チャプター14
〜中央通り〜
ゲートムントが救い出されたのを見て、ツァイネはホッと息をついた。
(とりあえず、ゲートムントも救い出されたし、全力で戦えそうだよ)
背後で倒れているゲートムントを気遣い、攻撃が及ばないよう、意識が向かないよう、戦い方を工夫していた。それはもちろん、全力で戦うためには邪魔なもので、それでもなんとか戦えていたのは、やはりこの剣のおかげだった。
ツァイネ自身がその性能に驚いたのはもちろんだが、ヘルツォークが驚きを示したのも大きかった。一気、戦いの主役がこの剣に持って行かれたのだ。それは、自然とゲートムントから意識がそれることにつながる。それでも、相手は魔法の力を使ってくる。もしその余波が当たったらと思うと、気が気ではなかった。
(なんとか魔法を使わせないようにできたけど……)
こちらから一方的に攻め立てることで、魔法の力を使わせずに済んでいた。そして、剣と剣の戦いに持ち込むことでも、ゲートムントを守りながらの戦いを成立させていた。
「まだ、終わりじゃないんでしょ? 魔族の指揮官が、この程度のことで終わるとはとても思えないね」
『当然だ。この程度で負けたのでは、魔族全体の名折れではないか』
見た目にはなんでもないように見えるヘルツォークだったが、先ほど吹き飛ばされた時と、今吹き飛ばされた時、その二度の攻撃を受け、無傷ではなかった。
強固な鎧に身を包んでいるから、致命傷には程遠かったが、それでも、一方的に優位な戦いではなかった。それが、ヘルツォークが抱える唯一最大の弱点だ。
「じゃあ、続きにしようか」
『よかろう。今度は、本気で行くぞ』
その言葉がハッタリでないことは、ツァイネにはよくわかっていた。先ほどハインツをあっさり倒して見せた力、ゲートムントを倒した魔法、そのどれも、今はまだ見せていない。つまり、小手調べの段階なのだろう。
「じゃあ、俺も本気でいかないとね。たとえ魔族相手でも、本気を出さないで負けたら悔しいし、本気を出さないのはそもそも失礼だから」
『ふざけたことを言うものだ。ゆくぞ!!』
剣を構えてゆらり、と体勢を崩したかと思うと、次の瞬間ツァイネの目の前に迫っていた。あまりの素早さに、剣を縦に防御する。
「っ!」
『ほう、今の一撃を防いだか。並の人間よりは素早いようだな。だが、魔界の宝剣であるこの剣の一撃を受けて、ご自慢の武器は無事でいられるかな?』
自信満々の挑発。それはそうだろう。ヘルツォークは先ほどツァイネが投げた剣を追っている。もちろん、ツァイネが自身の剣を投げたということも見えていた。ただの剣ではないと看破したその剣を、真っ二つに折ったのだ。自分の武器に自信を持つのも、無理はない。
一方のツァイネも、咄嗟に刀身を確認する。もし傷でもついたら、まして折れてしまったら、目も当てられない。無事に勝利できたとしても、エルリッヒになんと詫びればいいかわからず、ともすれば敗北が決定して、自らの命が終わってしまうかもしれない。
しかし、確認した刀身には、傷一つついていなかった。もちろん、先ほどの攻撃でも、刃こぼれ一つしていない。
「残念だったね。この剣は、少なくともその剣に匹敵するくらいには、丈夫みたいだ」
『人間界の剣にも、そのような武器があろうとはな。つくづく驚かされる。だが、これならどうだ!』
今度も、先ほどに匹敵する速度での猛攻。ツァイネはやはり防戦一方になってしまう。しかも、その一撃一撃が、予想以上に重い。それはまさに不自然なレベルでの重さだった。
「くっ! 防ぐので手一杯だなんて!」
『そうであろう? これは、我の剣戟に魔力を重ねた特別な剣術だ。魔力を持たぬ今の人間には、到底太刀打ちできまい。そらそらそら!!』
