだよっ!」

 地面にまで突き刺さった剣を、今度は勢いよく振り上げた。当然、その過程で刺さったままの体を大きく引き裂くことになる。先ほどツァイネに託したのもそうだが、龍殺しの力は通用しなくても、単純に剣としての強度と鋭さが並外れているからこその芸当だ。

 長寿を誇る竜王族をして「ご先祖様」というほど太古の祖先が竜殺しの勇者から勝ち取ったという逸話は伊達ではない。使われている金属も、その製法も、正確な年代も不明なのだから。

『我が死んだとて……魔王軍は滅びぬぞ! ま、魔王様……万歳!』

 大きく目を見開くと、そのままヘルツォークは霧散した。まるでからくりがわからないが、魔族は死ぬとその亡骸を残さずに霧散する者がいる。

「お前たち、私と戦うか逃げ帰るか、好きにするといいよ」

 ヘルツォークの消滅を見届けると、上空で様子を伺っていたガーゴイルたちを一瞥して、告げる。言葉尻は親しみやすく、でも目線を送る瞳は極力冷たく見えるように気をつけて。

『ひ、ひぃぃ!!』

 誰かが、情けない悲鳴をあげて飛び去った。そして、それに続けとばかりに残りのガーゴイルも一目散に逃げてしまった。方角は、やはり北だ。方角だけでいえば、魔王の居城があるという「北の最果て」と一致する。

「……」

 上空を飛ぶガーゴイルが視界から消え、気配も消え失せたのを確認すると、ようやくエルリッヒの表情に安堵の色が浮かんだ。

「ふう。思いの外手こずってしまった。このままここにいるのも危険だし、早く戻らなきゃ」

 誰かに見られるのは色々な意味でまずい。街が混乱しているうちに服を着て、城壁の中に戻らなくては。そう考えると途端に気が急いた。幸い、森にはほとんど被害は出ておらず、すぐに先ほど元の姿に戻るために衣服を脱いだ場所に戻ることができた。

「よし、最悪これでなんとかなるぞっと」

 剣を再びどこかへと収納し、身だしなみを整える。そして、少しだけこそこそと状況を伺うようにして森を抜けようとした。その時である。

「エ、エルちゃん!? どうしてこんなところにいるの?」

「え? っ!!」

 本来いるはずのない相手、フォルクローレがそこにいた。




〜つづく〜

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