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竜の翼ははためかない7 〜竜の涙は露より重く〜  作者: 藤原水希
第二章 深化激化 〜たたかうものとまもられるもの〜
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チャプター17

〜中央通り〜



『なんだとっ!』

 今まで何度やってもダメだったのに、ツァイネの一閃はヘルツォークの体を刺し貫いていた。吹き出る鮮血は、厳格ではない。おそらく、背後の戦士たちを吹き飛ばすために力を使ったことで、背中の守りが手薄になったのだろう。そう考えた。

「まさか、攻撃が当たるなんて!」

『おのれ、許さんぞ!!』

 ヘルツォークは自ら体を捻り、深々と突き刺さっている剣を引き抜く。そして、両手両膝をつきながら、周囲の戦士たちを睨みつけた。

 戦士たちはエルリッヒの作戦通り、残ったメンバーが吹き飛ばされた戦士たちを受け止めていたため、大したダメージにはなっていなかった。しかし、それでも、全員が尻餅をついており、身軽に行動できる状態ではなかった。

「みんな、逃げて!」

 ツァイネは叫ぶが、それを聞き入れられる態勢ではない。一様に、武器を縦に防御のポーズをとるのが精一杯だった。

『もう容赦はせぬ! 一人残らず吹き飛んでしまえ!』

 ヘルツォークがカッと目を見開いたその瞬間、またしても目に見えない謎の衝撃波が襲ってきた。それはヘルツォークにとって背後にいるツァイネにも等しくふりそそいだ。先ほど受けたものとは桁違いの力で、全員が大きく吹き飛ばされてしまった。

 当然、どこかしらの家屋の壁にぶつかり、各々多くのダメージを受けている。

「ヤベェな。まだこんな力を残してたなんてよ……」

 多くの者が気絶する中、ツァイネはかろうじて意識を保っていた。これも、全員の中で最も頑丈な鎧を着ているからこそだ。

「せっかく、一撃を与えられたのに……これじゃ……」

『はぁ……はぁ……これが、魔王軍の指揮官たる我の力だ。人間どもよ、思い知ったか……』

 手傷を負った中、自身の中では比較的大きな力を使ったのか、ヘルツォークは息が荒かった。それでも、こうなってしまえばヘルツォークの勝利は確実だろう。誰もが絶望に包まれていた。




「また、あの力だ……」

 まるで竜巻のような力が立ち上ったかと思うと、それが広がり、辺り一面に広がっていった。それでも局所的なものなのかツァイネを含む周囲の戦士たちをひとしきり吹き飛ばすと、力は消えてしまった。今では、ヘルツォークの周囲にすら力が発生していない。

「攻め込むなら今なんだけど……」

 辺りを見回しても、戦える者は誰一人としていなかった。みんながみんな、一様にダメージを受け、そのほとんどが気絶している。このままでは、ツァイネもいつ気絶するかわからない。当然、ゲートムントはまだ目を覚まさない。

「もしかして、残ってるのは、私一人?」

 今からお城の兵士を頼ったのでは遅すぎるし、何より戦力外だ。戦える者がいないことになってしまう。自分がここで戦うのもいいが、これの状況下ではあまりに目立つ。いざとなったら正体がばれることもやむなしとしているが、できればそれは避けたかった。

「こうなったら、やるしかないか。迷ってる暇はない!」

 今はヘルツォークもダメージと大きな力を放った反動でおとなしくしている。全てにおいては、今しかなかった。

「ゲートムント、ごめん!」

 握ったままだった手を離し、エルリッヒはその場を後にした。もし、誰かが見ていたら、単に逃げ出したかのように見えるだろう。今はそれでいい。いや、その方が好都合だ。




〜外門〜



 中央通りを駆け抜け、向かった先は外門だった。案の定、この辺りは被害がない。警備の兵士が一人で守っているだけだ。いざという時には何かしらの伝達手段は持っているのだろうが、あまりにも手薄だ。

「ん、あれは……?」

 外門に近づいていくと、兜の下の兵士の顔が見えてきた。見覚えのある顔だ。

「あのー」

「ん? あぁ、君は確か、コッペパン通りのエルリッヒちゃんと言ったっけ。こんなところに何の用? 今は緊急事態なんだけど……」

 やはりそうだ。この兵士は、何度かお店に来てくれた兵士だ。こちらは名前を知らないものの、顔に見覚えがあるし、何より自分の名前を知ってくれている。これは好都合かもしれない。