攻撃自体は非常にシンプルで、ヘルツォーク自身の見た目からも、さほど強力な攻撃には見えない。しかし、見た目を大きく覆す攻撃には、魔法の力を込めているという話がまさにぴったりだった。
とはいえ、そもそもそのような力を持たずに生まれ育ったツァイネには、それがどのような力なのかはさっぱりわからず、「摩訶不思議な力が加わっている」としか認識できないでいた。
「全く、便利な力でうらやましい限りだよ!」
『そうであろう? 貴様たちは魔王様が御隠れになられたあの時より100年、この力を失ってしまったのだからな。そもそも、人間どもの魔力は、魔王様のあまりにも強力な魔力が漏れ出たものを受け取っていたに過ぎぬ。借り物の力など、なんと汚らわしいことか。失って、清々したぞ!』
それは、ツァイネも知っている話だった。そして、魔族自身も、自己の持つ魔法の力に加え、魔王の力を受けることでより強力になると聞いていた。ならば、今は魔王の復活具合はどの程度なのだろうか。気になることは山積みだった。
「お前たち魔族だって、魔王の力を受けてるじゃないか!」
『我らは良いのだ! 魔王様は我らの頂点に立つお方。我らにとっては親も同然なのだからな!』
言葉とともに、激しく吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ!」
相変わらず、防ぐことはできていたので、直接のダメージは小さかったが、それでも、腕にかかる負担は大きかった。
「やっぱ、攻める方がずっと楽だね」
相手が魔族なら、どのみち武器に魔法の力で炎や氷をまとわせたところで、大した効果は期待できないだろう。だったら、圧倒的なこの剣で戦いに臨めていることは、いいことなのだ。しかも、あれだけの猛攻を受けて尚、傷一つついていない。本当に、どういう代物なのだろうか。
「本気で行くって宣言したのにこれじゃ、恥ずかしいよね。もっと頑張らないと。行くぞっ!」
普段とは少し違う重心を調整しながら、今一度ヘルツォークに立ち向かう。こちらの攻撃もまた、順番だ。
『そうこなくてはな! さあ、どこからでも来い!』
楽しそうなヘルツォークの表情。ツァイネ自身も理解できたが、今は若干余裕がない。笑みを浮かべることなど、とても無理だった。
「たぁっ!」
大きく踏み込み、間合いを詰めてからの一撃。それが防がれたのを確認すると、すぐに転身して横から、背後から、連続で攻撃を繰り出して行く。素早さに自信のあるツァイネだからこそできる攻撃だった。
『何っ! 初めの一撃が防がれるのを見越しての攻撃だとっ?』
「そうだよ。本来、こんな無茶をすれば武器に途方も無い負担がかかる。でもね、この武器なら、やれると踏んだんだ!」
攻撃自体はその後も防がれ続けていたが、それでもなお攻撃を重ねていく。
「ほら、防戦一方じゃ勝てないよ!?」
『小賢しい真似を!』
いよいよ、ヘルツォークが反撃に出ようとした。ツァイネの攻撃を受けたその体をいなし、力を逃がして相手の隙を突く。セオリー通りの、とてもいい反撃だ。しかし、それこそがツァイネの狙いだった。
「今だ!」
こちらもくるりと転身して、振り下ろされた剣が当たらない位置に立つと、そのまま素早い突きを繰り出した。鎧の上からでもダメージを与えられるよう、何度も何度も、手を緩めることなく放った。
『ぬおおおぉぉぉぉ!!!』
鎧越しにどの程度ダメージが入っているかはわからない。だからこそ、この武器の力を信じるほかはなかった。あわよくば、鎧を破壊することができれば最高だ。
「でりゃあああっ!!」
最後の一撃は、再び大きく踏み込んでの突き。不意をつかれた連続攻撃に、ヘルツォークは再び大きく吹き飛ばされた。
『くそ……人間風情にこのような……!』
ダメージからか、その声はかすれていた。
〜つづく〜




