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竜の翼ははためかない7 〜竜の涙は露より重く〜  作者: 藤原水希
第二章 深化激化 〜たたかうものとまもられるもの〜
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チャプター16

〜中央通り〜



 この街と街のみんなを守るため、ツァイネは飽くことなく戦いを続けていた。相変わらずヘルツォークの攻撃は魔法の力が乗って重たいし、こちらの攻撃は謎の障壁に阻まれて当たりもしない。しかも、不思議な障壁には「反発」の力でもかかっているのか、障壁ごと吹き飛ばしてやろうと思ったのに、ことごとく弾かれてしまった。

 幸い、それだけの難敵を相手にしても相変わらず武器には傷一つついていないのだが、ダメージを与えられないというのが、何よりももどかしかった。

 それでも、防戦一方になるよりは攻めた方が体も気持ちも楽ということもあり、隙を見つけては攻撃を繰り出していた。

「全く、勝てる気がしない! どうしたらいいんだ!」

『人間風情がどれほど知恵をしぼろうと、全ては徒労に終わるのだ! 無駄に足掻くがよい!』

 少し気弱な姿勢を見せると、それに乗じて強気のコメントが返ってくる。ヘルツォークは、案外饒舌な性格なのかもしれない。

 戦いの最中、背後で見守っているはずのみんなの気配が動いたのを感じた。逃げたようではないので、みんなはみんなで何かを企んでいるようだったが、それはこの場にいてはわからない。少なくとも、今のこの戦いを助けるためのものだろうし、いざ彼らの行動が身を結んだ時、自分はそれをしっかりと活かせるよう心づもりをしておかなければならなかった。

 とりあえず、それをヘルツォークに察知されないよう、気をつけなくては。本来、背後のみんなの行動は視界に入っているはずなのだから。

「無駄かどうかを決めるのは、戦いが終わってからだよ! しっかり足掻かせてもらうから! でりゃあ!!!」

『ふ、人間にしておくのは惜しいほどの戦闘能力だ。だが、魔力を持たぬ者にはやはりこの程度が限界か。かつては自ら魔道に堕ちた人間もいたというのに、この100年の間に、すっかり毒気が抜けてしまったようだな。魔道に堕ちさえすれば、貴様とて魔力を行使することができるというのに』

 ここへきて、また新しい話を聞くことができた。「魔道に堕ちた人間?」かつて書物として読んだり大人たちに聴かされたりしたおとぎ話や冒険譚には、そのような存在は出てこなかった。

 魔族になった人間。もしそれが本当なら、とても恐ろしい存在だ。如何な理由があろうとも、人の道に外れすぎている。もしかしたら、過去の出来事としては”なかったこと”にしたいのかもしれない。

 しかし、色々な情報が聞けて面白いものだ。うっかり重要な情報でも漏らさないか、それが気になり始めていた。

「そんな恐ろしい存在、俺は遠慮するね! 確かに、100年を超える寿命に人を外れた力、お前たちのような魔法の力、それはすごいことだ。でも、今こうして俺たちが営んでる人の生涯は、限られた世界、お前たちから見たら小さくて弱いからいいんだ! どんな理由があろうとも、俺は自分の意思でそんな人間の有り様から外れたいとは思わない!」

『くっ! 言うではないか!』

 相手の一撃を防ぎ、押し返しつつ少しだけ吹き飛ばす。体はダメージが通らなくても、武器を弾く格好でなら、吹き飛ばすことも不可能ではないらしい。どれほどのダメージソースになるかはわからなかったが、新たな事実だ。

 それにしても、とツァイネは考えた。人の道を外れ魔道に堕ちた人間。それは自分たちを見たとき、何を思うのだろう。今はどこで何をしているのだろうか。人に戻っておとなしく暮らしている? 魔族の一員として勇者に倒された? 魔族としても信用されず、粛清された? そのどれであっても、あまりいいものではない。人に戻るのが一番平和そうではあるが、何しろ一度人の理から外れており、人に仇なす存在になっていたのだから。

