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竜の翼ははためかない7 〜竜の涙は露より重く〜  作者: 藤原水希
第二章 深化激化 〜たたかうものとまもられるもの〜
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チャプター15

〜中央通り〜



『まさか、これほどまでの攻撃を繰り出してこようとはな』

「武器の強さのおかげだよ。今までの武器じゃ、ここまでの攻撃はできない。お前自身の耐久力がどうであれ、その立派な鎧に阻まれちゃうからね。だから、この武器だったらできると思ったんだ」

 ツァイネが使っていても、ヘルツォークが受けていてもそれぞれに実感していたが、この剣はどうやら相当の名品らし。なぜこのようなものがこのような場にあるのか、むしろ気になって仕方がなかったが、そんなことには構っていられなかった。

『このような屈辱、初めてだ! もう許さん! フルパワーだ!』

「まだ抑えてたのか! 感じ悪い敵だよ、まったく!」

 再びゆらりと立ち上がったヘルツォークは、一気に力を込める。すると、鎧に亀裂が入り、ガラガラと音を立てて崩れ去った。

 あわよくば鎧の破壊をと目論んでいたが、よもやこのような形で結実しようとは思わなかった。

「自分で鎧を壊した!」

『貴様も気づいておろう? 我は身の守りはさほどではない。だが、その弱点をあえて晒すということが、どういうことが、わかるか? これで、今まで以上の力を発揮できる。我が、鋼鉄の体を持たずとも魔族の指揮官を拝命できる理由、教えてやろう!』

 叫びとともに襲ってきたのは、めにみえないが、強烈な衝撃波だった。

「くそっ! なんだこれ!」

 考えるまでもなく、それは魔法の力だった。しかし、いわゆる「指先から炎を放つ」ような力ではない。いや、この一連の戦いにおいて、ヘルツォークは一度もそのようなおとぎ話や冒険譚で見てきたような力の使い方をしていない。それはつまり、ヘルツォーク自身の力がそのような性質を持っているという可能性だった。

「こんなん、対処しろって方が無理だよ!」

『見えまい。我が魔力を余人が捉えることなど不可能! さあ、餌食になるがよい!』

 ついには耐え切れず、吹き飛ばされてしまった。

「くっ! 反則だ、あんなの……」

『先ほどまでの威勢はどうした? 反則などではないぞ? これも、れっきとした力、戦いにおける攻撃手段だ』

 この力に対処できなければ、勝利はない。力の強さはまだ未知数だが、何より目に見えないということを考えると、先行きは暗かった。

『戦意喪失か? それもよかろう。人間など、所詮はその程度の生き物なのだからな。ここまでよく頑張ったというところだ』

 ヘルツォークの瞳には、他者を見下すような光が宿っていた。



「な、何あれ〜!!」

 未だ目を覚まさないゲートムント介抱しつつ、その戦いを見ていたエルリッヒは、ヘルツォークの力に目を丸くしていた。今まで色んな魔力持ちと触れ合ってきたが、こんな力は初めてだった。魔法で自然界の力を呼び出して、炎を出したり水を出したり、自己の力を高めたり、そう言った使い方をする者ばかりだった。

 それが、ヘルツォークの力はこの距離で見ていても得体が知れない。真っ白い「流れ」のようなものが吹き出し、力の波となってツァイネを吹き飛ばした。

 ゲートムントを攻撃した時も、今思えば同じ力だった。真っ白い力が、針のように細長くゲートムントを貫いたのだ。

「見たとこ、風の力じゃなさそうだし、見えるってことは何かしらの力ではあるんだろうけど、さっぱりわからないよ。困ったなー、実態が掴めなきゃ、アドバイスもできないじゃん」