 そして、その程度の顔見知りですら、今自分がお城の裁判を逃げ出していることには触れていない。やはり、あれは極秘裏に行われていたものなのだろう。

 『人に化けた魔物を退治した』という体裁で民衆の不安を取り除くために。そして、そのための生贄にふさわしいのは、よそから来たエルリッヒのような住人だ。移住そのものですら、偵察と言ってしまえば説明付けできる。

「向こうで、魔物の指揮官が戦ってるんだ。さっき、声が聞こえたでしょ? ギルドのみんなが戦ってくれてたんだけど、苦戦してて。今はまだみんな生きてるけど、このままじゃ危ない! だから、とりあえず行って助けてあげて!」

「え? でも、ここの守りもしなきゃいけないんだ。いつ襲ってくるかわからないしね。う〜ん、困った……」

 それは、心底困ったような顔だった。あくまで任務だからと突っぱねる兵士もいる中で、これは好感度が高い。しかし、こちらも一刻を争う。なんとか外に出なければ。

「それに、そもそもエルリッヒちゃんはなんでこんなところに?」

「エルでいいよ。私は、北の方から逃げてきたんだよ。南の方が侵攻が手薄いのが見えたから。それに、指揮官が出てきて戦ってるけど、あいつさえ倒せば、あとはみんなでも倒せてたから、絶対に私たちが勝てるよ! でも、指揮官はすごく強いから、今は一人でも戦力が欲しいんだ。見てると魔物は北から飛んできてるし、ここから攻め込間れることがあれば、それは次の第三陣が攻めてくる時じゃないかな。だから、まずはあっちを助けてきて欲しいんだ! お願い!」

 顔見知りなのをいいことに、精一杯の懇願をする。どこまで通じるかわからないが、聞き入れてくれなければ意味がない。心が動いてくれなければ、ダメなのだ。

「う〜ん……」

「ほら、早く! お願い!」

 こちらはこちらで必死だった。内心はまるで違っていたが、その表情が決定打になった。

「わかった。俺も城の兵士だ。行こう! 場所を教えて!」

「ありがとう! 私はこのまま避難しちゃうから、場所だけ教えるけど、中央通りで戦ってるから! みんなやられてて、指揮官はすごく強いから、くれぐれも気をつけてね。魔物を追い払ったら、お店で待ってるから」

 それだけを伝えると、兵士には中央通りに向かってもらった。

「よし。これでいいね。……本当に無用心になっちゃってるけど、こっちから攻めてくることは多分あり得ないし、指揮官のヘルツォークさえ倒しちゃえば、あとはこっちの勝利だから」

 そう自分に言い聞かせると、周囲に誰もいないことを目視と気配で確認して、こそこそと外門から外に出た。街の外は文字通り危険地帯だが、魔物が襲ってきているとなれば、獣も野盗も恐れをなして近付かないだろう。

 次に探すのは、場所だった。周囲を見回して、いい場所を探す。

「う〜ん、どこかにいい場所は……あった! あそこだ!」

 それは、普段あまりに近くにあって意識していない場所だった。外門を抜け、城壁伝いに歩いてすぐのところにある、小さな森。小さいとは言っても、人間が入って活動するのには十分な広さがあり、身を隠すこともできれば、時には外から迷い込んだ獣と遭遇することもある、立派な森だった。

 城壁越しにいつも見えていたが、それだけに意識から抜けていた。

「よし、急ごう!」

 こうしている間にも、ヘルツォークが回復してみんなに止めを刺しているかもしれない。そうなっては手遅れだ。城壁の上にいるかもしれない見張りに気づかれないよう駆け抜けると、その名もない森に入った。

 小さいながらも初めて入ったその森の中は鬱蒼としており、薄暗い。ここなら、十分だ。

 念のために森の中央付近まで足を進めると、もう一度周囲を見回し、それから衣服を脱ぎ始めた。

「まさか、ここでこんな決断をするんて。我ながら、危険な賭けに出たもんだ……」

 そしていつものように丁寧にそれを畳むと、小さく念じた。

「っ!」

 次の瞬間、一筋の雷鳴が轟いた。




〜つづく〜

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