「魔道に堕ちたっていう意味なら、盗賊や強盗、殺人者も同じだけどね。それでも、人類全体の敵ってわけじゃない。やっぱり俺には、理解できない!」

『食いついてくるではないか。興味が出てきたのではないか? なんなら、もっと聞かせてやろう。人の道を棄てた者のことをな』

 これでヘルツォークの関心を向けさせることに成功した。ツァイネ自身の興味ももちろんあったが、みんなが裏で動いてくれている作戦の成功率を上げるためにも、これでいい。

 戦いながらもより話を引き出せるよう、精一杯振舞うことにした。

「それはありがたいね! 俺たち人間の歴史の汚点だろうからね!」

『それを汚点と呼ぶのは、人間の愚かな価値観に過ぎぬぞ? 長らく尽きぬ命、人を超えた力、永続的な魔力、魔王軍での地位。どれも魅力的なものではないか』

 これは個々の価値観の問題だ。魔王軍での立場はともかく、何百年も生きたり、生身の人間を超える腕力を手にしたり、魔法の力を操ったり、それらに魅力を感じる人はいるだろう。だから、それが理由であれば、唆されてしまうのは無理もないのかもしれない。

 しかし、人に相対するとはどういう意味を持つのか、そもそもどういうプロセスを経る必要があるのか、まだまだ謎が多かった。これはもう少し聞かねばなるまい。

「確かにね! すごいことだと思うよ! でも、俺はそんなものに価値を感じないね! 俺は、今この体でより強くなることを選ぶよ! そもそも、魔族になるっていうのがどういうことなのかも、さっぱりだ!」

『何、魔族になることなど簡単だ。この世界のどこにいても、魔王様に忠誠を誓いさえすれば、それで我らの仲間入りだ。貴様もどうだ? 貴様ほどの力であれば、魔王様もお喜びになられるであろう!』

 その勧誘が本気かどうかはわからない。しかし、人が魔族になれるというのであれば、尖兵や捨て駒としてでも、勧誘する価値はあるのだろう。誘いに乗る気は無かったが、これはこれで面白い話だと思った。

「冗談じゃない! そもそも、元人間が、そんな高い地位につけるはずもない! それに、魔王を信奉するような、人間への絶望もしてないぞ!」

『強い信念がなければ、これほどまでには強くなれんというか! よかろう! 勧誘を聞く気もないというのであれば、やはり滅ぼすのみ!』

 ヘルツォークの力が、また一段高まった。

「なっ!」

『今までのが全力だと思ったか! さあ、耐えてみるがよい!』

 一段強くなった攻撃を受けていると、ヘルツォークの背後に何やら人影が見えた。奇襲でも仕掛けようというのだろうか。無駄かもしれないが、確かに面白い試みだ。

 ならば、今やるべきは一つ。奇襲させやすいように立ち回るのみ!

「くっ!」

 今まではいなすことも多かった攻撃を、全力で受け止めている。頑丈な剣があればこそ成立する手段だが、今は大丈夫だ。それほどまでに、絶大な信頼を置いていた。

 当然、剣を振りかぶって斬り込んでいるヘルツォークの背中はガラ空きだ。今なら、翼も斬り落とせそうだった。

『このまま、剣ごと屠ってやるわ!!』

「そんなこと、起こりっこない! 俺はこの剣を信じてる!」

 竜殺しの剣は、未だ折れることなくしっかりと防いでいる。ヘルツォーク自身の力に魔法の力、そして剣の鋭さ、その全てを受けて尚、しっかりと防いでいる。本当に、どれほど頑丈な剣だというのか。

(よし、今だ!)

 一瞬、みんなに目配せを送る。それを見抜いたのか、戦士たちは物言わぬまま、静かに踏み込んできた。果たしてどこまで気付かれているのか。それとも、無事に成功するのか。それはわからなかったが。

『見えていなくとも、気づいているぞ! 雑魚ども! ハァッ!』

 気合一閃、ツァイネに背を向け、背後の戦士たちめがけて攻撃を繰り出した。魔力を込めての、素早い横薙ぎだ。

「うわっ!」

「がはぁ!!」

 一同が、一斉に吹き飛ぶ。しかし、ツァイネはこの隙を見逃さなかった。

「そこだーっっ!!」

 一歩踏み込み、魔力の障壁にもめげずに鋭い突きを放った。

『ぐぁっ!!』

 剣は、ヘルツォークの体を刺し貫いたかのように見えた。




〜つづく〜

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