 とにかく「力」としか言いようのないそれは、今もヘルツォークの体にまとわりついていた。強固な鎧を自らの力で破壊したのは、これが代わりにあるからか。

 あんなインチキくさい力が守っているのでは、おいそれと攻撃もできないだろう。

「あの剣はあんな力で刃こぼれしたり折れたりはしないけど……攻められないんじゃなー」

 魔力とは、すなわち自由に操れる力である。今はあのように使っているだけで、本気を出せば街ごと破壊できてしまうかもしれない。そんなことだけは、避けなければ。

「せめて、どこかに隙でもあれば……」

 攻略の糸口をつかむため、ヘルツォークの言動を思い出してみる。確か、攻撃自体はいたって真っ当なものだった。それが、ツァイネの攻撃でタメージを受けたことで、全力で攻撃する方針に転換したのだろう。だが、こうも言っていた。『我は身の守りはさほどではない』と。つまり、当たりさえすればなんとかなるはずだ。あの不思議な力をなんとかして、ツァイネなり他の誰かなりが攻撃を当てさえすれば、勝機は見えてくる。

「でもそのためにはダメージ云々以前に、あの力をひっぺがさないとダメだしなー」

 何しろあの力の本領がまだ見えない。一か八かの賭けをするしかなかった。



「ねえ、みんな」

 エルリッヒは遠巻きに見守っている戦士たちに声をかけた。

「ん? ああ、エルちゃん。どうしたんだ? こんなところにいちゃダメだぜ。あっちでゲートムントを診ててくれねーと。あいつ、まだ伸びてんだろ?」

「うん、それはもちろんそうするんだけどさ、ほら、ツァイネが苦戦してるでしょ? だから、ちょっと作戦を立ててみたんだ。私も、色んな土地を旅して色んな奴と戦う護衛の人を見てきてるから、参考になると思うよ。聞くだけ聞いてくれると嬉しいんだけど」

「お、作戦を伝授してくれようってのか? 嬉しいねえ。聞こうじゃねぇか。な?」

「ああ。俺たち、こいつら二人におんぶに抱っこになっちまってるからな。ギルド登録戦士の面子もあるし、どうにかしてやりたいと思ってたんだよ。で、どんな作戦だ?」

 状況が状況だからか、エルリッヒに対する信頼からか、誰も一笑に付したりはしない。そのことが、なんだかとても嬉しかった。

「ありがとう! それじゃ、伝えるね。一通り聞いた後で、実施するかどうかはみんなで決めて。あくまでも、みんなが本職だから。作戦はこう。あいつの、なんだか不思議な力、あれをなんとかしないとどうしようもないでしょ? でも、未知数すぎて手が出しづらい。だから、みんなはツァイネと戦ってる時に、背後から攻めて欲しいんだ。最初の時みたいに、お互いが邪魔にならない人数を絞って。多分、不思議な力に阻まれるか、気付かれて力を強めてくるか、どっちかだと思う。だから、残ったみんなは吹き飛ばされるのを受け止めるつもりで背後に控えてて」

「おう、面白そうな作戦だな。けどよ、それのどこに攻め手があるんだ? 今の所、何もねぇよなぁ」

「最後まで聞けって。それから判断って話だろ?」

 途中の割り込みも、他の戦士が諫めてくれる。聴衆の人数が多いと、このようなことが起こる。

「あぁ、悪い。続けてくれ」

「うん。問題は、この時なんだ。あいつが気付こうが気付くまいが、みんなが吹き飛ばされたら、さすがにそっちに注意が向きそうでしょ? その隙に、ツァイネに決定打を打ってもらう。あいつはさっき、自分の防御力は大したことないって言ったんだ。だからあんな立派な鎧を着てたんだし。でも、今はその弱点を晒してる。あの不思議な力に、絶対の自信があるんだろうね。それなら、それが弱まるタイミングを作ってやればいい。そういう作戦。ちょっと危険な賭けだけど、どうかな」

「いや、危険な賭けだけど、俺は面白いと思うぜ」

「あぁ、俺もだ」

「ここで見てるだけってのも、シャクだしな。その賭けに乗るのも一興だぜ」

「ああ。ツァイネ坊が引導を渡してくれるっていうんなら、俺たちでその道筋を作ってやろうじゃねぇか!」

「おぉ〜〜!!」

 幸運が重なってか、みんなは話に乗ってくれた。本当に賭けではあったが今はやるしかない。

「じゃあ、ツァイネがもう一度あいつに立ち向かっていったら、作戦開始。気付かれないように、背後に回って」




〜つづく〜

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